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41話
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「……だ、誰か……水……を……」
なのに反応はなかった。
この囮、思った以上に厄介かもしれない。
死を覚悟するしかなかった。
その時、上の方から声が聞こえた。
「エリーゼ様、この窓の隙間から水の入った容器を投げ入れます」
わたしは慌てて窓の真下から出来るだけ離れた。
ガタッ
薄暗い牢の中だが、容器がぼんやりと見えた。
竹の筒にしっかり蓋をされていた。
わたしはそれを開けて、急いで水を飲んだ。
口の中が乾燥していた。
体が怠いし、重たい。
今何時なのだろうか………
窓からは、薄暗い感じがする。
わたしが攫われたのが、昼間なので夕方か朝方。
時間の感覚がない今、わたしは牢の中で横になるしかなかった。
硬い冷たい床に、横になっていると身体中が痛い。
熱も出てきているようだ。
毒が回っているのがわかる。
『必ず守る』
何処が守るよ!
わたしは重い頭の中で、殿下やお父様に文句を言って気を紛らわせていた。
しばらくするとまた窓から声が聞こえてきた。
「エリーゼ様、解毒剤の新しいのを持ってきました。昼間飲まされた毒の解析がやっと終わりました。この薬なら効果があります」
さっき飲んだ解毒剤は、一応何にでも効きやすいと言われたものだが、特殊な毒には効かない。
わたしは上から投げられた解毒剤と水をなんとか受け取り、もう一度飲んだ。
どれくらいで効くのだろうか。
これからわたしはどうなるのか?
またすぐに地下牢の処刑台に連れていかれるのか。
それともここでしばらく放置されるのか。
考えようとしても頭が働かない。
わたしは解毒剤を飲んだ後、また意識を手放した。
◇ ◇ ◇
~クロード殿下~
予定通りエリーゼは、倒れた。
だが、慌ててエリーゼの護衛騎士が、紅茶を染み込ませたハンカチを持ってきた。
毒をマリーナがすり替えていると聞いて、僕は急ぎ薬物研究所に毒の解析を依頼した。
エリーゼは、ハウエル公爵の別邸の地下牢に運ばれた。
影を数人付けているが、地下牢に忍び込むのは今のところ難しい。それでも空気窓からエリーゼの姿を伺うことが出来ると報告がきた。
エリーゼは冷たい床に捨て置かれ寝ているらしい。
急ぎ助けに行こうとしたが、父上に止められた。
「先にエリーゼの毒の解析が先だ。早く解毒剤を渡せるように手配するんだ。そして公爵達の動きを見張り全員を取り押さえろ」
エリーゼが苦しんでいるのに、彼女を囮にまだ使おうというのか?
僕の言いたいことをわかって、父上は
「エリーゼが苦しんでいるのはわかっている。でもせっかくエリーゼがこんな苦しい思いをしているのに、何の成果もない方がエリーゼに申し訳ない」
「とにかく急ぐんだ」
影達はエリーゼの様子をずっと見守ってくれている。
マリーナがもし処刑しようものなら、影達が命を懸けて守ると言ってくれている。
今は彼らを信用するしかない。
エリーゼから受け取った魔石には、マリーナの悪意のある映像と話が映し出された。
僕が前回のめり込んでしまった美しいマリーナ。
そのマリーナの面影は全くなかった。
どうしてこんな醜い女に溺れてしまったのだろう。
これでマリーナは断罪できる。
そして、父親でもあるハウエル公爵も捕まえられる。
だが、まだお祖父様と母上の確固たる証拠がない。
エリーゼやヴィクトリア様に接触してくれればいいのだが。
ヴィクトリア様は、攫われてエリーゼの居る地下牢ではなく、屋敷の一室に監禁されている。
何故、エリーゼだけあんな酷い場所に入れるのか。
このままでは毒が全身に回っていつ死ぬかわからない。
僕は囮にさせた事を後悔していた。
エリーゼの父のバセット公爵とスコット殿も、僕の話しを聞いて青褪めていた。
前回のエリーゼの事が思い出される。
マリーナとハウエル公爵が、エリーゼを処刑するかもしれない。
でも今僕たちが動けば、この作戦が駄目になる。
早く、解毒剤をエリーゼに飲ませてあげなければ。
僕は、あの時エリーゼが処刑され死んだのに、マリーナとの情事に溺れて朝までマリーナを抱き続けていた。
あの時の僕と今の僕は同じなのだ。記憶を持っている。いくらやり直しをしても後悔しても、僕なんだ。
今、エリーゼが僕をずっと拒む本当の気持ちが分かった気がした。
いくら変わろうとしても、僕の本質はマリーナに溺れエリーゼを裏切った男。
エリーゼが助かって全てを終わらせたら、僕はエリーゼを諦める。
それが僕の出来る唯一の贖罪なんだ。
◆ ◆ ◆
38話で
レンスをレオンと間違えていました。
訂正しています。
教えていただきありがとうございます!
感謝です。
なのに反応はなかった。
この囮、思った以上に厄介かもしれない。
死を覚悟するしかなかった。
その時、上の方から声が聞こえた。
「エリーゼ様、この窓の隙間から水の入った容器を投げ入れます」
わたしは慌てて窓の真下から出来るだけ離れた。
ガタッ
薄暗い牢の中だが、容器がぼんやりと見えた。
竹の筒にしっかり蓋をされていた。
わたしはそれを開けて、急いで水を飲んだ。
口の中が乾燥していた。
体が怠いし、重たい。
今何時なのだろうか………
窓からは、薄暗い感じがする。
わたしが攫われたのが、昼間なので夕方か朝方。
時間の感覚がない今、わたしは牢の中で横になるしかなかった。
硬い冷たい床に、横になっていると身体中が痛い。
熱も出てきているようだ。
毒が回っているのがわかる。
『必ず守る』
何処が守るよ!
わたしは重い頭の中で、殿下やお父様に文句を言って気を紛らわせていた。
しばらくするとまた窓から声が聞こえてきた。
「エリーゼ様、解毒剤の新しいのを持ってきました。昼間飲まされた毒の解析がやっと終わりました。この薬なら効果があります」
さっき飲んだ解毒剤は、一応何にでも効きやすいと言われたものだが、特殊な毒には効かない。
わたしは上から投げられた解毒剤と水をなんとか受け取り、もう一度飲んだ。
どれくらいで効くのだろうか。
これからわたしはどうなるのか?
またすぐに地下牢の処刑台に連れていかれるのか。
それともここでしばらく放置されるのか。
考えようとしても頭が働かない。
わたしは解毒剤を飲んだ後、また意識を手放した。
◇ ◇ ◇
~クロード殿下~
予定通りエリーゼは、倒れた。
だが、慌ててエリーゼの護衛騎士が、紅茶を染み込ませたハンカチを持ってきた。
毒をマリーナがすり替えていると聞いて、僕は急ぎ薬物研究所に毒の解析を依頼した。
エリーゼは、ハウエル公爵の別邸の地下牢に運ばれた。
影を数人付けているが、地下牢に忍び込むのは今のところ難しい。それでも空気窓からエリーゼの姿を伺うことが出来ると報告がきた。
エリーゼは冷たい床に捨て置かれ寝ているらしい。
急ぎ助けに行こうとしたが、父上に止められた。
「先にエリーゼの毒の解析が先だ。早く解毒剤を渡せるように手配するんだ。そして公爵達の動きを見張り全員を取り押さえろ」
エリーゼが苦しんでいるのに、彼女を囮にまだ使おうというのか?
僕の言いたいことをわかって、父上は
「エリーゼが苦しんでいるのはわかっている。でもせっかくエリーゼがこんな苦しい思いをしているのに、何の成果もない方がエリーゼに申し訳ない」
「とにかく急ぐんだ」
影達はエリーゼの様子をずっと見守ってくれている。
マリーナがもし処刑しようものなら、影達が命を懸けて守ると言ってくれている。
今は彼らを信用するしかない。
エリーゼから受け取った魔石には、マリーナの悪意のある映像と話が映し出された。
僕が前回のめり込んでしまった美しいマリーナ。
そのマリーナの面影は全くなかった。
どうしてこんな醜い女に溺れてしまったのだろう。
これでマリーナは断罪できる。
そして、父親でもあるハウエル公爵も捕まえられる。
だが、まだお祖父様と母上の確固たる証拠がない。
エリーゼやヴィクトリア様に接触してくれればいいのだが。
ヴィクトリア様は、攫われてエリーゼの居る地下牢ではなく、屋敷の一室に監禁されている。
何故、エリーゼだけあんな酷い場所に入れるのか。
このままでは毒が全身に回っていつ死ぬかわからない。
僕は囮にさせた事を後悔していた。
エリーゼの父のバセット公爵とスコット殿も、僕の話しを聞いて青褪めていた。
前回のエリーゼの事が思い出される。
マリーナとハウエル公爵が、エリーゼを処刑するかもしれない。
でも今僕たちが動けば、この作戦が駄目になる。
早く、解毒剤をエリーゼに飲ませてあげなければ。
僕は、あの時エリーゼが処刑され死んだのに、マリーナとの情事に溺れて朝までマリーナを抱き続けていた。
あの時の僕と今の僕は同じなのだ。記憶を持っている。いくらやり直しをしても後悔しても、僕なんだ。
今、エリーゼが僕をずっと拒む本当の気持ちが分かった気がした。
いくら変わろうとしても、僕の本質はマリーナに溺れエリーゼを裏切った男。
エリーゼが助かって全てを終わらせたら、僕はエリーゼを諦める。
それが僕の出来る唯一の贖罪なんだ。
◆ ◆ ◆
38話で
レンスをレオンと間違えていました。
訂正しています。
教えていただきありがとうございます!
感謝です。
応援ありがとうございます!
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