43 / 110
41話
しおりを挟む
「……だ、誰か……水……を……」
なのに反応はなかった。
この囮、思った以上に厄介かもしれない。
死を覚悟するしかなかった。
その時、上の方から声が聞こえた。
「エリーゼ様、この窓の隙間から水の入った容器を投げ入れます」
わたしは慌てて窓の真下から出来るだけ離れた。
ガタッ
薄暗い牢の中だが、容器がぼんやりと見えた。
竹の筒にしっかり蓋をされていた。
わたしはそれを開けて、急いで水を飲んだ。
口の中が乾燥していた。
体が怠いし、重たい。
今何時なのだろうか………
窓からは、薄暗い感じがする。
わたしが攫われたのが、昼間なので夕方か朝方。
時間の感覚がない今、わたしは牢の中で横になるしかなかった。
硬い冷たい床に、横になっていると身体中が痛い。
熱も出てきているようだ。
毒が回っているのがわかる。
『必ず守る』
何処が守るよ!
わたしは重い頭の中で、殿下やお父様に文句を言って気を紛らわせていた。
しばらくするとまた窓から声が聞こえてきた。
「エリーゼ様、解毒剤の新しいのを持ってきました。昼間飲まされた毒の解析がやっと終わりました。この薬なら効果があります」
さっき飲んだ解毒剤は、一応何にでも効きやすいと言われたものだが、特殊な毒には効かない。
わたしは上から投げられた解毒剤と水をなんとか受け取り、もう一度飲んだ。
どれくらいで効くのだろうか。
これからわたしはどうなるのか?
またすぐに地下牢の処刑台に連れていかれるのか。
それともここでしばらく放置されるのか。
考えようとしても頭が働かない。
わたしは解毒剤を飲んだ後、また意識を手放した。
◇ ◇ ◇
~クロード殿下~
予定通りエリーゼは、倒れた。
だが、慌ててエリーゼの護衛騎士が、紅茶を染み込ませたハンカチを持ってきた。
毒をマリーナがすり替えていると聞いて、僕は急ぎ薬物研究所に毒の解析を依頼した。
エリーゼは、ハウエル公爵の別邸の地下牢に運ばれた。
影を数人付けているが、地下牢に忍び込むのは今のところ難しい。それでも空気窓からエリーゼの姿を伺うことが出来ると報告がきた。
エリーゼは冷たい床に捨て置かれ寝ているらしい。
急ぎ助けに行こうとしたが、父上に止められた。
「先にエリーゼの毒の解析が先だ。早く解毒剤を渡せるように手配するんだ。そして公爵達の動きを見張り全員を取り押さえろ」
エリーゼが苦しんでいるのに、彼女を囮にまだ使おうというのか?
僕の言いたいことをわかって、父上は
「エリーゼが苦しんでいるのはわかっている。でもせっかくエリーゼがこんな苦しい思いをしているのに、何の成果もない方がエリーゼに申し訳ない」
「とにかく急ぐんだ」
影達はエリーゼの様子をずっと見守ってくれている。
マリーナがもし処刑しようものなら、影達が命を懸けて守ると言ってくれている。
今は彼らを信用するしかない。
エリーゼから受け取った魔石には、マリーナの悪意のある映像と話が映し出された。
僕が前回のめり込んでしまった美しいマリーナ。
そのマリーナの面影は全くなかった。
どうしてこんな醜い女に溺れてしまったのだろう。
これでマリーナは断罪できる。
そして、父親でもあるハウエル公爵も捕まえられる。
だが、まだお祖父様と母上の確固たる証拠がない。
エリーゼやヴィクトリア様に接触してくれればいいのだが。
ヴィクトリア様は、攫われてエリーゼの居る地下牢ではなく、屋敷の一室に監禁されている。
何故、エリーゼだけあんな酷い場所に入れるのか。
このままでは毒が全身に回っていつ死ぬかわからない。
僕は囮にさせた事を後悔していた。
エリーゼの父のバセット公爵とスコット殿も、僕の話しを聞いて青褪めていた。
前回のエリーゼの事が思い出される。
マリーナとハウエル公爵が、エリーゼを処刑するかもしれない。
でも今僕たちが動けば、この作戦が駄目になる。
早く、解毒剤をエリーゼに飲ませてあげなければ。
僕は、あの時エリーゼが処刑され死んだのに、マリーナとの情事に溺れて朝までマリーナを抱き続けていた。
あの時の僕と今の僕は同じなのだ。記憶を持っている。いくらやり直しをしても後悔しても、僕なんだ。
今、エリーゼが僕をずっと拒む本当の気持ちが分かった気がした。
いくら変わろうとしても、僕の本質はマリーナに溺れエリーゼを裏切った男。
エリーゼが助かって全てを終わらせたら、僕はエリーゼを諦める。
それが僕の出来る唯一の贖罪なんだ。
◆ ◆ ◆
38話で
レンスをレオンと間違えていました。
訂正しています。
教えていただきありがとうございます!
感謝です。
なのに反応はなかった。
この囮、思った以上に厄介かもしれない。
死を覚悟するしかなかった。
その時、上の方から声が聞こえた。
「エリーゼ様、この窓の隙間から水の入った容器を投げ入れます」
わたしは慌てて窓の真下から出来るだけ離れた。
ガタッ
薄暗い牢の中だが、容器がぼんやりと見えた。
竹の筒にしっかり蓋をされていた。
わたしはそれを開けて、急いで水を飲んだ。
口の中が乾燥していた。
体が怠いし、重たい。
今何時なのだろうか………
窓からは、薄暗い感じがする。
わたしが攫われたのが、昼間なので夕方か朝方。
時間の感覚がない今、わたしは牢の中で横になるしかなかった。
硬い冷たい床に、横になっていると身体中が痛い。
熱も出てきているようだ。
毒が回っているのがわかる。
『必ず守る』
何処が守るよ!
わたしは重い頭の中で、殿下やお父様に文句を言って気を紛らわせていた。
しばらくするとまた窓から声が聞こえてきた。
「エリーゼ様、解毒剤の新しいのを持ってきました。昼間飲まされた毒の解析がやっと終わりました。この薬なら効果があります」
さっき飲んだ解毒剤は、一応何にでも効きやすいと言われたものだが、特殊な毒には効かない。
わたしは上から投げられた解毒剤と水をなんとか受け取り、もう一度飲んだ。
どれくらいで効くのだろうか。
これからわたしはどうなるのか?
またすぐに地下牢の処刑台に連れていかれるのか。
それともここでしばらく放置されるのか。
考えようとしても頭が働かない。
わたしは解毒剤を飲んだ後、また意識を手放した。
◇ ◇ ◇
~クロード殿下~
予定通りエリーゼは、倒れた。
だが、慌ててエリーゼの護衛騎士が、紅茶を染み込ませたハンカチを持ってきた。
毒をマリーナがすり替えていると聞いて、僕は急ぎ薬物研究所に毒の解析を依頼した。
エリーゼは、ハウエル公爵の別邸の地下牢に運ばれた。
影を数人付けているが、地下牢に忍び込むのは今のところ難しい。それでも空気窓からエリーゼの姿を伺うことが出来ると報告がきた。
エリーゼは冷たい床に捨て置かれ寝ているらしい。
急ぎ助けに行こうとしたが、父上に止められた。
「先にエリーゼの毒の解析が先だ。早く解毒剤を渡せるように手配するんだ。そして公爵達の動きを見張り全員を取り押さえろ」
エリーゼが苦しんでいるのに、彼女を囮にまだ使おうというのか?
僕の言いたいことをわかって、父上は
「エリーゼが苦しんでいるのはわかっている。でもせっかくエリーゼがこんな苦しい思いをしているのに、何の成果もない方がエリーゼに申し訳ない」
「とにかく急ぐんだ」
影達はエリーゼの様子をずっと見守ってくれている。
マリーナがもし処刑しようものなら、影達が命を懸けて守ると言ってくれている。
今は彼らを信用するしかない。
エリーゼから受け取った魔石には、マリーナの悪意のある映像と話が映し出された。
僕が前回のめり込んでしまった美しいマリーナ。
そのマリーナの面影は全くなかった。
どうしてこんな醜い女に溺れてしまったのだろう。
これでマリーナは断罪できる。
そして、父親でもあるハウエル公爵も捕まえられる。
だが、まだお祖父様と母上の確固たる証拠がない。
エリーゼやヴィクトリア様に接触してくれればいいのだが。
ヴィクトリア様は、攫われてエリーゼの居る地下牢ではなく、屋敷の一室に監禁されている。
何故、エリーゼだけあんな酷い場所に入れるのか。
このままでは毒が全身に回っていつ死ぬかわからない。
僕は囮にさせた事を後悔していた。
エリーゼの父のバセット公爵とスコット殿も、僕の話しを聞いて青褪めていた。
前回のエリーゼの事が思い出される。
マリーナとハウエル公爵が、エリーゼを処刑するかもしれない。
でも今僕たちが動けば、この作戦が駄目になる。
早く、解毒剤をエリーゼに飲ませてあげなければ。
僕は、あの時エリーゼが処刑され死んだのに、マリーナとの情事に溺れて朝までマリーナを抱き続けていた。
あの時の僕と今の僕は同じなのだ。記憶を持っている。いくらやり直しをしても後悔しても、僕なんだ。
今、エリーゼが僕をずっと拒む本当の気持ちが分かった気がした。
いくら変わろうとしても、僕の本質はマリーナに溺れエリーゼを裏切った男。
エリーゼが助かって全てを終わらせたら、僕はエリーゼを諦める。
それが僕の出来る唯一の贖罪なんだ。
◆ ◆ ◆
38話で
レンスをレオンと間違えていました。
訂正しています。
教えていただきありがとうございます!
感謝です。
130
お気に入りに追加
4,844
あなたにおすすめの小説

愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する
ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。
その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。
シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。
皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。
やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。
愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。
今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。
シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す―
一部タイトルを変更しました。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません
天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。
私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。
処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。
魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。
【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。
るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」
色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。
……ほんとに屑だわ。
結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。
彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。
彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】
雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。
誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。
ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。
彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。
※読んでくださりありがとうございます。
ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

【完結】領主の妻になりました
青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」
司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。
===============================================
オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。
挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。
クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。
新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。
マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。
ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。
捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。
長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。
新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。
フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。
フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。
ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。
========================================
*荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください
*約10万字で最終話を含めて全29話です
*他のサイトでも公開します
*10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします
*誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

【完結】婚約破棄されたから静かに過ごしたかったけど無理でした
かんな
恋愛
カトリーヌ・エルノーはレオナルド・オルコットと婚約者だ。
二人の間には愛などなく、婚約者なのに挨拶もなく、冷え切った生活を送る日々。そんなある日、殿下に婚約破棄を言い渡され――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる