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36話
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「泳がして監視しているのですか?」
わたしの問いに殿下はじっと考えながら話を続けた。
「多少の犠牲は目をつぶるしかない。騙された方も私利私欲に負けてしまっているからね。ただそれによりお金が入ってきて貴族派が力をつけて来ているんだ。騙されているのはいずれ王族派になる貴族達だ」
「では力が削がれているのではないですか?」
「うん、だから彼らにも王家がこっそりとわからないように狙われやすい鉱山の開発をして、もう先にいい物は取り尽くしているんだ。そして屑になった領地を相手に渡しているんだ」
殿下がクスクス笑っている。
「あんな屑の土地を高いお金を払って人を沢山入れて掘っても赤字になるだけだ。王族派からバレないように職人達を鉱山に回しているからね、かなりのお金を今回収出来ているはずだ」
わたしを見て悪戯をした楽しそうな顔をして
「ついでに彼らが僕たちを罠に嵌めようとこちらしか見ていないうちに、彼らの領地の不当に虐げられている者たちの土地を、王族派の者達が買い取っているんだ。
生きて行く事が難しくなっている領民達も沢山いるんだ。
あの人達は自分の利益を優先して下の者達から不当に税金を搾り取っている。
餓死しようと気にもしていない。それに利益のない不作の続いている土地は、領主も喜んで売ってしまう。
それを父上と僕達の私財を使って買い取っている。
もちろん他の信用できる貴族にさせているから王家の名は出ていない。
そこはいずれ天候が良くなって土地改良すれば沢山の作物がまた作れるようになるんだ」
殿下は楽しそうだった。
「僕たちが買い取ったところに住んでいる人たちには今仕事として雇い、土地改良をして作物が出来やすい土地に変えさせているんだ。
土がやせてしまって植物が育ちにくくなっている畑に植物の灰を栄養として農業に活用する計画を立てているんだ。さらに貝殻の粉や魚の骨などを乾燥させて混ぜてね。それを農民達の仕事にして給金を渡して生活を支えている。
それにね、定期的に畑の作物を変えることで生産性が高い土壌を作る「輪作」もこれからは行う予定なんだ。豆類と穀物を交互に植える輪作を行って地力を回復させる。
この方法は地質学を習っている時に、隣国で行われている農業の仕方の一つとして知ったんだ。
これなら困っている農民達の支えになるかもしれないと試しで始めているんだ。今少しずつ成果が出始めている」
殿下の目が輝いて見えた。
いつもわたしにすまなそうに暗い顔をしていた殿下が、自信に溢れ先を見据えて動いている。
前回の彼は、いつもわたしにイライラして不機嫌で、何かと絡んできていた。
あとはマリーナ様といつもイチャついて、わたしの前であからさまに蔑んで馬鹿にしているだけだった。
そんな彼に愛情なんて湧くはずもなく、ただただ嫌いだった。
今も別に好きかと言われれば全く好きではない。
でも、頑なに嫌っていた最初の頃よりは少し見直してはいる。
前回の殿下と今の殿下は違う。
そう思って見るように頑張っている。
まあ、頑張っているだけで、なかなか以前の殿下の事を忘れることは出来ない。
マリーナ様は、これからどうするのだろう。
目の前でわたしが倒れて、いい気味だと思っただろうか。
愛されているのは自分なのにと、わたしを憎悪の目で見ているのだろうか。
どうやってわたしを今度は殺そうかと楽しみにしているのかもしれない。
殿下の話を聞きながら、わたしはマリーナ様のことをつい考えてしまった。
「エリーゼ、やはり体調が優れないんだな。ごめんね。話が長くなってしまって」
わたしに横になるようにと言って、毛布をそっと掛けてくれた。
そして、殿下はわたしのおでこにそっとキスを落として「ゆっくり寝てね」と言って部屋を出た。
わたしは呆然として何が起こったのか分からなかった。
(な、なに?え?……ええー⁈)
わたしはおでこをごしごし擦って、真っ赤になったおでこと頬を冷たいタオルでしばらく冷やすことになった。
わたしの問いに殿下はじっと考えながら話を続けた。
「多少の犠牲は目をつぶるしかない。騙された方も私利私欲に負けてしまっているからね。ただそれによりお金が入ってきて貴族派が力をつけて来ているんだ。騙されているのはいずれ王族派になる貴族達だ」
「では力が削がれているのではないですか?」
「うん、だから彼らにも王家がこっそりとわからないように狙われやすい鉱山の開発をして、もう先にいい物は取り尽くしているんだ。そして屑になった領地を相手に渡しているんだ」
殿下がクスクス笑っている。
「あんな屑の土地を高いお金を払って人を沢山入れて掘っても赤字になるだけだ。王族派からバレないように職人達を鉱山に回しているからね、かなりのお金を今回収出来ているはずだ」
わたしを見て悪戯をした楽しそうな顔をして
「ついでに彼らが僕たちを罠に嵌めようとこちらしか見ていないうちに、彼らの領地の不当に虐げられている者たちの土地を、王族派の者達が買い取っているんだ。
生きて行く事が難しくなっている領民達も沢山いるんだ。
あの人達は自分の利益を優先して下の者達から不当に税金を搾り取っている。
餓死しようと気にもしていない。それに利益のない不作の続いている土地は、領主も喜んで売ってしまう。
それを父上と僕達の私財を使って買い取っている。
もちろん他の信用できる貴族にさせているから王家の名は出ていない。
そこはいずれ天候が良くなって土地改良すれば沢山の作物がまた作れるようになるんだ」
殿下は楽しそうだった。
「僕たちが買い取ったところに住んでいる人たちには今仕事として雇い、土地改良をして作物が出来やすい土地に変えさせているんだ。
土がやせてしまって植物が育ちにくくなっている畑に植物の灰を栄養として農業に活用する計画を立てているんだ。さらに貝殻の粉や魚の骨などを乾燥させて混ぜてね。それを農民達の仕事にして給金を渡して生活を支えている。
それにね、定期的に畑の作物を変えることで生産性が高い土壌を作る「輪作」もこれからは行う予定なんだ。豆類と穀物を交互に植える輪作を行って地力を回復させる。
この方法は地質学を習っている時に、隣国で行われている農業の仕方の一つとして知ったんだ。
これなら困っている農民達の支えになるかもしれないと試しで始めているんだ。今少しずつ成果が出始めている」
殿下の目が輝いて見えた。
いつもわたしにすまなそうに暗い顔をしていた殿下が、自信に溢れ先を見据えて動いている。
前回の彼は、いつもわたしにイライラして不機嫌で、何かと絡んできていた。
あとはマリーナ様といつもイチャついて、わたしの前であからさまに蔑んで馬鹿にしているだけだった。
そんな彼に愛情なんて湧くはずもなく、ただただ嫌いだった。
今も別に好きかと言われれば全く好きではない。
でも、頑なに嫌っていた最初の頃よりは少し見直してはいる。
前回の殿下と今の殿下は違う。
そう思って見るように頑張っている。
まあ、頑張っているだけで、なかなか以前の殿下の事を忘れることは出来ない。
マリーナ様は、これからどうするのだろう。
目の前でわたしが倒れて、いい気味だと思っただろうか。
愛されているのは自分なのにと、わたしを憎悪の目で見ているのだろうか。
どうやってわたしを今度は殺そうかと楽しみにしているのかもしれない。
殿下の話を聞きながら、わたしはマリーナ様のことをつい考えてしまった。
「エリーゼ、やはり体調が優れないんだな。ごめんね。話が長くなってしまって」
わたしに横になるようにと言って、毛布をそっと掛けてくれた。
そして、殿下はわたしのおでこにそっとキスを落として「ゆっくり寝てね」と言って部屋を出た。
わたしは呆然として何が起こったのか分からなかった。
(な、なに?え?……ええー⁈)
わたしはおでこをごしごし擦って、真っ赤になったおでこと頬を冷たいタオルでしばらく冷やすことになった。
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