【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ

文字の大きさ
上 下
31 / 110

29話

しおりを挟む
わたしの酷い言葉に殿下はかなり傷ついているのがわかっているのに止められなかった。

「………殿下、すみません。今の貴方が何もしていないのはわかっているのです。だから、責めるのはおかしいことも理解しているのです。でも前回のことを完全に覚えているわたしには、今もまだ続いている状態なんです。
わたしだって感情はあります。辛かったり苦しかったり悲しかったりもしました。どうして婚約破棄をしてくれないのか悩みました」

「すまない。僕が弱い人間だったんだ。君のことを離してあげれないくらい愛しているのに、僕はマリーナとの関係に溺れていた。
それを君は、彼女を愛していたからだと言うが、それは違う。男なんて狡いものなんだ。君のことを思いながらマリーナを抱いていたんだ、君の代わりに」

わたしはそれを聞いて
「気持ち悪い」と思わず言ってしまった。

「うん、そうだと思う。でもこれが偽りない気持ちなんだ。君が僕のことをなんとも思っていないことはわかっていたんだ。それでも僕は君が好きで愛していたんだ」

わたしは、これ以上話しを続けられない。

やはり今すぐに向き合うことは出来ない。

「殿下、申し訳ありません。これ以上続けてもお互い傷つけ合うだけです。今日はもう終わりにしませんか?」

殿下はわたしの言葉を聞いてとても傷ついた顔をしていた。

それでも無理矢理納得してくれた。

「わかった。また、会いにくる」

(会いに来なくていい!来ないで!)
わたしは言葉を飲み込んで殿下が部屋から出て行くまで頭を下げていた。

殿下が部屋を出てホッとしたのも束の間、もう一人無言で座っているがいる。

「お父様、ご一緒に帰られたらよかったのに」

もう、殿下の前であれだけの事を言ったので、今更猫を被る必要もない。

「わたしはエリーゼともう一度やり直したいと思っていたんだ。君に記憶があると知った瞬間、それは諦めたよ。
どう考えてもわたし達を恨む事はあっても家族としての仲を取り戻すことは出来ないとわかっているからね。
許して欲しいわけではない。
ただ、謝りたかったんだ」

「何にですか?」

「君を屋敷に一人っきりにしていた事。それが幼い子にとってどれくらい寂しいことかなんて考えていなかった。君が幸せになれるならと殿下との婚約を了承したが間違っていた。君のためだと屋敷に閉じ込めたことも君からすれば軟禁でしかなかったんだ。良かれと思ってしたこと、そう思い込んでいた。
すまなかった。エリーゼの人生を壊したのはわたしだ。処刑されたと聞いた時、絶望感と後悔しかなかった」

お父様は肩を震わせてないていた。

この人のこんな弱った姿を初めて見た。

だからと言って許せるわけもなく、
「お父様、謝罪は受け入れます。なのでわたしの前から消えてください」
わたしは冷たく言い放った。

「……わかったエリーゼ………失礼するよ」

お父様はこれ以上何も言わずに部屋を出て行った。

わたしは二人に対してなんて冷たい、酷いことしか言えないのか。
聞く耳も持たずにこんな酷い態度を取るなんて、頭の中ではいけない事だとわかっているのに感情がついて行かない。

やはり王宮などに来るべきではなかった。

孤児院にも居られないのなら何処か誰に分からない場所へ行くしかないのかもしれない。

どうして巻き戻ってしまったのだろう。
死んで記憶が残ったまま生きるのは、心が重たくてしんどい。

いつも鉛を心に抱えて息をしている。

何度、処刑される時の夢を見ただろう。

何度、殿下とマリーナ様が抱き合う姿を思い出したのだろう。

何度、殿下から罵倒された時を思い出しただろう。

何度、お父様のあの冷たい目を思い出して泣きそうになったことか。

何度も何度も、前回の辛い時の事を思い出して、心が壊れていく。もう元に戻る事はないのかもしれない。

そんなわたしの心を癒してくれた孤児院での生活。

わたしを必要としてくれて、不器用で何も出来ないわたしにみんなが丁寧にゆっくり教えてくれた。

笑う事を教えてくれた。
怒る事を教えてくれた。
泣くことも教えてくれた。

今わたしが、殿下やお父様にこんなに感情をぶつけられたのも、孤児院のみんなのおかげだ。
わたしに生きることの楽しさや大変さを教えてくれた。

わたしは無性に院長先生に会いたくて、部屋を飛び出した。

「お待ちください、どこへ行かれるのですか?」

部屋の外で護衛のため立っていた騎士に呼び止められた。

「院長先生に会いたいの」

わたしは涙をポロポロ流しながら必死で騎士に訴えた。

「少しお待ちください」

一人の騎士が急いで立ち去って行った。

「お嬢様、先方に伺ってきますから泣かないで少しお待ちください」

わたしは元居た部屋に戻されて、椅子に座りジュースを飲まされていた。

(うっ……まるで子どもをあやすみたいに……恥ずかしい)
わたしはつい感情的になってしまってしょんぼりしていた。

騎士さんが頭を撫でて、
「すみません、お嬢様達の話が聞こえていました。
……信じられない話しですが本当のことのようですね。
公爵と王子がそんな作り話をするわけがないし、お嬢様が二人にあんなに怒っても二人は怒り返さなかった。辛かったですね」

わたしは信じられないものでも見たかのような目で騎士さんを見た。

「わたしの話を信じてくれるのですか?」

「信じられない話ですが、三人はあたかも今あったように話していました。
それに陛下に何を聞いても疑うなとお嬢様の護衛を言い使ったわたし達は言われておりました。
まさかこんな話が聞こえてくるとは思いませんでしたが、陛下はご存知なのですね」

「………はい」

「ではもう少しだけお待ちください。たぶん院長先生、いやヴィクトリア様にお会いできると思いますので」
騎士さんは優しくわたしに言ってくれた。

それ以上のことを騎士さんは聞いてこなかった。

ただ「わたしにも娘がいます。だからお嬢様の話しは他人事として聞くことが出来ませんでした」
と優しく微笑んでくれた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する

ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。 その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。 シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。 皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。 やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。 愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。 今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。 シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す― 一部タイトルを変更しました。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

【完結】領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

【完結】婚約破棄されたから静かに過ごしたかったけど無理でした

かんな
恋愛
カトリーヌ・エルノーはレオナルド・オルコットと婚約者だ。 二人の間には愛などなく、婚約者なのに挨拶もなく、冷え切った生活を送る日々。そんなある日、殿下に婚約破棄を言い渡され――?

処理中です...