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29話
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わたしの酷い言葉に殿下はかなり傷ついているのがわかっているのに止められなかった。
「………殿下、すみません。今の貴方が何もしていないのはわかっているのです。だから、責めるのはおかしいことも理解しているのです。でも前回のことを完全に覚えているわたしには、今もまだ続いている状態なんです。
わたしだって感情はあります。辛かったり苦しかったり悲しかったりもしました。どうして婚約破棄をしてくれないのか悩みました」
「すまない。僕が弱い人間だったんだ。君のことを離してあげれないくらい愛しているのに、僕はマリーナとの関係に溺れていた。
それを君は、彼女を愛していたからだと言うが、それは違う。男なんて狡いものなんだ。君のことを思いながらマリーナを抱いていたんだ、君の代わりに」
わたしはそれを聞いて
「気持ち悪い」と思わず言ってしまった。
「うん、そうだと思う。でもこれが偽りない気持ちなんだ。君が僕のことをなんとも思っていないことはわかっていたんだ。それでも僕は君が好きで愛していたんだ」
わたしは、これ以上話しを続けられない。
やはり今すぐに向き合うことは出来ない。
「殿下、申し訳ありません。これ以上続けてもお互い傷つけ合うだけです。今日はもう終わりにしませんか?」
殿下はわたしの言葉を聞いてとても傷ついた顔をしていた。
それでも無理矢理納得してくれた。
「わかった。また、会いにくる」
(会いに来なくていい!来ないで!)
わたしは言葉を飲み込んで殿下が部屋から出て行くまで頭を下げていた。
殿下が部屋を出てホッとしたのも束の間、もう一人無言で座っている奴がいる。
「お父様、ご一緒に帰られたらよかったのに」
もう、殿下の前であれだけの事を言ったので、今更猫を被る必要もない。
「わたしはエリーゼともう一度やり直したいと思っていたんだ。君に記憶があると知った瞬間、それは諦めたよ。
どう考えてもわたし達を恨む事はあっても家族としての仲を取り戻すことは出来ないとわかっているからね。
許して欲しいわけではない。
ただ、謝りたかったんだ」
「何にですか?」
「君を屋敷に一人っきりにしていた事。それが幼い子にとってどれくらい寂しいことかなんて考えていなかった。君が幸せになれるならと殿下との婚約を了承したが間違っていた。君のためだと屋敷に閉じ込めたことも君からすれば軟禁でしかなかったんだ。良かれと思ってしたこと、そう思い込んでいた。
すまなかった。エリーゼの人生を壊したのはわたしだ。処刑されたと聞いた時、絶望感と後悔しかなかった」
お父様は肩を震わせてないていた。
この人のこんな弱った姿を初めて見た。
だからと言って許せるわけもなく、
「お父様、謝罪は受け入れます。なのでわたしの前から消えてください」
わたしは冷たく言い放った。
「……わかったエリーゼ………失礼するよ」
お父様はこれ以上何も言わずに部屋を出て行った。
わたしは二人に対してなんて冷たい、酷いことしか言えないのか。
聞く耳も持たずにこんな酷い態度を取るなんて、頭の中ではいけない事だとわかっているのに感情がついて行かない。
やはり王宮などに来るべきではなかった。
孤児院にも居られないのなら何処か誰に分からない場所へ行くしかないのかもしれない。
どうして巻き戻ってしまったのだろう。
死んで記憶が残ったまま生きるのは、心が重たくてしんどい。
いつも鉛を心に抱えて息をしている。
何度、処刑される時の夢を見ただろう。
何度、殿下とマリーナ様が抱き合う姿を思い出したのだろう。
何度、殿下から罵倒された時を思い出しただろう。
何度、お父様のあの冷たい目を思い出して泣きそうになったことか。
何度も何度も、前回の辛い時の事を思い出して、心が壊れていく。もう元に戻る事はないのかもしれない。
そんなわたしの心を癒してくれた孤児院での生活。
わたしを必要としてくれて、不器用で何も出来ないわたしにみんなが丁寧にゆっくり教えてくれた。
笑う事を教えてくれた。
怒る事を教えてくれた。
泣くことも教えてくれた。
今わたしが、殿下やお父様にこんなに感情をぶつけられたのも、孤児院のみんなのおかげだ。
わたしに生きることの楽しさや大変さを教えてくれた。
わたしは無性に院長先生に会いたくて、部屋を飛び出した。
「お待ちください、どこへ行かれるのですか?」
部屋の外で護衛のため立っていた騎士に呼び止められた。
「院長先生に会いたいの」
わたしは涙をポロポロ流しながら必死で騎士に訴えた。
「少しお待ちください」
一人の騎士が急いで立ち去って行った。
「お嬢様、先方に伺ってきますから泣かないで少しお待ちください」
わたしは元居た部屋に戻されて、椅子に座りジュースを飲まされていた。
(うっ……まるで子どもをあやすみたいに……恥ずかしい)
わたしはつい感情的になってしまってしょんぼりしていた。
騎士さんが頭を撫でて、
「すみません、お嬢様達の話が聞こえていました。
……信じられない話しですが本当のことのようですね。
公爵と王子がそんな作り話をするわけがないし、お嬢様が二人にあんなに怒っても二人は怒り返さなかった。辛かったですね」
わたしは信じられないものでも見たかのような目で騎士さんを見た。
「わたしの話を信じてくれるのですか?」
「信じられない話ですが、三人はあたかも今あったように話していました。
それに陛下に何を聞いても疑うなとお嬢様の護衛を言い使ったわたし達は言われておりました。
まさかこんな話が聞こえてくるとは思いませんでしたが、陛下はご存知なのですね」
「………はい」
「ではもう少しだけお待ちください。たぶん院長先生、いやヴィクトリア様にお会いできると思いますので」
騎士さんは優しくわたしに言ってくれた。
それ以上のことを騎士さんは聞いてこなかった。
ただ「わたしにも娘がいます。だからお嬢様の話しは他人事として聞くことが出来ませんでした」
と優しく微笑んでくれた。
「………殿下、すみません。今の貴方が何もしていないのはわかっているのです。だから、責めるのはおかしいことも理解しているのです。でも前回のことを完全に覚えているわたしには、今もまだ続いている状態なんです。
わたしだって感情はあります。辛かったり苦しかったり悲しかったりもしました。どうして婚約破棄をしてくれないのか悩みました」
「すまない。僕が弱い人間だったんだ。君のことを離してあげれないくらい愛しているのに、僕はマリーナとの関係に溺れていた。
それを君は、彼女を愛していたからだと言うが、それは違う。男なんて狡いものなんだ。君のことを思いながらマリーナを抱いていたんだ、君の代わりに」
わたしはそれを聞いて
「気持ち悪い」と思わず言ってしまった。
「うん、そうだと思う。でもこれが偽りない気持ちなんだ。君が僕のことをなんとも思っていないことはわかっていたんだ。それでも僕は君が好きで愛していたんだ」
わたしは、これ以上話しを続けられない。
やはり今すぐに向き合うことは出来ない。
「殿下、申し訳ありません。これ以上続けてもお互い傷つけ合うだけです。今日はもう終わりにしませんか?」
殿下はわたしの言葉を聞いてとても傷ついた顔をしていた。
それでも無理矢理納得してくれた。
「わかった。また、会いにくる」
(会いに来なくていい!来ないで!)
わたしは言葉を飲み込んで殿下が部屋から出て行くまで頭を下げていた。
殿下が部屋を出てホッとしたのも束の間、もう一人無言で座っている奴がいる。
「お父様、ご一緒に帰られたらよかったのに」
もう、殿下の前であれだけの事を言ったので、今更猫を被る必要もない。
「わたしはエリーゼともう一度やり直したいと思っていたんだ。君に記憶があると知った瞬間、それは諦めたよ。
どう考えてもわたし達を恨む事はあっても家族としての仲を取り戻すことは出来ないとわかっているからね。
許して欲しいわけではない。
ただ、謝りたかったんだ」
「何にですか?」
「君を屋敷に一人っきりにしていた事。それが幼い子にとってどれくらい寂しいことかなんて考えていなかった。君が幸せになれるならと殿下との婚約を了承したが間違っていた。君のためだと屋敷に閉じ込めたことも君からすれば軟禁でしかなかったんだ。良かれと思ってしたこと、そう思い込んでいた。
すまなかった。エリーゼの人生を壊したのはわたしだ。処刑されたと聞いた時、絶望感と後悔しかなかった」
お父様は肩を震わせてないていた。
この人のこんな弱った姿を初めて見た。
だからと言って許せるわけもなく、
「お父様、謝罪は受け入れます。なのでわたしの前から消えてください」
わたしは冷たく言い放った。
「……わかったエリーゼ………失礼するよ」
お父様はこれ以上何も言わずに部屋を出て行った。
わたしは二人に対してなんて冷たい、酷いことしか言えないのか。
聞く耳も持たずにこんな酷い態度を取るなんて、頭の中ではいけない事だとわかっているのに感情がついて行かない。
やはり王宮などに来るべきではなかった。
孤児院にも居られないのなら何処か誰に分からない場所へ行くしかないのかもしれない。
どうして巻き戻ってしまったのだろう。
死んで記憶が残ったまま生きるのは、心が重たくてしんどい。
いつも鉛を心に抱えて息をしている。
何度、処刑される時の夢を見ただろう。
何度、殿下とマリーナ様が抱き合う姿を思い出したのだろう。
何度、殿下から罵倒された時を思い出しただろう。
何度、お父様のあの冷たい目を思い出して泣きそうになったことか。
何度も何度も、前回の辛い時の事を思い出して、心が壊れていく。もう元に戻る事はないのかもしれない。
そんなわたしの心を癒してくれた孤児院での生活。
わたしを必要としてくれて、不器用で何も出来ないわたしにみんなが丁寧にゆっくり教えてくれた。
笑う事を教えてくれた。
怒る事を教えてくれた。
泣くことも教えてくれた。
今わたしが、殿下やお父様にこんなに感情をぶつけられたのも、孤児院のみんなのおかげだ。
わたしに生きることの楽しさや大変さを教えてくれた。
わたしは無性に院長先生に会いたくて、部屋を飛び出した。
「お待ちください、どこへ行かれるのですか?」
部屋の外で護衛のため立っていた騎士に呼び止められた。
「院長先生に会いたいの」
わたしは涙をポロポロ流しながら必死で騎士に訴えた。
「少しお待ちください」
一人の騎士が急いで立ち去って行った。
「お嬢様、先方に伺ってきますから泣かないで少しお待ちください」
わたしは元居た部屋に戻されて、椅子に座りジュースを飲まされていた。
(うっ……まるで子どもをあやすみたいに……恥ずかしい)
わたしはつい感情的になってしまってしょんぼりしていた。
騎士さんが頭を撫でて、
「すみません、お嬢様達の話が聞こえていました。
……信じられない話しですが本当のことのようですね。
公爵と王子がそんな作り話をするわけがないし、お嬢様が二人にあんなに怒っても二人は怒り返さなかった。辛かったですね」
わたしは信じられないものでも見たかのような目で騎士さんを見た。
「わたしの話を信じてくれるのですか?」
「信じられない話ですが、三人はあたかも今あったように話していました。
それに陛下に何を聞いても疑うなとお嬢様の護衛を言い使ったわたし達は言われておりました。
まさかこんな話が聞こえてくるとは思いませんでしたが、陛下はご存知なのですね」
「………はい」
「ではもう少しだけお待ちください。たぶん院長先生、いやヴィクトリア様にお会いできると思いますので」
騎士さんは優しくわたしに言ってくれた。
それ以上のことを騎士さんは聞いてこなかった。
ただ「わたしにも娘がいます。だからお嬢様の話しは他人事として聞くことが出来ませんでした」
と優しく微笑んでくれた。
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