【完結】どうして殺されたのですか?貴方達の愛はもう要りません  

たろ

文字の大きさ
上 下
21 / 110

19話  ジェフ編

しおりを挟む
エリーゼがいなくなってから、すぐに足取りを追うと孤児院へ向かったことがわかった。

ただ、その孤児院の院長が、最悪だった。

オーリスの友人で陛下の元婚約者。

陛下からも圧力があり、エリーゼは孤児院で預かるので手出し無用と言われた。

動きが早い。

わたしがエリーゼを迎えに来られないように陛下に手を打つなんて。

院長先生である彼女の名前は、ヴィクトリア。
元公爵令嬢だった。

彼女は陛下の婚約者だった。
結婚する半年前に、陛下が今の皇后を妊娠させて婚約破棄になった。

彼女は、公爵当主である父親に「お前が陛下を繋ぎ止めていなかったからだ」と、罵倒され公爵家から除籍された。

その時に、助けたのがうちの屋敷の近くにある孤児院の院長先生だった。

院長先生の実家は、平民だが孤児院をいくつか持っていて運営していた。

ヴィクトリアは暫く手伝いをして、それから隣町の院長先生として孤児院で働き出した。
妻のオーリスは、ヴィクトリアにうちの屋敷に来て欲しいと懇願したが、ヴィクトリアは迷惑はかけたくないと、断った。

彼女のいる孤児院にまさかエリーゼがいるなんて思わなかった。それもヴィクトリアは陛下の力を使ってわたしに手出しさせないようにした。

陛下は自分のしでかした事で、ヴィクトリアの人生を変えてしまった罪悪感から、多少の頼みは聞いてしまう。

もちろんヴィクトリアは、訳の分からない頼み事はしない。
どうしても自身では無理だと思った時だけ頭を下げて陛下に頼んでいる。
以前も、孤児院の子どもが難病になった時、町医者では治せず王宮内の医師に診て欲しいと必死で頼んだ。

そのおかげでその子の命は救われた。
わたしはその橋渡しをした。

彼女は自分の私利私欲で頼む人ではない。
今回のエリーゼのことは、わたしには父親としての資格はないと思われたのだろう。
陛下ならば、公爵のわたしを止めることが出来る力を持つ唯一の人だから。

それは殿下にも及んでいた。

エリーゼへの接近禁止を出された。

それに関してはわたしもホッとしている。
エリーゼも殿下には会いたくはないだろう。また倒れられても困る。




それからのわたしは平民の格好をして、隣町の孤児院へこっそりとエリーゼを見に行くことにした。

エリーゼは、みんなから「リゼ」と呼ばれていた。
初めは表情も固く、ぎこちない様子だったがだんだん明るくなっていった。

水汲みも上手に出来るし、友達と駆けっこしたり、木登りまでしていた。

あの大人しいエリーゼが、笑って子どもらしい表情をしている。

わたしはエリーゼの笑顔を孤児院で初めて見た時、涙が出た。
わたしが奪ってしまった笑顔が戻っていた。
子ども達との生活は、彼女に笑顔と安寧を与えていた。




そして会いたくはないヴィクトリアに会いにいった。



「久しぶりだね」

ヴィクトリアは相変わらず年を取っても綺麗だった。
だが、会った早々辛辣な言葉が返ってきた。

「この屑!駄目父!エリーゼを不幸にして何をしているの!オーリスが知ったら悲しむわよ!」

わたしは返す言葉もなくて、呆然と立ち尽くしていると、さらに追い打ちをかけてきた。

「エリーゼは人生を巻き戻しているわ。貴方もでしょう?」

「…どうして…分かるんだ?」

「だって貴方もエリーゼも絶望を経験した同じ目をしているわ。
エリーゼは全て話してくれたわ。貴方の言い訳くらいなら聞いてあげるわ、許してはあげないけどね」

わたしは、自分が知っている経緯を仕方なく全て話した。

「……そお、やはり悪いのは殿下と屑ね」

「その屑はやめてもらえないか?」

「あら?屑で自分だと分かるの?」

「グッ………自分のやったことは今さら変えられないことくらい分かっている。でも今からでも、あの子を守っていきたいんだ」

「ふうん?どんな風に?」

「宰相補佐官の仕事は辞めた。今は公爵邸での仕事が増えている。屋敷にいられるように出来るだけするつもりだ。まだ6歳なんだから今ならあの子とやり直しも出来るだろう」

「………あの子を守りたいのならわたしに暫く任せてくれないかしら?」

「そんな……」

「その間に、マリーナ様とハウエル公爵のことをなんとかしなさい。今屋敷に戻しても公爵がまた動き出せばエリーゼは狙われるわ。たかが婚約者だったくらいで殺されるのはおかしいわ。今回殿下の婚約者にならなくてもまた何か理由をつけて殺されたらどうするの?」

「また殺される?そんなことは絶対にさせない!」

「だったらちびっ子殿下とも話しなさい。ちなみに陛下には全て話しているわ。頼っても大丈夫よ」

「………すまない。陛下に会うのは嫌だっただろう。娘のために恩に着る」

「貴方のためではないわ。エリーゼとオーリスのためよ」

「ありがとう、迎えは決着がついたら来る。それまで娘をよろしくお願いします……だが、遠くから見るのは許してくれ」

わたしは、エリーゼを迎えに行くのを諦めて、マリーナとハウエル公爵をのが先だと、急ぎ殿下と話し合うことにした。











しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

虐げられた皇女は父の愛人とその娘に復讐する

ましゅぺちーの
恋愛
大陸一の大国ライドーン帝国の皇帝が崩御した。 その皇帝の子供である第一皇女シャーロットはこの時をずっと待っていた。 シャーロットの母親は今は亡き皇后陛下で皇帝とは政略結婚だった。 皇帝は皇后を蔑ろにし身分の低い女を愛妾として囲った。 やがてその愛妾には子供が生まれた。それが第二皇女プリシラである。 愛妾は皇帝の寵愛を笠に着てやりたい放題でプリシラも両親に甘やかされて我儘に育った。 今までは皇帝の寵愛があったからこそ好きにさせていたが、これからはそうもいかない。 シャーロットは愛妾とプリシラに対する復讐を実行に移す― 一部タイトルを変更しました。

断罪される一年前に時間を戻せたので、もう愛しません

天宮有
恋愛
侯爵令嬢の私ルリサは、元婚約者のゼノラス王子に断罪されて処刑が決まる。 私はゼノラスの命令を聞いていただけなのに、捨てられてしまったようだ。 処刑される前日、私は今まで試せなかった時間を戻す魔法を使う。 魔法は成功して一年前に戻ったから、私はゼノラスを許しません。

【完結】私の望み通り婚約を解消しようと言うけど、そもそも半年間も嫌だと言い続けたのは貴方でしょう?〜初恋は終わりました。

るんた
恋愛
「君の望み通り、君との婚約解消を受け入れるよ」  色とりどりの春の花が咲き誇る我が伯爵家の庭園で、沈痛な面持ちで目の前に座る男の言葉を、私は内心冷ややかに受け止める。  ……ほんとに屑だわ。 結果はうまくいかないけど、初恋と学園生活をそれなりに真面目にがんばる主人公のお話です。 彼はイケメンだけど、あれ?何か残念だな……。という感じを目指してます。そう思っていただけたら嬉しいです。 彼女視点(side A)と彼視点(side J)を交互にあげていきます。

忘却令嬢〜そう言われましても記憶にございません〜【完】

雪乃
恋愛
ほんの一瞬、躊躇ってしまった手。 誰よりも愛していた彼女なのに傷付けてしまった。 ずっと傷付けていると理解っていたのに、振り払ってしまった。 彼女は深い碧色に絶望を映しながら微笑んだ。 ※読んでくださりありがとうございます。 ゆるふわ設定です。タグをころころ変えてます。何でも許せる方向け。

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

【完結】領主の妻になりました

青波鳩子
恋愛
「私が君を愛することは無い」 司祭しかいない小さな教会で、夫になったばかりのクライブにフォスティーヌはそう告げられた。 =============================================== オルティス王の側室を母に持つ第三王子クライブと、バーネット侯爵家フォスティーヌは婚約していた。 挙式を半年後に控えたある日、王宮にて事件が勃発した。 クライブの異母兄である王太子ジェイラスが、国王陛下とクライブの実母である側室を暗殺。 新たに王の座に就いたジェイラスは、異母弟である第二王子マーヴィンを公金横領の疑いで捕縛、第三王子クライブにオールブライト辺境領を治める沙汰を下した。 マーヴィンの婚約者だったブリジットは共犯の疑いがあったが確たる証拠が見つからない。 ブリジットが王都にいてはマーヴィンの子飼いと接触、画策の恐れから、ジェイラスはクライブにオールブライト領でブリジットの隔離監視を命じる。 捜査中に大怪我を負い、生涯歩けなくなったブリジットをクライブは密かに想っていた。 長兄からの「ブリジットの隔離監視」を都合よく解釈したクライブは、オールブライト辺境伯の館のうち豪華な別邸でブリジットを囲った。 新王である長兄の命令に逆らえずフォスティーヌと結婚したクライブは、本邸にフォスティーヌを置き、自分はブリジットと別邸で暮らした。 フォスティーヌに「別邸には近づくことを許可しない」と告げて。 フォスティーヌは「お飾りの領主の妻」としてオールブライトで生きていく。 ブリジットの大きな嘘をクライブが知り、そこからクライブとフォスティーヌの関係性が変わり始める。 ======================================== *荒唐無稽の世界観の中、ふんわりと書いていますのでふんわりとお読みください *約10万字で最終話を含めて全29話です *他のサイトでも公開します *10月16日より、1日2話ずつ、7時と19時にアップします *誤字、脱字、衍字、誤用、素早く脳内変換してお読みいただけるとありがたいです

筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した

基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。 その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。 王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。

処理中です...