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5話 王太子殿下 過去
しおりを挟むわたしは間違えてしまった。
エリーゼをただ守りたかった。
王太子である自分に群がる貴族どもを振り払いたかった。
エリーゼを亡きものにして、わたしの婚約者として無理やり娘を婚約させようとしたシーモア・ハウエル公爵に対抗していたが、若い自分の力では無理があった。
父、国王が病床に伏して公務を代わりにしていたが、ハウエル公爵派の圧力により執務に支障を来たしていた。
また、不正をしていたこともわかっていたが証拠がなかった。
娘マリーナをわたしの婚約者にすえることで、公爵自身の力をさらに得ようと企んでいたが、それを阻止できないでいた。
しかも、エリーゼの命を狙っていた。
バセット公爵には、エリーゼを外に出さないように頼んだ。
「わたしの愛するマリーナを嫉妬で虐めた罰」として謹慎させていることにした。
それは彼女を軟禁状態にすることであり、誤解させることであったが、彼女の命のほうが大事だった。
その間に、わたしの味方であるバセット公爵たち王族派と、ハウエル公爵たち貴族派で対立しながらもハウエル公爵派の弱みと悪事の証拠を探していた。
わたしはエリーゼのためと言い訳しながらマリーナと親密な関係を結んだ。
好きでもないマリーナと一線を越えて、彼女からの証言を聞き出して、あと少しでハウエル公爵を取り押さえることが出来るところまで来ていた。
なのに、わたしの動きに疑いを持たれ、仕方なくエリーゼを捕まえて、わたしはマリーナを愛しているように見せた。
マリーナがエリーゼに嫌がらせをされ殺されそうになったと言い出したからだ。
仕方がないのでエリーゼを捕まえて牢に入れた。
本当は、エリーゼを愛していた。でも、あと少しで公爵達を押さえられるところまで来て、バレる訳にはいかなかった。
あとで理由を述べて許してもらうしかないと苦渋の決断をした。
エリーゼが牢屋に入った時、マリーナは嘲笑った。わたしは隠れた服の後ろで握り拳を作って耐えた。
そして、マリーナを抱き寄せて
「エリーゼ、お前など愛してもいない。愛しているのはマリーナだけだ。お前はわたしの大事なマリーナを殺そうとした犯罪者だ」
と言って睨んで吐き捨てた。
わたしが牢屋から出たあと、マリーナとハウエル公爵はエリーゼを地下牢に連れて行き、首を切って処刑した。
わたしが知ったのは、マリーナを抱いた次の日の朝だった。
わたしはエリーゼが死んだことも知らずにエリーゼの命を助けるために好きでもない女を抱いて、嘘の愛を語った。
いや、エリーゼを抱けない性の捌け口としてマリーナに溺れていたんだ。
男の性だから仕方がなかったんだと言い訳しながらも彼女を抱いていた。
しかも、愛するエリーゼを殺した女を、知らなかったとはいえ抱いた滑稽な男だった。
彼女の遺体を見た時、震えて泣くことも出来なかった。
首は床に捨てられて身体は切り刻まれていた。
どうしてそんな酷いことが出来るのか、この目の前の女は美しくも怖い悪魔のような女にしか見えなかった。
「何故、エリーゼは処刑されたんだ」
わたしは無表情で淡々と聞いた。
「だって、殿下は私を愛しているのでしょう?こんな女は要らないわ。だから処刑してあげたのよ、手間が省けて良かったでしょう?ふふふ」
わたしはそのあと数ヶ月かけてハウエル公爵派の不正の証拠を全て白日の下に晒し出し、全員を捕まえて処刑した。
マリーナは、「わたしを愛していたはずでしょう?どうしてわたしが処刑されなければいけないの?殿下、貴方を愛しているの、助けて!」と、命乞いをした。
わたしは言う。
「お前など愛していない。愛していたのはエリーゼだけだった。エリーゼを助けるためにお前を愛した振りをしただけだ。お前はわたしの大切なエリーゼを殺した。絶対に許さない」
わたしは、マリーナを処刑した後、エリーゼの墓の前に立った。
わたしは穢れた男だ。彼女の前に立てない汚い男だ。女の身体に溺れて好きでもない女を抱いた。
わたしは、そのまま剣を首に当て切った。
彼女の元へ愛を語りには行けないが、懺悔をさせて欲しかった。言い訳は出来ないが謝りたかった。
一度だけでも、エリーゼに愛していると伝えたかった。
わたしは後悔しながら死んでいった………はずだったが……
「どうして生きているんだ?」
8歳の体になっていた。
しかも、初めて出会うお茶会の日まであと1週間だった。
わたしは、また、エリーゼに出会える。
今度は、最初からエリーゼに好きだと言おう。
自分を好きになってくれないエリーゼに初めはイライラして当たった。
そして酷いことを言ってさらに嫌われた。
マリーナとのことがありエリーゼからは愛想を尽かされていたのもわかっていた。
それでも彼女を手放せなくて婚約者のままでいた。
いつか僕を見て。
僕を愛して欲しいと恋い焦がれて、歪んだ心。
エリーゼを守るはずが殺してしまった。
今度こそ彼女だけを愛して守ると決めた。
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