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3話

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孤児院2回目の訪問では追いかけっこだった。

1人が逃げて1人が追いかける。
この疲れるだけの遊びに楽しさが見出せないでいるわたしに、アンが言った。

「お嬢様、疲れましたか?きつかったら少し休みましょう」

「大丈夫よ。
でもわたしそろそろ笑う勉強をしたいの。遊んでばかりではなくて、椅子に座ってきちんとお勉強をしないと時間が勿体無いわ」

「お嬢様、子どもは子ども同士遊ぶ。それが笑ったり泣いたり怒ったりする勉強になるんです」

「え?そうなの?」

「お嬢様は使用人という枠の中の人間としか接していないので、どうしても仲良くするということができないと思います。
わたし達はお嬢様に文句を言ったり怒ったり一緒に笑ったりは出来ません。それができるのは家族とか友達です。
だから、まずお友達を作って遊んでみて欲しいと思いました。貴族同士ではどうしてもお互い本音が言えません。
この子達ならいつも本音で泣いて笑って必死で生きているのでお嬢様にもそれが伝わると思ったのです」

「本音……わかったわ、わたしも頑張ってみんなと遊んでみるわ」

アンの言葉が凄く心に響いた。
だからわたしは前回半年の間、屋敷を抜け出して孤児院のみんなに会いにきていたのかもしれない。

生きることに必死で逞しい子ども達、表情のない氷姫と呼ばれるわたしを慕ってくれた子ども達。

16歳の時に出会った子達は今は数人しかここにはいないけど、わたしはこの子達のおかげで軟禁生活もなんとか頑張れた。

「ねえ、エリィ、遊ぼう」

因みにエリィはここでのわたしの名前だ。

さすがに公爵令嬢だとは言えないのでちょっとお金持ちの平民の女の子設定でここに来ている。

「うん、遊ぼう!」

わたしはみんなと遊んだ。

でもまだ思ったようには笑えない。



◇ ◇ ◇


「ねえ、アン。お嬢様が必死で走っているわ」

「ほんとね、リザ。見て!捕まらないように必死よ」

「お嬢様が少し子どもらしい顔になったわ」

アンは涙が溢れた。

いつも生きていることに何の感情も持たない、息をしているだけで退屈そうにしていたお嬢様が必死で走っている。

捕まると悔しそうにした。
鬼になって捕まえると嬉しそうに笑ったのだ。

ほんの一瞬、いつも見ているアンとリザしか分からないほんの一瞬の笑み。
二人は手を取り合って泣いた。

エリーゼはそんなことに気づきもせず必死でみんなと遊ぶという、勉強をしていた。



屋敷に帰ると疲れて夕食を食べながらウトウトして途中で寝てしまった。
家令のロンにそっと抱っこされてベッドに運ばれた。

エリーゼは初めて子どもらしく食事の途中で寝てしまった。
その寝顔は子どもらしいあどけない顔だった。

そんなエリーゼを屋敷のみんなが涙して喜んだのをエリーゼは知らない。





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