【完結】愛されない王妃

たろ

文字の大きさ
上 下
20 / 26

20話  ベルナンド編

しおりを挟む
 カリクシードの愛妾でしかないクリシアは確かに可愛らしい。ジュリエットは美しいと言われることはあるが可愛らしいとは言われることはない。

 カリクシードはあの甘えるよな声で話すクリシアを好んでいるらしい。

 あれはただあざといだけで、頭の中は空っぽ、いや、自分の欲求に関しては貪欲で頭の中も心の中も真っ黒でギトギトしていそうだ。

 と言ってもほぼ部下からの報告によるもので、俺自身は捕えるまで会ったことがなかったが、捕まった途端、カリクシードへの愛はどこへ消えたのか、俺に媚を売り始めた。

「ベルナンド様ぁ、わたしは何も知らないんです。わたしはカリクシード様の恋人だっただけで、妃でもないし、この国の政務に関わったことなんて一度もありません。そんなわたしを捕まえて何を罪に問うと言うのですか?」

 騎士達に両手を押さえられて「痛い、少しだけ優しくしてください」と甘えた声で騎士達を誘惑した女。

 馬鹿な騎士達はすぐに手の力を緩めた。

 調子に乗った女は牢に入れられても色々と要求をしてきた。

 俺は叶えられる要求は全て聞いてやるようにと伝えた。

 この女がどこまでやるのか見てみたかった。

 牢の中には簡素なベッドとトイレがついているだけ。王族専用の牢にはもちろん入れていない。平民専用の牢に入れた。

 カリクシードとマリーナ王女は、王族としての罰を受けさせる。しかしこの女は一応平民。ただ、ジュリエットよりも王族のように振る舞った女。

 だから牢に入れてどこまで王族のように振る舞うかみさせてもらう。

「湯浴みをしたいわ」
「こんな食事食べられない」
「ベッドがとても硬くて体が痛いの。もう少しいいベッドはないのかしら」
「着替えが欲しいわ」
「せめて美味しいお茶くらい飲みたい」

 初めはそんな欲求だった。

 全て叶えられると今度は。

「寂しいの。話し相手になって」
「ねえ、少しでいいから抱きしめて」

 色仕掛けで騎士達を誘惑し始めた。

 うちの騎士団でも女好きと言われる男達に、あの女の言う通りにしてやれと言ったら喜んでクリシアを抱き始めた。

 自分はモテていると勘違いしている女。

 本当は男達から遊ばれているのに。

 毎日のように騎士達を誘う女。

「あの女はただの阿婆擦れか?」

 側近にそう聞くと、側近は報告書を読みながら呆れた声を出した。

「報告書によればクリシアという女は夜はカリクシードと過ごし、昼間の暇な時間は騎士や侍従、文官など気に入った男とベッドで過ごすことが多かったそうです」

「あの女は処刑はしない。帝国のマヤ鉱山に悪質な犯罪を犯して懲役刑で働いてる奴らがいたな?」

「マヤ鉱山は荒くれ者しかおりません。あそこに看守として行きたがる者は少ないくらいです。あそこに看守に行く者も何か問題を犯した奴らです。あそこにクリシアを送りますか?」

「飯炊き女が男の中に一人くらいいてもいいだろう?」

「了解致しました」

「ああ、服は与えていいが、下着はいらない。ワンピースを数枚だけ持たせてマヤ鉱山へ送ってやれ」

「確かに、服なんてあそこでは必要ないでしょうね」

「男好きの阿婆擦れだ。俺にしては一番優しい罰だと思わないか?」

「処刑された方が幸せだと俺は思います」

「俺の大切なジュリエットを人として扱わなかったあの女を人として扱ってやったんだ。俺はかなり優しいと思うぞ」

 俺はクリシアが牢から出て馬車で送られる姿を見送った。

 それなりに質素とはいえ綺麗なワンピースに着替えさせられたクリシアはどうしていいのか分からず、牢から出て馬車に乗るまで落ち着きなくキョロキョロしながら騎士に連れられ歩いていた。

「ねえ、綺麗な服はいいんだけど、下着が用意されていなかったの。男ばかりの騎士だからって女物の下着くらい用意できるわよね?」

 そばにいる騎士にそう尋ねたらしい。

 騎士は「俺は馬車に乗せるように言われただけなので分からない」と答えたらしい。

 馬車に乗る時、離れた場所にいた俺に目を向けたクリシアは、騎士の腕を振りほどいて嬉しそうに走ってきた。

「ベルナンド様ぁ!わたしを助けてくださってありがとうございます!わたしは何にも悪いことをしていないとわかってくださったんですね」

 この女は馬鹿か?

 そう思いながらも、まぁ、牢の中で好き勝手させたのは俺の指示だし、調子に乗ったのも仕方がない。そう、平民だから。

 この牢の中で最後に寝た男は、女遊びをしすぎて性病持ちだと知らないこの女。
 いずれマヤ鉱山の男達全てと共に性病で死んでいくだろう。

 ついでにその男もマヤ鉱山で看守をすることが決まっているので、一緒に馬車に乗せた。

 馬車の中でさらに性病が酷くなるだろう。



 それから一年後にはマヤ鉱山から人はいなくなった。

 もうあそこから採掘される物もなくなってきていたので、閉山する予定だった。

 全てみんな処分できた。

 罪を犯しても反省しなかった奴らだ。

 被害者もこれで少しは安心して暮らせるだろう。





◆ ◆ ◆

ちょっと怖すぎるベルナンド。

だけどジュリエットの前だけはただただ優しい男なんです。それも怖いけど。
しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

二度目の恋

豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。 王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。 満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。 ※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

初恋の相手と結ばれて幸せですか?

豆狸
恋愛
その日、学園に現れた転校生は私の婚約者の幼馴染で──初恋の相手でした。

処理中です...