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14話
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アースを送り出してからジュリエットは静かにベッドに座った。
牢から逃げ出すことはできない。
アースがベルナンドに届けてもその意味をベルナンドは理解してくれるかしら?
ジュリエットがアースに持って行かせたのはジュリエットの薬の瓶。
この意味がわかるのはベルナンドだけだろう。
幼い頃共に病気の中過ごした彼にしかわからない。
そして、夕飯に出たいつものスープとパン、そしてチキンはどう見ても鶏だった。
内心ホッとしながらもあまり食欲がなく流石にチキンは残しスープだけしか食べることができなかった。
何度か嫌がらせで騎士達がジュリエットのところに来てはニヤニヤと笑って去って行った。
いつ何をされるかわからない。
ジュリエットは眠ることもできずベッドに座り小さな窓から真っ暗な外の景色を見ていた。
早朝、牢の周りには誰もいなかった。
ジュリエットが逃げ出すことができないと言う安心感と、マリーナ達が嫌がらせのため自分に従う者達をジュリエットのところへ行かせるために、看守たちを遠ざけていた。
そのためジュリエットは身の危険を感じていたのだ。
でも逆に、ジュリエットを守ろうとする者達も会いに行くことができた。
「王妃様……」
「誰?」
ジュリエットはその声にビクッとした。薄明かりしかない牢の中、誰が来たのか確認することができない。
「ドワードでございます」
「ドワード大臣?」
「はい、今から王妃様の取り調べをすることになりました」
「取り調べ?」
「おい、王妃様を牢から出して差し上げろ」
牢を開け騎士が中に入ってきた。
一瞬ビクッとしたジュリエットに「誰が見ているかわかりません。少し乱暴に扱いますがご心配なさらずに」早口で騎士がそう言った。
「早く出てください」
冷たくジュリエットの腕を掴み牢から無理やり出す騎士。
ジュリエットは表情を固くしたまま騎士について行く。
ドワード大臣も何も話さず廊下を急ぎ足で歩いた。
ジュリエットは騎士に腕を掴まれ追い立てられるように早歩きをしていた。
何度か取り調べをされた部屋とは違う、別の部屋へと連れて行かれた。
中に入ると一人の騎士が紙を持っていてジュリエットに見せた。
『今から怒鳴り上げますが怖がらずに。紙で指示を出しますので何も言わずその通りにしてください』
ジュリエットはコクっと頷いた。
「王妃、あなたは国のためと言いながら自分の私腹を肥やすために我々を騙しましたね」
「はっきり言ったらどうなんです!」
「認めなければどうなるかわかってるんですか!!」
ドンっと机を蹴る音が廊下に響く。
「早朝なら大丈夫なんて思っていたでしょう?我々を甘くみないでください。あなたの横暴を許しませんから」
数人の騎士が紙に書いた言葉を読みながら机を蹴ったり叩いたりしていた。
ジュリエットはその間に服を着替えるように指示された。
その前に女騎士が簡単に湯浴みをさせた。
ゆっくりすることはできなかったが、やっと体を綺麗に洗うことができた。
服は女騎士の制服に着替え、長い髪はひとつに纏めた。
ほぼその間、口を開くことはなかった。部屋の中は見られることはないが、声がもし漏れればマリーナ達の手の者に聞かれるかもしれない。
急いで準備を済ませると、騎士が床の板を何枚か外す。
『ここから王城の外に出られます』
ジュリエットは一瞬躊躇った。
自分を逃せばこの者達が罰せられる。
急いでペンを取り『逃げません』と首を横に振った。
ジュリエットの言いたいことをすぐに理解した大臣もペンを走らせた。
『あなたの代わりの遺体は用意してあります。マリーナ殿下があなたを火だるまにするとおっしゃいました。我々がそれを実行いたします。あなたは今から焼け死にます。ですから急いでお逃げください』
ジュリエットは静かに礼をした。
唇を動かした。
『ありがとう』と。
床下にある隠し通路を女騎士と男騎士の二人について歩く。
ほとんど歩くことなく過ごしてきたジュリエットには急いで歩くことはできなかった。
ハアハアと肩で息をしながら二人の後ろを歩く。
「ごめんなさい、あなたたちは助けてくれているのに、私は急いで歩くこともできない」
「大丈夫です。肩を貸します。私につかまってください」
「ありがとう」
だけどあと少しというところでジュリエットは歩けなくなった。
鼻血が突然止まらなくなった。
薄明かりの中、酷い出血に「少し休みましょう」と女騎士が休むことを提案した。
男騎士は「僕が背負います」と休むことを嫌がった。
この狭い隠し通路でもし追ってがくれば王妃を庇いながら闘うのは難しい。
「二人にこれ以上負担はかけたくない。少しでも前に進みましょう」
ジュリエットは死ぬことを覚悟していた。
ただ、どうしてもベルナンドに会わなければならなかった。
この国を自分のせいで攻め落とされることだけは止めたかった。
アースがベルナンドにあの薬の瓶を渡せばわかるはず。
ーー私の病気が再発したことを。
そして、再発すればもう助かることはないことを。
ずっと隠してきた。
最後にどうしてもカリクシードのそばにいたかった。
どうしてもカリクシードのためにこの国を少しでも住みやすい国になるように手助けしたかった。
ほんの少しでいい、愛されなくてもいい。
自分を見て欲しかった。
全て叶わぬ夢で終わった。
それでも、自分が死ねばベルナンドはこの国を攻めてくるだろう。
だからベルナンドに『私を助けにきて』とメッセージを送った。
薬の瓶を渡すことで。聡明なベルナンドなら必ず助けに来る。
実際は助けに来て欲しいのではなく、自らベルナンドのところまで行くことができないのでこの国に来てもらうために。
そしてこの国を守るために。
牢から逃げ出すことはできない。
アースがベルナンドに届けてもその意味をベルナンドは理解してくれるかしら?
ジュリエットがアースに持って行かせたのはジュリエットの薬の瓶。
この意味がわかるのはベルナンドだけだろう。
幼い頃共に病気の中過ごした彼にしかわからない。
そして、夕飯に出たいつものスープとパン、そしてチキンはどう見ても鶏だった。
内心ホッとしながらもあまり食欲がなく流石にチキンは残しスープだけしか食べることができなかった。
何度か嫌がらせで騎士達がジュリエットのところに来てはニヤニヤと笑って去って行った。
いつ何をされるかわからない。
ジュリエットは眠ることもできずベッドに座り小さな窓から真っ暗な外の景色を見ていた。
早朝、牢の周りには誰もいなかった。
ジュリエットが逃げ出すことができないと言う安心感と、マリーナ達が嫌がらせのため自分に従う者達をジュリエットのところへ行かせるために、看守たちを遠ざけていた。
そのためジュリエットは身の危険を感じていたのだ。
でも逆に、ジュリエットを守ろうとする者達も会いに行くことができた。
「王妃様……」
「誰?」
ジュリエットはその声にビクッとした。薄明かりしかない牢の中、誰が来たのか確認することができない。
「ドワードでございます」
「ドワード大臣?」
「はい、今から王妃様の取り調べをすることになりました」
「取り調べ?」
「おい、王妃様を牢から出して差し上げろ」
牢を開け騎士が中に入ってきた。
一瞬ビクッとしたジュリエットに「誰が見ているかわかりません。少し乱暴に扱いますがご心配なさらずに」早口で騎士がそう言った。
「早く出てください」
冷たくジュリエットの腕を掴み牢から無理やり出す騎士。
ジュリエットは表情を固くしたまま騎士について行く。
ドワード大臣も何も話さず廊下を急ぎ足で歩いた。
ジュリエットは騎士に腕を掴まれ追い立てられるように早歩きをしていた。
何度か取り調べをされた部屋とは違う、別の部屋へと連れて行かれた。
中に入ると一人の騎士が紙を持っていてジュリエットに見せた。
『今から怒鳴り上げますが怖がらずに。紙で指示を出しますので何も言わずその通りにしてください』
ジュリエットはコクっと頷いた。
「王妃、あなたは国のためと言いながら自分の私腹を肥やすために我々を騙しましたね」
「はっきり言ったらどうなんです!」
「認めなければどうなるかわかってるんですか!!」
ドンっと机を蹴る音が廊下に響く。
「早朝なら大丈夫なんて思っていたでしょう?我々を甘くみないでください。あなたの横暴を許しませんから」
数人の騎士が紙に書いた言葉を読みながら机を蹴ったり叩いたりしていた。
ジュリエットはその間に服を着替えるように指示された。
その前に女騎士が簡単に湯浴みをさせた。
ゆっくりすることはできなかったが、やっと体を綺麗に洗うことができた。
服は女騎士の制服に着替え、長い髪はひとつに纏めた。
ほぼその間、口を開くことはなかった。部屋の中は見られることはないが、声がもし漏れればマリーナ達の手の者に聞かれるかもしれない。
急いで準備を済ませると、騎士が床の板を何枚か外す。
『ここから王城の外に出られます』
ジュリエットは一瞬躊躇った。
自分を逃せばこの者達が罰せられる。
急いでペンを取り『逃げません』と首を横に振った。
ジュリエットの言いたいことをすぐに理解した大臣もペンを走らせた。
『あなたの代わりの遺体は用意してあります。マリーナ殿下があなたを火だるまにするとおっしゃいました。我々がそれを実行いたします。あなたは今から焼け死にます。ですから急いでお逃げください』
ジュリエットは静かに礼をした。
唇を動かした。
『ありがとう』と。
床下にある隠し通路を女騎士と男騎士の二人について歩く。
ほとんど歩くことなく過ごしてきたジュリエットには急いで歩くことはできなかった。
ハアハアと肩で息をしながら二人の後ろを歩く。
「ごめんなさい、あなたたちは助けてくれているのに、私は急いで歩くこともできない」
「大丈夫です。肩を貸します。私につかまってください」
「ありがとう」
だけどあと少しというところでジュリエットは歩けなくなった。
鼻血が突然止まらなくなった。
薄明かりの中、酷い出血に「少し休みましょう」と女騎士が休むことを提案した。
男騎士は「僕が背負います」と休むことを嫌がった。
この狭い隠し通路でもし追ってがくれば王妃を庇いながら闘うのは難しい。
「二人にこれ以上負担はかけたくない。少しでも前に進みましょう」
ジュリエットは死ぬことを覚悟していた。
ただ、どうしてもベルナンドに会わなければならなかった。
この国を自分のせいで攻め落とされることだけは止めたかった。
アースがベルナンドにあの薬の瓶を渡せばわかるはず。
ーー私の病気が再発したことを。
そして、再発すればもう助かることはないことを。
ずっと隠してきた。
最後にどうしてもカリクシードのそばにいたかった。
どうしてもカリクシードのためにこの国を少しでも住みやすい国になるように手助けしたかった。
ほんの少しでいい、愛されなくてもいい。
自分を見て欲しかった。
全て叶わぬ夢で終わった。
それでも、自分が死ねばベルナンドはこの国を攻めてくるだろう。
だからベルナンドに『私を助けにきて』とメッセージを送った。
薬の瓶を渡すことで。聡明なベルナンドなら必ず助けに来る。
実際は助けに来て欲しいのではなく、自らベルナンドのところまで行くことができないのでこの国に来てもらうために。
そしてこの国を守るために。
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