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12話
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「私の存在はカリクシードにとって邪魔でしかないのですね」
大臣に少し悲しそうな顔を向けた。
ジュリエットはあまり感情を面に出さない。
その彼女が表情を変えたことにここに居る者たちは納得した。
ーーこんな状況にいても嘆くことなく耐えたのは陛下を愛していたのだろう、と。
ーーどんなに辛いことがあっても愚痴ひとつこぼさなかった王妃が初めて感情を露わにした。
ーー人質としてハワー帝国へ文句一つこぼさず行かれたのも陛下のためだったのだ。
「王妃、あなたはそれほどまで陛下のことを……」(愛しているのですか?)
大臣はそれ以上の言葉を発することは躊躇われた。
ジュリエットの顔を見ればどれだけ傷ついているのかわかる。
陛下に愛されなくともまだ妃として接してくれるならまだしも、敵のように睨まれ嫌われ、罪すらないのに牢に入れられた。
「王妃が無罪だということは皆知っております。ただ陛下の周りの者は知らない、信じていない者もたくさんいます。マリーナ殿下に対し敬愛の念を持ちひたすら邁進している者もいます」
「マリーナ様は守られるべき存在なのかしらね?」
大臣たちは口々に話し始めた。
「儚く誰よりも美しいマリーナ様を尊び敬愛する者たちは時に敵とみなせばその者に何をするかわかりません。王妃に対しての悪い噂は彼らがマリーナ殿下のために流したものです」
「我々が止めようとしても彼らは強硬派なのでなかなか止めようがありません。若さゆえの強行で、いずれは破滅することを理解していないのです」
「陛下もまた我々の意見を聞こうとしません。年寄りたちは前国王たちの使いの者だと思い、出来るだけ近寄らせない。
我々は政策で必要な人間として使われているだけで、陛下をお諌めすることは叶わないのです」
「王妃様に対して動いて差し上げたいのはやまやまでしたが、私たちにはその力すらもうありませんでした。申し訳ございません」
「前国王は今もまだ?」
ジュリエットが心配そうに訊く。
「はい、ジュリエット様が嫁がれてからすぐお倒れになって今も寝たきりでございます」
「そうなのね」
ジュリエットはこの国に帰ってから誰に訊いても前国王のことを話したがらなかった。
「皆口止めされていた?」
ジュリエットの呟きに「はい、陛下は前国王のことを少しでも口にすればその者を牢へと入れてしまいます」と顔を顰めた。
「だから誰も答えてはくれなかったのね」
陛下が自分の父親を嫌っていたことは知ってはいたが、そこまで酷いとは思っていなかった。
「私はこれからどうすればいいのかしら」
ジュリエットは呟き窓の外を見上げた。
アースが心配そうにジュリエットの姿を見つけ飛び回っていた。
「王妃……いえジュリエット様、お逃げください」
ここにいる者達が皆頭を下げた。
「このままでは、謂れのない罪で処刑されます」
「処刑?そこまで?」
「マリーナ殿下とクリシア様が陛下に進言されているのを聞いた者がおります」
数人の騎士が青い顔をして頷いた。
「あのお方達は狂っております。ご自分たちの思うように全てが動くと思っております、そして楽しんでおります、人が苦しむことを。人を人と思わず、物としか見ておりません」
「陛下も?」
「陛下は傀儡です」
「少し考えさせてちょうだい」
ジュリエットはそのまままた牢へと帰っていった。
大臣に少し悲しそうな顔を向けた。
ジュリエットはあまり感情を面に出さない。
その彼女が表情を変えたことにここに居る者たちは納得した。
ーーこんな状況にいても嘆くことなく耐えたのは陛下を愛していたのだろう、と。
ーーどんなに辛いことがあっても愚痴ひとつこぼさなかった王妃が初めて感情を露わにした。
ーー人質としてハワー帝国へ文句一つこぼさず行かれたのも陛下のためだったのだ。
「王妃、あなたはそれほどまで陛下のことを……」(愛しているのですか?)
大臣はそれ以上の言葉を発することは躊躇われた。
ジュリエットの顔を見ればどれだけ傷ついているのかわかる。
陛下に愛されなくともまだ妃として接してくれるならまだしも、敵のように睨まれ嫌われ、罪すらないのに牢に入れられた。
「王妃が無罪だということは皆知っております。ただ陛下の周りの者は知らない、信じていない者もたくさんいます。マリーナ殿下に対し敬愛の念を持ちひたすら邁進している者もいます」
「マリーナ様は守られるべき存在なのかしらね?」
大臣たちは口々に話し始めた。
「儚く誰よりも美しいマリーナ様を尊び敬愛する者たちは時に敵とみなせばその者に何をするかわかりません。王妃に対しての悪い噂は彼らがマリーナ殿下のために流したものです」
「我々が止めようとしても彼らは強硬派なのでなかなか止めようがありません。若さゆえの強行で、いずれは破滅することを理解していないのです」
「陛下もまた我々の意見を聞こうとしません。年寄りたちは前国王たちの使いの者だと思い、出来るだけ近寄らせない。
我々は政策で必要な人間として使われているだけで、陛下をお諌めすることは叶わないのです」
「王妃様に対して動いて差し上げたいのはやまやまでしたが、私たちにはその力すらもうありませんでした。申し訳ございません」
「前国王は今もまだ?」
ジュリエットが心配そうに訊く。
「はい、ジュリエット様が嫁がれてからすぐお倒れになって今も寝たきりでございます」
「そうなのね」
ジュリエットはこの国に帰ってから誰に訊いても前国王のことを話したがらなかった。
「皆口止めされていた?」
ジュリエットの呟きに「はい、陛下は前国王のことを少しでも口にすればその者を牢へと入れてしまいます」と顔を顰めた。
「だから誰も答えてはくれなかったのね」
陛下が自分の父親を嫌っていたことは知ってはいたが、そこまで酷いとは思っていなかった。
「私はこれからどうすればいいのかしら」
ジュリエットは呟き窓の外を見上げた。
アースが心配そうにジュリエットの姿を見つけ飛び回っていた。
「王妃……いえジュリエット様、お逃げください」
ここにいる者達が皆頭を下げた。
「このままでは、謂れのない罪で処刑されます」
「処刑?そこまで?」
「マリーナ殿下とクリシア様が陛下に進言されているのを聞いた者がおります」
数人の騎士が青い顔をして頷いた。
「あのお方達は狂っております。ご自分たちの思うように全てが動くと思っております、そして楽しんでおります、人が苦しむことを。人を人と思わず、物としか見ておりません」
「陛下も?」
「陛下は傀儡です」
「少し考えさせてちょうだい」
ジュリエットはそのまままた牢へと帰っていった。
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