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10話
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ジュリエットは『何を言ってるのだろう?』と苛立ちを覚えながらも感情を抑え表に出さないように静かに訊いた。
「私が何をしたと言うのですか?この国を我が物に?陛下のお心すら自分のものにできない私がこの国を?」
自分の言葉に自嘲しながらも胸がツキンと痛んだ。
「ご自分でもお分かりなのですね?陛下はあなたに興味すらない、いやあなたを嫌っておられる。それなのにあなたは陛下の気持ちを逆撫でされる。さらに文官達を自分の味方につけて何を画策しているのですか?聞いたところによれば、勝手に政策を変更したり、夜な夜な人を集めてこそこそと何か話をして動き回っているらしいですね?」
「まあ、すごい情報網ですわね?私が画策?こそこそと?」
ーーこそこそしていたのは、確かにそうだけど、画策なんて。誰が言い出したのかしら?
「その態度が人の心を逆撫でするとは思わないのですか?」
目を開き吊り上げてイライラが収まらない側近は壁をドンと叩いた。
「チッ」
舌打ちしながら叩いた手が痛かったらしくさらに怒りを増幅させていた。
「王妃様、あなたはただのお飾りだ。愛されているのはクリシア様、そして家族として大切にされているのはマリーナ殿下なのです。あなたはただ言われた仕事を黙ってこなしていればいいのです。余計なことは何も考えずにね」
ジュリエットは側近の言葉に傷つくことなく
「私はお飾りの王妃として邁進しておりますわ」と淡々と答えた。
酷い言葉に傷つかない王妃。
「これからの取り調べ覚悟なさってください。全てが明るみになりますから」
「どうぞお調べくださいな。私は国民に対して恥ずかしいことは何もしておりません、王妃として出来る限りのことをしてきたつもりですわ」
側近は聞き取りに来たわけではなく、ただジュリエットが牢で落ち込み苦しむ姿を見て嘲笑いに来ただけ。
彼にとってこれから王妃が取り調べでどれだけ辛い目に遭うのか彼女に伝え、見下しにきたがあまりにもいつもと変わらぬ態度に苛立ちを覚え酷い言葉を投げつけた。
王妃の顔を見たあとはスッキリといい気分で帰る予定だったのに、苛立ち不満の中、誰にもあたれず唾を吐き、帰ることになった。
ジュリエットはそんな側近の後ろ姿を見送った。
ーー不満が溜まると誰かに当たったり他人の所為にして発散させるしかできない、寂しい人なのね。
それは、マリーナやクリシアにも思い当たるなと「はああ」と深いため息を吐いた。
数日は牢の中で静かに過ごした。
入浴だけは叶わなかったが、食事は3食それなりに食べれるものを出されたので満足だった。
いつも執務に追われていたのに、することがない。おかげで睡眠もしっかり取れて体の疲れもなくなった。
久しぶりの余暇の時間をセリナとマリラに差し入れしてもらった本を読んだり、刺繍を刺したりして好きなことをして過ごした。
牢の中は普段の日常よりも快適だった。
ただ毎日くる側近の嫌味を聞き流したりするのが面倒ではあった。
一度クリシアがジュリエットに会いにきた。
「ジュリエット様、わたしはあなたがそんなことはしないと信じております!」
瞳を大きく見開き『心配なの、わたし!』とでも言いたげな感じでジュリエットに声をかけたクリシア。
「そんなこと?」
ジュリエットは何をこの人は言っているのだろうと言う顔をした。
「だってジュリエット様が国のお金を好き勝手に使っているのでしょう?文官たちを唆して。そんな恐ろしいことをお考えになるなんて、わたし、とても怖いわ」
ーーそれ、私が実行している犯人だと言っているのでは?
「クリシア様、まず一言言わせていただきますわ。私はこの国の王妃です。あなたは側妃でもないただの平民です。私の名を呼ぶことは許されておりません。さらに言わせていただきますと私の前に許可なく会いにくることもおかしなことですわ」
「ふふ、何を言ってるのかしら?お飾りのくせに」
小さな声で周りに聞こえないようにジュリエットにそう告げる。
そしてクリシアは涙声でジュリエットに悲しそうに言った。
「わたし……は心配で王妃様に会いにきたのです。なのに……こんな酷いことを言われるなんて……」
クリシアは涙をはらりと流す。
ーーまるで演技を見せられているみたい。
ジュリエットは押し黙った。
クリシア付きの侍女達は聞こえるように囁いた。
「お可哀想なクリシア様」
「自分は陛下に愛されていないくせによくもあんな言葉を」
「お優しいクリシア様に八つ当たりなんて!」
これでさらにジュリエットは自らの立場を悪くした。
だがジュリエットからすればこれ以上悪くなることもない。
ならばきちんとクリシアに目上の人に対しての態度を改めることも必要だということを伝えようと思った。
自分が王妃をやめ離縁することになればクリシアが王妃になるかもしれない。
しかし彼女が王妃としてやっていけるとは思えない。
名ばかりの寵愛される王妃にはなれても陛下の隣に立ち共にこの国を導き守る王妃にはなれないと思う。
「ジュリエット様、もうあなたにこの国での居場所なんてないの。さっさと消えてなくなればいいのに」
ジュリエットにしか聞こえない声でそう囁くとニタッと嗤った。
いつも儚く守られるだけのクリシアの本性がここで現れた。
だけどそれを知るのはジュリエットのみ。
ジュリエットは陛下の顔を頭の中で思い出し陛下に対して憂いの表情を浮かべた。
「お話しすることはございません、お帰りください」
ジュリエットの言葉に「酷いわ」と声を荒げクリシアは帰って行った。
「私が何をしたと言うのですか?この国を我が物に?陛下のお心すら自分のものにできない私がこの国を?」
自分の言葉に自嘲しながらも胸がツキンと痛んだ。
「ご自分でもお分かりなのですね?陛下はあなたに興味すらない、いやあなたを嫌っておられる。それなのにあなたは陛下の気持ちを逆撫でされる。さらに文官達を自分の味方につけて何を画策しているのですか?聞いたところによれば、勝手に政策を変更したり、夜な夜な人を集めてこそこそと何か話をして動き回っているらしいですね?」
「まあ、すごい情報網ですわね?私が画策?こそこそと?」
ーーこそこそしていたのは、確かにそうだけど、画策なんて。誰が言い出したのかしら?
「その態度が人の心を逆撫でするとは思わないのですか?」
目を開き吊り上げてイライラが収まらない側近は壁をドンと叩いた。
「チッ」
舌打ちしながら叩いた手が痛かったらしくさらに怒りを増幅させていた。
「王妃様、あなたはただのお飾りだ。愛されているのはクリシア様、そして家族として大切にされているのはマリーナ殿下なのです。あなたはただ言われた仕事を黙ってこなしていればいいのです。余計なことは何も考えずにね」
ジュリエットは側近の言葉に傷つくことなく
「私はお飾りの王妃として邁進しておりますわ」と淡々と答えた。
酷い言葉に傷つかない王妃。
「これからの取り調べ覚悟なさってください。全てが明るみになりますから」
「どうぞお調べくださいな。私は国民に対して恥ずかしいことは何もしておりません、王妃として出来る限りのことをしてきたつもりですわ」
側近は聞き取りに来たわけではなく、ただジュリエットが牢で落ち込み苦しむ姿を見て嘲笑いに来ただけ。
彼にとってこれから王妃が取り調べでどれだけ辛い目に遭うのか彼女に伝え、見下しにきたがあまりにもいつもと変わらぬ態度に苛立ちを覚え酷い言葉を投げつけた。
王妃の顔を見たあとはスッキリといい気分で帰る予定だったのに、苛立ち不満の中、誰にもあたれず唾を吐き、帰ることになった。
ジュリエットはそんな側近の後ろ姿を見送った。
ーー不満が溜まると誰かに当たったり他人の所為にして発散させるしかできない、寂しい人なのね。
それは、マリーナやクリシアにも思い当たるなと「はああ」と深いため息を吐いた。
数日は牢の中で静かに過ごした。
入浴だけは叶わなかったが、食事は3食それなりに食べれるものを出されたので満足だった。
いつも執務に追われていたのに、することがない。おかげで睡眠もしっかり取れて体の疲れもなくなった。
久しぶりの余暇の時間をセリナとマリラに差し入れしてもらった本を読んだり、刺繍を刺したりして好きなことをして過ごした。
牢の中は普段の日常よりも快適だった。
ただ毎日くる側近の嫌味を聞き流したりするのが面倒ではあった。
一度クリシアがジュリエットに会いにきた。
「ジュリエット様、わたしはあなたがそんなことはしないと信じております!」
瞳を大きく見開き『心配なの、わたし!』とでも言いたげな感じでジュリエットに声をかけたクリシア。
「そんなこと?」
ジュリエットは何をこの人は言っているのだろうと言う顔をした。
「だってジュリエット様が国のお金を好き勝手に使っているのでしょう?文官たちを唆して。そんな恐ろしいことをお考えになるなんて、わたし、とても怖いわ」
ーーそれ、私が実行している犯人だと言っているのでは?
「クリシア様、まず一言言わせていただきますわ。私はこの国の王妃です。あなたは側妃でもないただの平民です。私の名を呼ぶことは許されておりません。さらに言わせていただきますと私の前に許可なく会いにくることもおかしなことですわ」
「ふふ、何を言ってるのかしら?お飾りのくせに」
小さな声で周りに聞こえないようにジュリエットにそう告げる。
そしてクリシアは涙声でジュリエットに悲しそうに言った。
「わたし……は心配で王妃様に会いにきたのです。なのに……こんな酷いことを言われるなんて……」
クリシアは涙をはらりと流す。
ーーまるで演技を見せられているみたい。
ジュリエットは押し黙った。
クリシア付きの侍女達は聞こえるように囁いた。
「お可哀想なクリシア様」
「自分は陛下に愛されていないくせによくもあんな言葉を」
「お優しいクリシア様に八つ当たりなんて!」
これでさらにジュリエットは自らの立場を悪くした。
だがジュリエットからすればこれ以上悪くなることもない。
ならばきちんとクリシアに目上の人に対しての態度を改めることも必要だということを伝えようと思った。
自分が王妃をやめ離縁することになればクリシアが王妃になるかもしれない。
しかし彼女が王妃としてやっていけるとは思えない。
名ばかりの寵愛される王妃にはなれても陛下の隣に立ち共にこの国を導き守る王妃にはなれないと思う。
「ジュリエット様、もうあなたにこの国での居場所なんてないの。さっさと消えてなくなればいいのに」
ジュリエットにしか聞こえない声でそう囁くとニタッと嗤った。
いつも儚く守られるだけのクリシアの本性がここで現れた。
だけどそれを知るのはジュリエットのみ。
ジュリエットは陛下の顔を頭の中で思い出し陛下に対して憂いの表情を浮かべた。
「お話しすることはございません、お帰りください」
ジュリエットの言葉に「酷いわ」と声を荒げクリシアは帰って行った。
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