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7話
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部屋に戻るとすぐに窓を開け放つ。
「アース、アース?」
空に向けて大声を出した。
どうせここは離れであまり人がいない場所。
だからアースが遊びにきても心配していなかった。
まさかジュリエットを心配して陛下達のいる宮へと顔を出すとは思っていなかった。
しばらくするとアースが元気な姿で大空を飛んでいるのがわかった。
アースはわかっているのだろう。ジュリエットの近くには寄ってこないで遠く空高くを飛んでいた。
ジュリエットは「良かった」と胸を撫で下ろした。
すぐに目の前には仕事の書類が置かれていた。
「はああ」と大きな溜息をついてすぐに椅子に座った。
嘆こうと文句を言おうと仕事はどんどん増えてしまうだけ。
ならば粛々と仕事をするのみ。
集中して仕事をしているとマリラとセリナが急いで部屋に入ってきた。
「申し訳ありません」
二人が必死で謝った。
「どうして謝るの?」
ジュリエットはペンの動きを止めて顔を上げた。
「ジュリエット様をお守りするために廊下で待っていたのに突然いなくなってしまいました」
「ふふ、どうせ私への嫌がらせで二人に何か用事を言いつけたのでしょう?」
「………そうなんです」
「クリシア様が突然現れて、廊下に指輪を落としたと言ってわたしとマリラに探すように命じたんです。周りにはクリシア様付きの侍女もいたのに!どうしてわざわざ私たち二人のところへ来て命令するんでしょう!」
「命令に背くわけにもいかず仕方なく探して回っていたんです。そしたら『失くしていなかったみたいなの』とクリシア様付きの侍女がクスクス笑いながら言ったんですよ!!もう悔しくて悔しくて!」
「ごめんなさい。私のせいで二人に嫌な思いばかりさせてしまって」
「ジュリエット様が謝らないでください!クリシア様は平民で陛下の愛妾でしかないんですよ?側妃でもないのにどうしてあんなに堂々と振る舞うことができるんですか?」
「それは……陛下の寵愛がそれだけ深いのでしょう」
「ジュリエット様は悔しくないのですか?あんな陛下をまだ愛しているのですか?」
ジュリエットはまた窓の外を見上げた。
「そうね……まだ空が青いから。もう少しだけ頑張ってみるわ」
ーーハワー帝国ではいつも雨が降っていたわ。
ジュリエットが仕事をしていると扉がノックされた。
「また仕事を持ってきたのかしら?もう今日はさすがにこれ以上は無理です、お断りしましょう」
マリラが意気込んで鼻息荒く扉を開けた。
「あ、あの……」
扉の前に立っていたのは先ほど陛下のそばにいた一人の文官だった。
ジュリエットが陛下の前に行くとすぐに消えていなくなったはずだが。
「何か御用ですか?用がないならお帰りください!」
まだ何も言っていない文官に目くじらを立てるマリラ。
セリナも後ろから「さっさと閉めましょうよ!」と言って扉を閉めようとした。
「あ、いや、お待ちください!」
文官は後ろをチラリと振り返った。
するともう一人も部屋に入ってきた。
「帰れと言ったのに何故もう一人入ってくるんですか!」
「そうよ!出て行ってください!」
マリラとセリナの怒気に思わず二人とも後退りをしながらも「いや、仕事を持ってきたわけではないんです!」と必死で訴えた。
「マリラ、セリナ、もうやめて。お話を聞くわ。どうぞ中に入って」
ジュリエットが二人を嗜めてソファに座らせた。
「お茶は淹れませんので!」
プンプン怒る二人。
二人はジュリエットが座るソファの後ろに立って二人の文官を威嚇していた。
二人は居心地の悪い部屋で二人の冷たい視線にビクビクしながらもジュリエットに頭を下げた。
「今日は申し訳ありませんでした」
「貴方達がどうして謝るの?」
「私達は陛下のいらっしゃる隣の部屋で控えていました。上司達にもし王妃が否定したらみんなで自分達が言っていることが正しい、王妃は何もしなていないで好き勝手遊んでいると言うようにと待機させられていました」
「へぇ、そうなんだ」
「ジュリエット様が好き勝手遊んでる?」
「よく言えたものよね?」
ますます不機嫌になる二人にジュリエットは「我慢しなさい」と嗜めた。
「私達文官は、王妃様のおかげで仕事が捗っているので助かっております。
カリクシード陛下になってから大臣や側近が新しくなり、国の政務のことも私たちの仕事のこともよくわからないくせに無理難題を言ってきます。
陛下はもちろん仕事はできますが、ご自分も国王になって手一杯です」
ジュリエットは相槌を打つことなく黙って聞いていた。
「マリーナ殿下は政務に関わるのは王族として当たり前のことですが……何故かクリシア様がわたしもすると言い出して、陛下も私たちが助かるだろうと仕事を与えました。
しかし適当に書類にサインするだけできちんと内容を読むことなく精査することもなく、大切な予算も適当に振り分けられたり、不必要な出金が増えていたり、絶対に了承してはいけない事案も了承してしまい混乱が起きてそれを収集するのが大変でした」
「へええ?」
「うわぁ」
「信じられないわ」
ジュリエットの後ろで話を聞くたびに大袈裟に反応している二人。
「王妃が仕事をしてくださってわたし達は皆陰で感謝しております。ただそれを言いたくて代表でここにきました」
「感謝はいらないから陛下に真実を話す気はないの?」
マリラが官僚達を責めた。
「………申し訳ございません。私たちにも家庭があり生活がかかっております」
額の汗をハンカチで拭きながら俯く二人にさらにセリナも口を開く。
「ジュリエット様が酷い目に遭われるのはいいのですか?」
「………良くないと思っております」
弱々しい声で返事が返ってきた。
ジュリエットがやっと口を開いた。
「私、こう見えて心がとても強いの。自分がこの気持ちに結着が着くまで頑張るつもりなの。出来れば陛下に少しでも私を知って欲しいのだけど。無理かもしれないわね。
それにこの状況をなんとかしないと私も貴方達文官も体が壊れてしまうわ」
「はい、何か良い案はあるでしょうか?」
「そうね、無理難題を押し付けるのはトップだけよね?元々の上司達は今も皆頑張っているのよね?」
「もちろんです。この国を良くしようと国民のために頑張っております」
「はあ?何カッコつけているの!ジュリエット様にこんな仕打ちをしておきながら!」
「マリラ、間で口を挟まないでちょうだい」
「申し訳ございません」
マリラとセリナはジュリエットの後ろから2歩ほどさらに後ろに下がった。
「上の方達と一度話をしたいわ。出来れば無理難題の人たちを除いた方達だけで」
「わかりました。上司と相談して参ります。皆王妃には感謝しております」
二人は何度も頭を下げて部屋を出て行った。
「ジュリエット様!なんでそんなにお優しいのですか?あいつらみんな自分が良ければそれでいいと思っているんですよ!」
「二人とも落ち着いてちょうだい。私に謝罪にくることがどんなに大変なことかわかる?もし私をよく思わない方達にわかったらあの方達はどうなると思うの?クビになるだけではすまないわ。それでもここにきた、それはとても勇気のいることなの認めてあげてちょうだい」
「クビ以外とは?」
「そうね、下位貴族なら廃爵させられたりこの国ではまともな仕事はできなくなると思うわ。それなりの給金をもらっているのよ?わずかな稼ぎしかもらえなくなるのは彼らにとって辛いことだと思うわ」
「………そうですね」
二人とも納得はできないが、ジュリエットの言っていることは理解できた。
「アース、アース?」
空に向けて大声を出した。
どうせここは離れであまり人がいない場所。
だからアースが遊びにきても心配していなかった。
まさかジュリエットを心配して陛下達のいる宮へと顔を出すとは思っていなかった。
しばらくするとアースが元気な姿で大空を飛んでいるのがわかった。
アースはわかっているのだろう。ジュリエットの近くには寄ってこないで遠く空高くを飛んでいた。
ジュリエットは「良かった」と胸を撫で下ろした。
すぐに目の前には仕事の書類が置かれていた。
「はああ」と大きな溜息をついてすぐに椅子に座った。
嘆こうと文句を言おうと仕事はどんどん増えてしまうだけ。
ならば粛々と仕事をするのみ。
集中して仕事をしているとマリラとセリナが急いで部屋に入ってきた。
「申し訳ありません」
二人が必死で謝った。
「どうして謝るの?」
ジュリエットはペンの動きを止めて顔を上げた。
「ジュリエット様をお守りするために廊下で待っていたのに突然いなくなってしまいました」
「ふふ、どうせ私への嫌がらせで二人に何か用事を言いつけたのでしょう?」
「………そうなんです」
「クリシア様が突然現れて、廊下に指輪を落としたと言ってわたしとマリラに探すように命じたんです。周りにはクリシア様付きの侍女もいたのに!どうしてわざわざ私たち二人のところへ来て命令するんでしょう!」
「命令に背くわけにもいかず仕方なく探して回っていたんです。そしたら『失くしていなかったみたいなの』とクリシア様付きの侍女がクスクス笑いながら言ったんですよ!!もう悔しくて悔しくて!」
「ごめんなさい。私のせいで二人に嫌な思いばかりさせてしまって」
「ジュリエット様が謝らないでください!クリシア様は平民で陛下の愛妾でしかないんですよ?側妃でもないのにどうしてあんなに堂々と振る舞うことができるんですか?」
「それは……陛下の寵愛がそれだけ深いのでしょう」
「ジュリエット様は悔しくないのですか?あんな陛下をまだ愛しているのですか?」
ジュリエットはまた窓の外を見上げた。
「そうね……まだ空が青いから。もう少しだけ頑張ってみるわ」
ーーハワー帝国ではいつも雨が降っていたわ。
ジュリエットが仕事をしていると扉がノックされた。
「また仕事を持ってきたのかしら?もう今日はさすがにこれ以上は無理です、お断りしましょう」
マリラが意気込んで鼻息荒く扉を開けた。
「あ、あの……」
扉の前に立っていたのは先ほど陛下のそばにいた一人の文官だった。
ジュリエットが陛下の前に行くとすぐに消えていなくなったはずだが。
「何か御用ですか?用がないならお帰りください!」
まだ何も言っていない文官に目くじらを立てるマリラ。
セリナも後ろから「さっさと閉めましょうよ!」と言って扉を閉めようとした。
「あ、いや、お待ちください!」
文官は後ろをチラリと振り返った。
するともう一人も部屋に入ってきた。
「帰れと言ったのに何故もう一人入ってくるんですか!」
「そうよ!出て行ってください!」
マリラとセリナの怒気に思わず二人とも後退りをしながらも「いや、仕事を持ってきたわけではないんです!」と必死で訴えた。
「マリラ、セリナ、もうやめて。お話を聞くわ。どうぞ中に入って」
ジュリエットが二人を嗜めてソファに座らせた。
「お茶は淹れませんので!」
プンプン怒る二人。
二人はジュリエットが座るソファの後ろに立って二人の文官を威嚇していた。
二人は居心地の悪い部屋で二人の冷たい視線にビクビクしながらもジュリエットに頭を下げた。
「今日は申し訳ありませんでした」
「貴方達がどうして謝るの?」
「私達は陛下のいらっしゃる隣の部屋で控えていました。上司達にもし王妃が否定したらみんなで自分達が言っていることが正しい、王妃は何もしなていないで好き勝手遊んでいると言うようにと待機させられていました」
「へぇ、そうなんだ」
「ジュリエット様が好き勝手遊んでる?」
「よく言えたものよね?」
ますます不機嫌になる二人にジュリエットは「我慢しなさい」と嗜めた。
「私達文官は、王妃様のおかげで仕事が捗っているので助かっております。
カリクシード陛下になってから大臣や側近が新しくなり、国の政務のことも私たちの仕事のこともよくわからないくせに無理難題を言ってきます。
陛下はもちろん仕事はできますが、ご自分も国王になって手一杯です」
ジュリエットは相槌を打つことなく黙って聞いていた。
「マリーナ殿下は政務に関わるのは王族として当たり前のことですが……何故かクリシア様がわたしもすると言い出して、陛下も私たちが助かるだろうと仕事を与えました。
しかし適当に書類にサインするだけできちんと内容を読むことなく精査することもなく、大切な予算も適当に振り分けられたり、不必要な出金が増えていたり、絶対に了承してはいけない事案も了承してしまい混乱が起きてそれを収集するのが大変でした」
「へええ?」
「うわぁ」
「信じられないわ」
ジュリエットの後ろで話を聞くたびに大袈裟に反応している二人。
「王妃が仕事をしてくださってわたし達は皆陰で感謝しております。ただそれを言いたくて代表でここにきました」
「感謝はいらないから陛下に真実を話す気はないの?」
マリラが官僚達を責めた。
「………申し訳ございません。私たちにも家庭があり生活がかかっております」
額の汗をハンカチで拭きながら俯く二人にさらにセリナも口を開く。
「ジュリエット様が酷い目に遭われるのはいいのですか?」
「………良くないと思っております」
弱々しい声で返事が返ってきた。
ジュリエットがやっと口を開いた。
「私、こう見えて心がとても強いの。自分がこの気持ちに結着が着くまで頑張るつもりなの。出来れば陛下に少しでも私を知って欲しいのだけど。無理かもしれないわね。
それにこの状況をなんとかしないと私も貴方達文官も体が壊れてしまうわ」
「はい、何か良い案はあるでしょうか?」
「そうね、無理難題を押し付けるのはトップだけよね?元々の上司達は今も皆頑張っているのよね?」
「もちろんです。この国を良くしようと国民のために頑張っております」
「はあ?何カッコつけているの!ジュリエット様にこんな仕打ちをしておきながら!」
「マリラ、間で口を挟まないでちょうだい」
「申し訳ございません」
マリラとセリナはジュリエットの後ろから2歩ほどさらに後ろに下がった。
「上の方達と一度話をしたいわ。出来れば無理難題の人たちを除いた方達だけで」
「わかりました。上司と相談して参ります。皆王妃には感謝しております」
二人は何度も頭を下げて部屋を出て行った。
「ジュリエット様!なんでそんなにお優しいのですか?あいつらみんな自分が良ければそれでいいと思っているんですよ!」
「二人とも落ち着いてちょうだい。私に謝罪にくることがどんなに大変なことかわかる?もし私をよく思わない方達にわかったらあの方達はどうなると思うの?クビになるだけではすまないわ。それでもここにきた、それはとても勇気のいることなの認めてあげてちょうだい」
「クビ以外とは?」
「そうね、下位貴族なら廃爵させられたりこの国ではまともな仕事はできなくなると思うわ。それなりの給金をもらっているのよ?わずかな稼ぎしかもらえなくなるのは彼らにとって辛いことだと思うわ」
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