【完結】愛されない王妃

たろ

文字の大きさ
上 下
5 / 26

5話

しおりを挟む
「陛下がお呼びです」

 仕事をしていると側近の一人がいきなり部屋に入ってきた。

「ノックくらいして入ってきてください!」

 マリラが側近に文句を言ったが側近はチラリと私を見て「お急ぎなんです」と面倒くさそうに言った。

「わかりましたわ」

「ジュリエット様!こんな奴の言うことを聞かなくてもいいですよ」

「なんだと!」

 マリラと陛下の側近が睨み合いを始めた。
 ジュリエットはマリラに「ありがとうマリラ。行ってくるわ」と微笑んで見せた。



 侍女の二人はジュリエットがいる陛下の部屋の手前で待たされた。

「大丈夫でしょうか?」
 不安そうに二人がジュリエットを見た。

「ふふっ、私何もしていないのよ?心配しないでちょうだい」

 ジュリエットが部屋に入るとさっきの側近と数人の護衛が壁に立っていた。

「失礼致します」

 陛下に頭を下げ挨拶をするとジュリエットにいきなり声を荒げたのは陛下。

「俺に言いたいことがあるらしいな」

「言いたいこととは?」
 ジュリエットは睨む陛下にキョトンとして聞き返した。

「はっ?何度も俺に会いたいと言ってきたのだろう?」

「私が?あっ、それは執務のことで聞きたいことがあったからです」

「何が執務だ!お前は毎日遊んでばかりで碌に仕事もしていないことはクリシアとマリーナから聞いている。官僚や大臣達も頭を痛めているぞ」

「………遊ぶとは?」

「ふざけるな!俺の前では大人しくしているが毎日のように侍女やメイド、騎士達に暴言を吐いているらしいな」

「……暴言?侍女やメイド、騎士?」

「お前に割り当てられた予算と実際に使った金額を見てみろ!足りなくてクリシアの予算まで使い込んでいるではないか!向こうの帝国でもかなりの金を使いまくっていたくせに、この国に帰ってきてからも宝石やドレスを買い込んで!」

「私に予算があったのですか?」

 ジュリエットは思わず自分の着ているドレスを見た。今きているドレスは一年半前、嫁いでくる時に両親が作ってくれたものでもう型が古くなっている。

 身につけている宝石も結婚前に両親に誕生日の時にプレゼントされた真珠のピアスくらいだ。

 確かマリーナやクリシアは見かけるたびにドレスや宝石を変えて着飾っている。

 ジュリエットは、自分の予算を二人が勝手に使い自分が無駄遣いをしているように陛下に言っているのだとすぐにわかった。

 だけどそのことを伝えようと思っても陛下は二人のことしか信じようとはしない。

 だから敢えて言い訳はやめて黙っていることにした。

「はっ、よく見ればパッとしないドレスを着ているな?俺にバレないように着替えてきたのか?
 お前がどれだけ傲慢でいやな女なのか話しは聞いているんだ」

 ーー傲慢?いやな女……

 ジュリエットは陛下にそこまで言われて胸がズキリと痛む。

 幼い頃、お茶会で出会った王子様はとてもカッコよかった。そして優しかったのだ。

 転んでドレスが汚れて泣いているジュリエットに「大丈夫?泣かないで?」と優しく声をかけてくれた。

 侍女達が着替えさせてくれたあと、カリクシードが待っていてくれた。

 二人でおしゃべりをしながらお菓子を食べた。
 目が合うと二人で微笑みあった。

 青い空がとても綺麗だった。

「君の髪の毛は光に当たるとキラキラしてとても綺麗だね?」

 ジュリエットの髪はみんなより色素が薄く銀髪でよくみんなに「白髪みたい」とか「おばあちゃんみたいな髪」と言われていた。

「きれい?」

「うん、とっても綺麗だよ」

「王子様、ありがとう」

 そしてまた二人は目を合わせ微笑みあった。

 ジュリエットの初恋はずっと続いた。

 ずっと忘れられなかった。

 でもジュリエットはその後お茶会に出席することはなかった。

 ある理由から。


 そして15歳の年頃になり婚約者を選ばなければいけないと父に言われても「まだ嫌だ」と泣いて困らせた。

 ずっと嫌がっていたジュリエットに王命でカリクシードとの結婚を言い渡された。
 カリクシードとの結婚を夢見ることはあったが、現実は絶対無理だと諦めていた。だからこそジュリエットは大変でも一生彼に添い遂げたい、と願った。

 カリクシードに愛する人がいてその人と結婚することは叶わなかったと言うことはジュリエットももちろん噂で知っていた。

 でももう別れていると思っていた。だからこそ結婚を受け入れたのだと。

 まさか、結婚は仮初でジュリエットは放置されてしまうなど夢にも思わなかった。

 人質としてハワー帝国で過ごしている間もまだ自分が努力すればほんの少しでも自分にも望みがあるのではと希望を持っていた。

 結婚してひと月後には人質として向かうように言われた。

 ーー私は結婚してまだ一年と少し。
 ーー陛下と結婚生活を過ごすのもまだ数ヶ月。
 ーーまだまだ、なんとかなるかもしれないわ。

 だけど、帝国から帰国して現実は甘くなかった。

 全て自分が悪者になっている。

 私はここでは悪妻で悪女なのね。

 ふと窓の外を見ると心配そうに鷹のアースがクルクルと飛び回っているのに気がついた。

「何を見ているんだ?」

 陛下がジュリエットの目線を追った。

「鷹?」

「あの子は私のお友達なんです」

 ジュリエットがそう言うと陛下は「撃ち落とせ」と騎士に命令した。

「な、なにを……」

 ジュリエットは窓から体を乗り出した。

「アース、逃げて!お願い!逃げて!」

 騎士達は陛下に言われるがまま、持っていた銃でジュリエットのいる隣の窓から撃ち始めた。


「アース、逃げて!お願い、撃たないで!あの子はベルナンドが私にとくださったの。皇帝陛下から賜ったものなの!殺して仕舞えば大きな問題になるわ!」

 ジュリエットは皇帝の名を出してなんとか止めようとした。

「撃つのをやめろ」

 陛下の声は怒気をはらんでいた。

「ほお、皇帝のことを名で呼ぶのか?」

 ハッとして我に返ったジュリエット。

 ジュリエットは咄嗟に皇帝の名をいつも通りに呼んでいた。

ーーしまった。






しおりを挟む
感想 22

あなたにおすすめの小説

ねえ、テレジア。君も愛人を囲って構わない。

夏目
恋愛
愛している王子が愛人を連れてきた。私も愛人をつくっていいと言われた。私は、あなたが好きなのに。 (小説家になろう様にも投稿しています)

(完結)婚約破棄から始まる真実の愛

青空一夏
恋愛
 私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。  女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?  美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

そういうとこだぞ

あとさん♪
恋愛
「そういえば、なぜオフィーリアが出迎えない? オフィーリアはどうした?」  ウィリアムが宮廷で宰相たちと激論を交わし、心身ともに疲れ果ててシャーウッド公爵家に帰ったとき。  いつもなら出迎えるはずの妻がいない。 「公爵閣下。奥さまはご不在です。ここ一週間ほど」 「――は?」  ウィリアムは元老院議員だ。彼が王宮で忙しく働いている間、公爵家を守るのは公爵夫人たるオフィーリアの役目である。主人のウィリアムに断りもなく出かけるとはいかがなものか。それも、息子を連れてなど……。 これは、どこにでもいる普通の貴族夫婦のお話。 彼らの選んだ未来。 ※設定はゆるんゆるん。 ※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください。 ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

お飾りの妃なんて可哀想だと思ったら

mios
恋愛
妃を亡くした国王には愛妾が一人いる。 新しく迎えた若い王妃は、そんな愛妾に見向きもしない。

処理中です...