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5話
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「陛下がお呼びです」
仕事をしていると側近の一人がいきなり部屋に入ってきた。
「ノックくらいして入ってきてください!」
マリラが側近に文句を言ったが側近はチラリと私を見て「お急ぎなんです」と面倒くさそうに言った。
「わかりましたわ」
「ジュリエット様!こんな奴の言うことを聞かなくてもいいですよ」
「なんだと!」
マリラと陛下の側近が睨み合いを始めた。
ジュリエットはマリラに「ありがとうマリラ。行ってくるわ」と微笑んで見せた。
侍女の二人はジュリエットがいる陛下の部屋の手前で待たされた。
「大丈夫でしょうか?」
不安そうに二人がジュリエットを見た。
「ふふっ、私何もしていないのよ?心配しないでちょうだい」
ジュリエットが部屋に入るとさっきの側近と数人の護衛が壁に立っていた。
「失礼致します」
陛下に頭を下げ挨拶をするとジュリエットにいきなり声を荒げたのは陛下。
「俺に言いたいことがあるらしいな」
「言いたいこととは?」
ジュリエットは睨む陛下にキョトンとして聞き返した。
「はっ?何度も俺に会いたいと言ってきたのだろう?」
「私が?あっ、それは執務のことで聞きたいことがあったからです」
「何が執務だ!お前は毎日遊んでばかりで碌に仕事もしていないことはクリシアとマリーナから聞いている。官僚や大臣達も頭を痛めているぞ」
「………遊ぶとは?」
「ふざけるな!俺の前では大人しくしているが毎日のように侍女やメイド、騎士達に暴言を吐いているらしいな」
「……暴言?侍女やメイド、騎士?」
「お前に割り当てられた予算と実際に使った金額を見てみろ!足りなくてクリシアの予算まで使い込んでいるではないか!向こうの帝国でもかなりの金を使いまくっていたくせに、この国に帰ってきてからも宝石やドレスを買い込んで!」
「私に予算があったのですか?」
ジュリエットは思わず自分の着ているドレスを見た。今きているドレスは一年半前、嫁いでくる時に両親が作ってくれたものでもう型が古くなっている。
身につけている宝石も結婚前に両親に誕生日の時にプレゼントされた真珠のピアスくらいだ。
確かマリーナやクリシアは見かけるたびにドレスや宝石を変えて着飾っている。
ジュリエットは、自分の予算を二人が勝手に使い自分が無駄遣いをしているように陛下に言っているのだとすぐにわかった。
だけどそのことを伝えようと思っても陛下は二人のことしか信じようとはしない。
だから敢えて言い訳はやめて黙っていることにした。
「はっ、よく見ればパッとしないドレスを着ているな?俺にバレないように着替えてきたのか?
お前がどれだけ傲慢でいやな女なのか話しは聞いているんだ」
ーー傲慢?いやな女……
ジュリエットは陛下にそこまで言われて胸がズキリと痛む。
幼い頃、お茶会で出会った王子様はとてもカッコよかった。そして優しかったのだ。
転んでドレスが汚れて泣いているジュリエットに「大丈夫?泣かないで?」と優しく声をかけてくれた。
侍女達が着替えさせてくれたあと、カリクシードが待っていてくれた。
二人でおしゃべりをしながらお菓子を食べた。
目が合うと二人で微笑みあった。
青い空がとても綺麗だった。
「君の髪の毛は光に当たるとキラキラしてとても綺麗だね?」
ジュリエットの髪はみんなより色素が薄く銀髪でよくみんなに「白髪みたい」とか「おばあちゃんみたいな髪」と言われていた。
「きれい?」
「うん、とっても綺麗だよ」
「王子様、ありがとう」
そしてまた二人は目を合わせ微笑みあった。
ジュリエットの初恋はずっと続いた。
ずっと忘れられなかった。
でもジュリエットはその後お茶会に出席することはなかった。
ある理由から。
そして15歳の年頃になり婚約者を選ばなければいけないと父に言われても「まだ嫌だ」と泣いて困らせた。
ずっと嫌がっていたジュリエットに王命でカリクシードとの結婚を言い渡された。
カリクシードとの結婚を夢見ることはあったが、現実は絶対無理だと諦めていた。だからこそジュリエットは大変でも一生彼に添い遂げたい、と願った。
カリクシードに愛する人がいてその人と結婚することは叶わなかったと言うことはジュリエットももちろん噂で知っていた。
でももう別れていると思っていた。だからこそ結婚を受け入れたのだと。
まさか、結婚は仮初でジュリエットは放置されてしまうなど夢にも思わなかった。
人質としてハワー帝国で過ごしている間もまだ自分が努力すればほんの少しでも自分にも望みがあるのではと希望を持っていた。
結婚してひと月後には人質として向かうように言われた。
ーー私は結婚してまだ一年と少し。
ーー陛下と結婚生活を過ごすのもまだ数ヶ月。
ーーまだまだ、なんとかなるかもしれないわ。
だけど、帝国から帰国して現実は甘くなかった。
全て自分が悪者になっている。
私はここでは悪妻で悪女なのね。
ふと窓の外を見ると心配そうに鷹のアースがクルクルと飛び回っているのに気がついた。
「何を見ているんだ?」
陛下がジュリエットの目線を追った。
「鷹?」
「あの子は私のお友達なんです」
ジュリエットがそう言うと陛下は「撃ち落とせ」と騎士に命令した。
「な、なにを……」
ジュリエットは窓から体を乗り出した。
「アース、逃げて!お願い!逃げて!」
騎士達は陛下に言われるがまま、持っていた銃でジュリエットのいる隣の窓から撃ち始めた。
「アース、逃げて!お願い、撃たないで!あの子はベルナンドが私にとくださったの。皇帝陛下から賜ったものなの!殺して仕舞えば大きな問題になるわ!」
ジュリエットは皇帝の名を出してなんとか止めようとした。
「撃つのをやめろ」
陛下の声は怒気をはらんでいた。
「ほお、皇帝のことを名で呼ぶのか?」
ハッとして我に返ったジュリエット。
ジュリエットは咄嗟に皇帝の名をいつも通りに呼んでいた。
ーーしまった。
仕事をしていると側近の一人がいきなり部屋に入ってきた。
「ノックくらいして入ってきてください!」
マリラが側近に文句を言ったが側近はチラリと私を見て「お急ぎなんです」と面倒くさそうに言った。
「わかりましたわ」
「ジュリエット様!こんな奴の言うことを聞かなくてもいいですよ」
「なんだと!」
マリラと陛下の側近が睨み合いを始めた。
ジュリエットはマリラに「ありがとうマリラ。行ってくるわ」と微笑んで見せた。
侍女の二人はジュリエットがいる陛下の部屋の手前で待たされた。
「大丈夫でしょうか?」
不安そうに二人がジュリエットを見た。
「ふふっ、私何もしていないのよ?心配しないでちょうだい」
ジュリエットが部屋に入るとさっきの側近と数人の護衛が壁に立っていた。
「失礼致します」
陛下に頭を下げ挨拶をするとジュリエットにいきなり声を荒げたのは陛下。
「俺に言いたいことがあるらしいな」
「言いたいこととは?」
ジュリエットは睨む陛下にキョトンとして聞き返した。
「はっ?何度も俺に会いたいと言ってきたのだろう?」
「私が?あっ、それは執務のことで聞きたいことがあったからです」
「何が執務だ!お前は毎日遊んでばかりで碌に仕事もしていないことはクリシアとマリーナから聞いている。官僚や大臣達も頭を痛めているぞ」
「………遊ぶとは?」
「ふざけるな!俺の前では大人しくしているが毎日のように侍女やメイド、騎士達に暴言を吐いているらしいな」
「……暴言?侍女やメイド、騎士?」
「お前に割り当てられた予算と実際に使った金額を見てみろ!足りなくてクリシアの予算まで使い込んでいるではないか!向こうの帝国でもかなりの金を使いまくっていたくせに、この国に帰ってきてからも宝石やドレスを買い込んで!」
「私に予算があったのですか?」
ジュリエットは思わず自分の着ているドレスを見た。今きているドレスは一年半前、嫁いでくる時に両親が作ってくれたものでもう型が古くなっている。
身につけている宝石も結婚前に両親に誕生日の時にプレゼントされた真珠のピアスくらいだ。
確かマリーナやクリシアは見かけるたびにドレスや宝石を変えて着飾っている。
ジュリエットは、自分の予算を二人が勝手に使い自分が無駄遣いをしているように陛下に言っているのだとすぐにわかった。
だけどそのことを伝えようと思っても陛下は二人のことしか信じようとはしない。
だから敢えて言い訳はやめて黙っていることにした。
「はっ、よく見ればパッとしないドレスを着ているな?俺にバレないように着替えてきたのか?
お前がどれだけ傲慢でいやな女なのか話しは聞いているんだ」
ーー傲慢?いやな女……
ジュリエットは陛下にそこまで言われて胸がズキリと痛む。
幼い頃、お茶会で出会った王子様はとてもカッコよかった。そして優しかったのだ。
転んでドレスが汚れて泣いているジュリエットに「大丈夫?泣かないで?」と優しく声をかけてくれた。
侍女達が着替えさせてくれたあと、カリクシードが待っていてくれた。
二人でおしゃべりをしながらお菓子を食べた。
目が合うと二人で微笑みあった。
青い空がとても綺麗だった。
「君の髪の毛は光に当たるとキラキラしてとても綺麗だね?」
ジュリエットの髪はみんなより色素が薄く銀髪でよくみんなに「白髪みたい」とか「おばあちゃんみたいな髪」と言われていた。
「きれい?」
「うん、とっても綺麗だよ」
「王子様、ありがとう」
そしてまた二人は目を合わせ微笑みあった。
ジュリエットの初恋はずっと続いた。
ずっと忘れられなかった。
でもジュリエットはその後お茶会に出席することはなかった。
ある理由から。
そして15歳の年頃になり婚約者を選ばなければいけないと父に言われても「まだ嫌だ」と泣いて困らせた。
ずっと嫌がっていたジュリエットに王命でカリクシードとの結婚を言い渡された。
カリクシードとの結婚を夢見ることはあったが、現実は絶対無理だと諦めていた。だからこそジュリエットは大変でも一生彼に添い遂げたい、と願った。
カリクシードに愛する人がいてその人と結婚することは叶わなかったと言うことはジュリエットももちろん噂で知っていた。
でももう別れていると思っていた。だからこそ結婚を受け入れたのだと。
まさか、結婚は仮初でジュリエットは放置されてしまうなど夢にも思わなかった。
人質としてハワー帝国で過ごしている間もまだ自分が努力すればほんの少しでも自分にも望みがあるのではと希望を持っていた。
結婚してひと月後には人質として向かうように言われた。
ーー私は結婚してまだ一年と少し。
ーー陛下と結婚生活を過ごすのもまだ数ヶ月。
ーーまだまだ、なんとかなるかもしれないわ。
だけど、帝国から帰国して現実は甘くなかった。
全て自分が悪者になっている。
私はここでは悪妻で悪女なのね。
ふと窓の外を見ると心配そうに鷹のアースがクルクルと飛び回っているのに気がついた。
「何を見ているんだ?」
陛下がジュリエットの目線を追った。
「鷹?」
「あの子は私のお友達なんです」
ジュリエットがそう言うと陛下は「撃ち落とせ」と騎士に命令した。
「な、なにを……」
ジュリエットは窓から体を乗り出した。
「アース、逃げて!お願い!逃げて!」
騎士達は陛下に言われるがまま、持っていた銃でジュリエットのいる隣の窓から撃ち始めた。
「アース、逃げて!お願い、撃たないで!あの子はベルナンドが私にとくださったの。皇帝陛下から賜ったものなの!殺して仕舞えば大きな問題になるわ!」
ジュリエットは皇帝の名を出してなんとか止めようとした。
「撃つのをやめろ」
陛下の声は怒気をはらんでいた。
「ほお、皇帝のことを名で呼ぶのか?」
ハッとして我に返ったジュリエット。
ジュリエットは咄嗟に皇帝の名をいつも通りに呼んでいた。
ーーしまった。
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