4 / 26
4話
しおりを挟む
数日は静かに過ごすことができた。
流石に帝国からここまでの旅は、心も体もへとへとで陛下にお会いした後、部屋に戻りベッドに横になるとすぐに眠りについてしまった。
そのあとはお決まりの高熱が出てしばらく寝込むことになった。
ジュリエットは人より少し体が弱く子供の頃から疲れると熱が出やすい。
次の日からしっかり仕事を運んできた陛下の側近達もジュリエットの様子を見て、机に置いた書類をいそいそと手に取り部屋を出て行った。
セリナとマリラは腰に手を置き、「貴方達、なんて非情なんですか!ジュリエット様を見ればお分かりになるでしょう!」そう言って、側近達を数日は追い返してくれた。
でも流石に1週間も経つとその言い訳も出来なくなり、ジュリエットは人質になる前のように毎日政務に追われることになった。
結婚してすぐに陛下に顧みられない王妃は、皆から嘲笑われ陰で噂された。
『愛されない王妃』と。
陛下の愛は全てクリシア様へと注がれた。
毎晩クリシア様の部屋へ訪れ共に過ごしす陛下、ジュリエットには全く関わろうとしない。
陛下と二人の寝室であったはずの部屋は誰も使うことはなかった。ジュリエットも自室のベッドで眠り、二人の主寝室には初夜の日だけ過ごしたっきり、二度と足を踏み入れることはしなかった。
そしてジュリエットは人質として帝国に行くその日の朝まで、たくさんの書類と過ごした。
妹のマリーナの仕事も気がつけばジュリエットに回されていた。
ではジュリエットがいない間どうしていたのか。
マリーナとクリシアが行ってきたと言っているがほとんど官僚たちが陰で手伝ってなんとか回していた。ジュリエットが嫁ぐ前まではそれが当たり前だった。
いや、嫁ぐ前は前国王が優秀で部下たちを上手く使いきちんと政務を回していた。
しかしカリクシードの代になり前国王と共に働いた者たちが引退して新しい側近や官僚たちが増えて、上手く回すことができなくなっていた。
そこに優秀でテキパキと仕事ができるジュリエットが王妃として嫁いできた。
ジュリエットが陛下の手が回らないところを細かく采配することで政務がうまく回り始めていた。
なのにジュリエットが人質となり帝国へ行ってしまい、官僚や側近はまたこの一年間大変な思いをしながらなんとか凌いできた。
その大変さからジュリエットの大切さを知り、戻ってきたら尊えばよかったのに、あまりの忙しさと大変さの恨みを全てジュリエットへと向けてしまった。
「王妃、ここは間違えているのでは?」
「こちらを先にして欲しいとお願いしましたよね?」
「土地の改良案?そんなもの今考えてどうするんですか?それよりも今目の前の問題を解決する方が先でしょう?ったく、小娘の戯言など時間の無駄です」
ジュリエットが帝国で学んだ国づくりを少しでもフォード王国にも取り入れたいという思いは簡単にねじ伏せられた。
陛下に会う機会すら作ってもらえず、大臣や官僚、陛下の側近たちに何度となく訴えたが聞いてもらえなかった。
朝叩き起こされてすぐに机の上の山積みになった書類に目を通し決済を行う。
大切な報告書などはほとんど陛下に回され面倒な書類だけが回ってくる。目を通し、調べ物をして確認する。一つ一つに手間がかかる。
せめて書類の中身を作成した者を寄越して話を聞きたいと頼めば、「貴方様は頭がよろしい、優秀なお方ですから私達の話など聞かなくてもお分かりになるでしょう」と言って聞く耳を持ってはくれない。
やっと仕事を終えて、食事を摂っていると「皆まだ働いているのに」と誰かしら来ては嫌味を言って去っていく。
「私今日初めての食事なの。食べることすらいけないのかしら?」
大きな溜息を吐きスプーンをテーブルに置いた。
「セリナ、もう下げてちょうだい」
「そんな……駄目です。毎日朝早くからあいつらはジュリエット様を叩き起こして仕事をさせて、食事すら食べていないのに、嫌味ばかり」
「もう離縁してこの国を出ていきませんか?」
セリナとマリラが悔し涙を流した。
「私がこの国を去ればお父様にご迷惑をおかけすることになるわ。それに私陛下を支えたいの。陛下の代になってまだまだうまく仕事が回らないからみんなイライラして不満が溜まっているだけだと思うの。もう少し時間が経てば落ち着いてくると思うの」
「ジュリエット様、窓の外を見てください」
セリナがカーテンを広げ、窓を開けた。
外は暗いはずなのに庭園はたくさんの灯りに照らされていた。
そこから笑い声がたくさん聞こえてきた。
マリーナやクリシラ達が貴族子女や婦人達を呼びガーデンパーティーを開催していた。
たくさんのご馳走に高価なお酒、美味しそうなケーキやデザートが用意されてみんな着飾って楽しそうに笑い合っていた。
「美味しそうね?」
ジュリエットが間の抜けた発言をしたのでマリラが怒った。
「悔しくないのですか?今日初めての食事に嫌味を言われたんですよ?向こうは仕事もせず遊んでるんです。一生懸命働いてサンドイッチをほんの少し食べただけで………わたし、悔しくて、どうしてジュリエット様がこんなお辛い想いをするんですか?」
マリラとセリナが悔しいと泣き出した。
ジュリエットは二人の肩にそっと手を置いた。
「ごめんなさいね、不甲斐ない主人で。泣かないでちょうだい。あなた達が泣いていると私まで悲しくなるわ」
流石に帝国からここまでの旅は、心も体もへとへとで陛下にお会いした後、部屋に戻りベッドに横になるとすぐに眠りについてしまった。
そのあとはお決まりの高熱が出てしばらく寝込むことになった。
ジュリエットは人より少し体が弱く子供の頃から疲れると熱が出やすい。
次の日からしっかり仕事を運んできた陛下の側近達もジュリエットの様子を見て、机に置いた書類をいそいそと手に取り部屋を出て行った。
セリナとマリラは腰に手を置き、「貴方達、なんて非情なんですか!ジュリエット様を見ればお分かりになるでしょう!」そう言って、側近達を数日は追い返してくれた。
でも流石に1週間も経つとその言い訳も出来なくなり、ジュリエットは人質になる前のように毎日政務に追われることになった。
結婚してすぐに陛下に顧みられない王妃は、皆から嘲笑われ陰で噂された。
『愛されない王妃』と。
陛下の愛は全てクリシア様へと注がれた。
毎晩クリシア様の部屋へ訪れ共に過ごしす陛下、ジュリエットには全く関わろうとしない。
陛下と二人の寝室であったはずの部屋は誰も使うことはなかった。ジュリエットも自室のベッドで眠り、二人の主寝室には初夜の日だけ過ごしたっきり、二度と足を踏み入れることはしなかった。
そしてジュリエットは人質として帝国に行くその日の朝まで、たくさんの書類と過ごした。
妹のマリーナの仕事も気がつけばジュリエットに回されていた。
ではジュリエットがいない間どうしていたのか。
マリーナとクリシアが行ってきたと言っているがほとんど官僚たちが陰で手伝ってなんとか回していた。ジュリエットが嫁ぐ前まではそれが当たり前だった。
いや、嫁ぐ前は前国王が優秀で部下たちを上手く使いきちんと政務を回していた。
しかしカリクシードの代になり前国王と共に働いた者たちが引退して新しい側近や官僚たちが増えて、上手く回すことができなくなっていた。
そこに優秀でテキパキと仕事ができるジュリエットが王妃として嫁いできた。
ジュリエットが陛下の手が回らないところを細かく采配することで政務がうまく回り始めていた。
なのにジュリエットが人質となり帝国へ行ってしまい、官僚や側近はまたこの一年間大変な思いをしながらなんとか凌いできた。
その大変さからジュリエットの大切さを知り、戻ってきたら尊えばよかったのに、あまりの忙しさと大変さの恨みを全てジュリエットへと向けてしまった。
「王妃、ここは間違えているのでは?」
「こちらを先にして欲しいとお願いしましたよね?」
「土地の改良案?そんなもの今考えてどうするんですか?それよりも今目の前の問題を解決する方が先でしょう?ったく、小娘の戯言など時間の無駄です」
ジュリエットが帝国で学んだ国づくりを少しでもフォード王国にも取り入れたいという思いは簡単にねじ伏せられた。
陛下に会う機会すら作ってもらえず、大臣や官僚、陛下の側近たちに何度となく訴えたが聞いてもらえなかった。
朝叩き起こされてすぐに机の上の山積みになった書類に目を通し決済を行う。
大切な報告書などはほとんど陛下に回され面倒な書類だけが回ってくる。目を通し、調べ物をして確認する。一つ一つに手間がかかる。
せめて書類の中身を作成した者を寄越して話を聞きたいと頼めば、「貴方様は頭がよろしい、優秀なお方ですから私達の話など聞かなくてもお分かりになるでしょう」と言って聞く耳を持ってはくれない。
やっと仕事を終えて、食事を摂っていると「皆まだ働いているのに」と誰かしら来ては嫌味を言って去っていく。
「私今日初めての食事なの。食べることすらいけないのかしら?」
大きな溜息を吐きスプーンをテーブルに置いた。
「セリナ、もう下げてちょうだい」
「そんな……駄目です。毎日朝早くからあいつらはジュリエット様を叩き起こして仕事をさせて、食事すら食べていないのに、嫌味ばかり」
「もう離縁してこの国を出ていきませんか?」
セリナとマリラが悔し涙を流した。
「私がこの国を去ればお父様にご迷惑をおかけすることになるわ。それに私陛下を支えたいの。陛下の代になってまだまだうまく仕事が回らないからみんなイライラして不満が溜まっているだけだと思うの。もう少し時間が経てば落ち着いてくると思うの」
「ジュリエット様、窓の外を見てください」
セリナがカーテンを広げ、窓を開けた。
外は暗いはずなのに庭園はたくさんの灯りに照らされていた。
そこから笑い声がたくさん聞こえてきた。
マリーナやクリシラ達が貴族子女や婦人達を呼びガーデンパーティーを開催していた。
たくさんのご馳走に高価なお酒、美味しそうなケーキやデザートが用意されてみんな着飾って楽しそうに笑い合っていた。
「美味しそうね?」
ジュリエットが間の抜けた発言をしたのでマリラが怒った。
「悔しくないのですか?今日初めての食事に嫌味を言われたんですよ?向こうは仕事もせず遊んでるんです。一生懸命働いてサンドイッチをほんの少し食べただけで………わたし、悔しくて、どうしてジュリエット様がこんなお辛い想いをするんですか?」
マリラとセリナが悔しいと泣き出した。
ジュリエットは二人の肩にそっと手を置いた。
「ごめんなさいね、不甲斐ない主人で。泣かないでちょうだい。あなた達が泣いていると私まで悲しくなるわ」
702
お気に入りに追加
1,429
あなたにおすすめの小説
(完結)婚約破棄から始まる真実の愛
青空一夏
恋愛
私は、幼い頃からの婚約者の公爵様から、『つまらない女性なのは罪だ。妹のアリッサ王女と婚約する』と言われた。私は、そんなにつまらない人間なのだろうか?お父様もお母様も、砂糖菓子のようなかわいい雰囲気のアリッサだけをかわいがる。
女王であったお婆さまのお気に入りだった私は、一年前にお婆さまが亡くなってから虐げられる日々をおくっていた。婚約者を奪われ、妹の代わりに隣国の老王に嫁がされる私はどうなってしまうの?
美しく聡明な王女が、両親や妹に酷い仕打ちを受けながらも、結局は一番幸せになっているという内容になる(予定です)
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?
秋月一花
恋愛
本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。
……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。
彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?
もう我慢の限界というものです。
「離婚してください」
「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」
白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?
あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。
※カクヨム様にも投稿しています。
そういうとこだぞ
あとさん♪
恋愛
「そういえば、なぜオフィーリアが出迎えない? オフィーリアはどうした?」
ウィリアムが宮廷で宰相たちと激論を交わし、心身ともに疲れ果ててシャーウッド公爵家に帰ったとき。
いつもなら出迎えるはずの妻がいない。
「公爵閣下。奥さまはご不在です。ここ一週間ほど」
「――は?」
ウィリアムは元老院議員だ。彼が王宮で忙しく働いている間、公爵家を守るのは公爵夫人たるオフィーリアの役目である。主人のウィリアムに断りもなく出かけるとはいかがなものか。それも、息子を連れてなど……。
これは、どこにでもいる普通の貴族夫婦のお話。
彼らの選んだ未来。
※設定はゆるんゆるん。
※作者独自のなんちゃってご都合主義異世界だとご了承ください。
※この話は小説家になろうにも掲載しています。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる