【完結】愛されない王妃

たろ

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4話

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 数日は静かに過ごすことができた。

 流石に帝国からここまでの旅は、心も体もへとへとで陛下にお会いした後、部屋に戻りベッドに横になるとすぐに眠りについてしまった。

 そのあとはお決まりの高熱が出てしばらく寝込むことになった。

 ジュリエットは人より少し体が弱く子供の頃から疲れると熱が出やすい。

 次の日からしっかり仕事を運んできた陛下の側近達もジュリエットの様子を見て、机に置いた書類をいそいそと手に取り部屋を出て行った。

 セリナとマリラは腰に手を置き、「貴方達、なんて非情なんですか!ジュリエット様を見ればお分かりになるでしょう!」そう言って、側近達を数日は追い返してくれた。

 でも流石に1週間も経つとその言い訳も出来なくなり、ジュリエットは人質になる前のように毎日政務に追われることになった。

 結婚してすぐに陛下に顧みられない王妃は、皆から嘲笑われ陰で噂された。

『愛されない王妃』と。

 陛下の愛は全てクリシア様へと注がれた。

 毎晩クリシア様の部屋へ訪れ共に過ごしす陛下、ジュリエットには全く関わろうとしない。

 陛下と二人の寝室であったはずの部屋は誰も使うことはなかった。ジュリエットも自室のベッドで眠り、二人の主寝室には初夜の日だけ過ごしたっきり、二度と足を踏み入れることはしなかった。

 そしてジュリエットは人質として帝国に行くその日の朝まで、たくさんの書類と過ごした。

 妹のマリーナの仕事も気がつけばジュリエットに回されていた。

 ではジュリエットがいない間どうしていたのか。

 マリーナとクリシアが行ってきたと言っているがほとんど官僚たちが陰で手伝ってなんとか回していた。ジュリエットが嫁ぐ前まではそれが当たり前だった。

 いや、嫁ぐ前は前国王が優秀で部下たちを上手く使いきちんと政務を回していた。

 しかしカリクシードの代になり前国王と共に働いた者たちが引退して新しい側近や官僚たちが増えて、上手く回すことができなくなっていた。

 そこに優秀でテキパキと仕事ができるジュリエットが王妃として嫁いできた。

 ジュリエットが陛下の手が回らないところを細かく采配することで政務がうまく回り始めていた。

 なのにジュリエットが人質となり帝国へ行ってしまい、官僚や側近はまたこの一年間大変な思いをしながらなんとか凌いできた。

 その大変さからジュリエットの大切さを知り、戻ってきたら尊えばよかったのに、あまりの忙しさと大変さの恨みを全てジュリエットへと向けてしまった。

「王妃、ここは間違えているのでは?」
「こちらを先にして欲しいとお願いしましたよね?」
「土地の改良案?そんなもの今考えてどうするんですか?それよりも今目の前の問題を解決する方が先でしょう?ったく、小娘の戯言など時間の無駄です」

 ジュリエットが帝国で学んだ国づくりを少しでもフォード王国にも取り入れたいという思いは簡単にねじ伏せられた。

 陛下に会う機会すら作ってもらえず、大臣や官僚、陛下の側近たちに何度となく訴えたが聞いてもらえなかった。

 朝叩き起こされてすぐに机の上の山積みになった書類に目を通し決済を行う。

 大切な報告書などはほとんど陛下に回され面倒な書類だけが回ってくる。目を通し、調べ物をして確認する。一つ一つに手間がかかる。

 せめて書類の中身を作成した者を寄越して話を聞きたいと頼めば、「貴方様は頭がよろしい、優秀なお方ですから私達の話など聞かなくてもお分かりになるでしょう」と言って聞く耳を持ってはくれない。

 やっと仕事を終えて、食事を摂っていると「皆まだ働いているのに」と誰かしら来ては嫌味を言って去っていく。

「私今日初めての食事なの。食べることすらいけないのかしら?」

 大きな溜息を吐きスプーンをテーブルに置いた。
「セリナ、もう下げてちょうだい」

「そんな……駄目です。毎日朝早くからあいつらはジュリエット様を叩き起こして仕事をさせて、食事すら食べていないのに、嫌味ばかり」

「もう離縁してこの国を出ていきませんか?」

 セリナとマリラが悔し涙を流した。

「私がこの国を去ればお父様にご迷惑をおかけすることになるわ。それに私陛下を支えたいの。陛下の代になってまだまだうまく仕事が回らないからみんなイライラして不満が溜まっているだけだと思うの。もう少し時間が経てば落ち着いてくると思うの」

「ジュリエット様、窓の外を見てください」

 セリナがカーテンを広げ、窓を開けた。

 外は暗いはずなのに庭園はたくさんの灯りに照らされていた。

 そこから笑い声がたくさん聞こえてきた。

 マリーナやクリシラ達が貴族子女や婦人達を呼びガーデンパーティーを開催していた。

 たくさんのご馳走に高価なお酒、美味しそうなケーキやデザートが用意されてみんな着飾って楽しそうに笑い合っていた。

「美味しそうね?」

 ジュリエットが間の抜けた発言をしたのでマリラが怒った。

「悔しくないのですか?今日初めての食事に嫌味を言われたんですよ?向こうは仕事もせず遊んでるんです。一生懸命働いてサンドイッチをほんの少し食べただけで………わたし、悔しくて、どうしてジュリエット様がこんなお辛い想いをするんですか?」

 マリラとセリナが悔しいと泣き出した。

 ジュリエットは二人の肩にそっと手を置いた。

「ごめんなさいね、不甲斐ない主人で。泣かないでちょうだい。あなた達が泣いていると私まで悲しくなるわ」
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