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3話
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久しぶりの祖国に帰って来たジュリエットは馬車の中からじっと外を見つめた。
無表情のジュリエットがふと優しい笑顔を外に向けた。
気になった騎士も窓に視線を移すと子供達が母親と楽しそうに笑い合っている姿があった。
ーーこのお方は感情を表には出さないだけで優しいお方なんだ。
騎士二人はジュリエットが外を見ている姿を静かに見守っていた。
途中、山道は悪路でガタガタと揺れきつかったはず。なのに泣き言も文句も言わず耐えていた。
数日かけて王城についた。
人質として過ごしたジュリエットに馬車での移動はかなり疲弊しているであろうことが伺える。少し顔色も悪く馬車を降りる時フラフラしていた。
「王妃様、大丈夫ですか?一旦お部屋に行きお休みになりますか?」
「いいえ、先に陛下にご挨拶を」
そう言うと陛下のいる宮へと歩き出した。
馬車が着くことは先ぶれを出していた。しかし出迎えたのは騎士団と大臣数名とジュリエットが侯爵家から連れて来た侍女数名だけと寂しい出迎えだった。
共に戻って来た騎士は悔しさに唇を噛み締めた。
一年……王女の身代わりで人質として暮らした王妃にこの出迎え。
ーーあまりにも酷い扱いだ。
忙しい陛下が無理でも毎日遊んで暮らす王女様くらいは出迎え、労い、感謝の言葉をかけられてもいいのでは?
ジュリエットは誰の手も借りず一人ゆっくりと歩を進めた。本来なら陛下のエスコートがあるはずなのに。
騎士団長が「ジュリエット様、少しふらついております。わたしの手をどうぞ」と声をかけた。
この中で一番上にいる団長が見ていられなくて。
「団長、ありがとう。でも私は自分の力で歩きたいの。久しぶりのこの王城をゆっくりと楽しみながら」
「了解いたしました。無理なさらず」
「ええ」
ジュリエットは団長にお礼を言うとゆっくりまた歩き出した。
「陛下、ただいま帰りました」
ジュリエットが深々と頭を下げた。
カリクシードは隣に愛妾であるクリシアを王席の横に座らせていた。
そこは王妃であるジュリエットが本来ならば座る場所。
チラリとクリシアを見たジュリエットはその事に対して一言も追求することはなかった。
「ジュリエット、疲れたであろう。一年間ご苦労であった」
「いえ、国のために仕えただけですので」
「今日はゆっくりと過ごして体を休めるように。明日からは王妃として働いてもらわなければならない。今日まではクリシアがお前の代わりに仕事を手伝ってくれていたんだ」
「陛下、わたしはこの国のためにただ働かせていただいていただけです。王妃様のように帝国で贅沢な暮らしをしていた方とは違って、少しでもこの国のお役に立てるように、ただ、ただ、そう思っておりました」
「クリシアは慣れない仕事をよく頑張ってくれた。ジュリエット、お前も感謝しなさい。本来ならお前がしなければいけない仕事をクリシアとそしてマリーナが代わりにしてくれていたのだからな」
そう言うと陛下の近くに立っていたマリーナが艶やかに微笑まれた。
「お兄様、私は自分の仕事をしたまでですわ。帝国でのんびり過ごしたお義姉様もこれからは頑張ってくださいな」
三人の言葉に、周りにいた者達は凍りついた。
本来なら感謝の言葉、労りの言葉を告げるはずなのに、愛妾と義妹は上から目線でジュリエットに『今まで遊んで暮らして来たのだろう』と言ったのだ。
それを陛下は頷き、「感謝しろ」とジュリエットに言った。
それでもこの国のトップである陛下に苦言を言える者はいない。
ジュリエットもまた静かに「明日から政務に励みたいと思います」と答えた。
陛下の前から去ろうとしたジュリエットを陛下が止めた。
「ジュリエット、お前の部屋は移動した。お前付きの侍女に案内してもらいなさい」
「かしこまりました」
ジュリエットは侍女のセリナに目を向けた。
セリナはジュリエットに涙目になりながらそっと寄り添い「ジュリエット様、行きましょう」と優しく声をかけた。
一年前までは陛下の隣に部屋があった。
二人で使う主寝室はいつもジュリエットがひとりで寝ていたが、王妃の部屋として王宮の中で一番豪華で日当たりもよ居場所にあった。
その場所からかなり離れた場所にジュリエットは案内された。
宮殿を出て、『離れ』と言われる少し寂れた小さな宮へと連れてこられた。
部屋に入るとすぐにお茶の用意がされた。
「ジュリエット様……こんな酷い仕打ちをされて私は悔しいです」
二人の侍女が悔し涙を流していた。
「セリナ、マリラ、そんなに怒らないでちょうだい。だいたい想像していた通りだったわ」
ジュリエットは子供の頃からそばにいてくれた二人にだけ、やっと本来の自分を出せた。
「陛下はクリシア様とマリーナ様にいいように操られてるんです」
「ジュリエット様の部屋に勝手に居座って自分が王妃になったつもりなんです!」
「二人とも、誰が聞いているかわからないわ。あまり大きな声を出さないの」
「だって悔しいです!」
「わたしも許せません!ジュリエット様が遊んでいたなんて失礼なことを!」
「あら?でも少し本当のことかも。だって向こうではすることもなくて、皇帝がこの国の情報だけは色々教えてくださったから、暇なので騎士団に色々情報を伝えたりしていたのよ」
「ジュリエット様は昔っから戦略とかお好きでしたものね」
「外からだから見えるものも多いの。それに帝国はとても勉強になったわ。騎士団をうまく利用して治安に努めていたし、外部からの侵入もどうやって食い止めるかしっかり考えられていたの。この国は小国でまだまだいろんな意味で発展していかないと他国に追いつけないし、いつか握りつぶされてしまうわ商業も農業も遅れているし外交も足りていない。とてもいい勉強になったのよ」
「はああ、ジュリエット様、少しはみんなの前でもそれくらいお話しされたらいいのに」
マリラが呆れながら呟いた。
「だって慣れた人としか話せないもの」
「ほんと、そのひどい人見知りのせいで周りから勘違いされすぎますよ?冷たいとか無表情とか、何考えているのかわからないとか、可愛いくないとか」
「もう!あなた達の方が酷いわ!」
三人は見つめあってクスクス笑い合った。
無表情のジュリエットがふと優しい笑顔を外に向けた。
気になった騎士も窓に視線を移すと子供達が母親と楽しそうに笑い合っている姿があった。
ーーこのお方は感情を表には出さないだけで優しいお方なんだ。
騎士二人はジュリエットが外を見ている姿を静かに見守っていた。
途中、山道は悪路でガタガタと揺れきつかったはず。なのに泣き言も文句も言わず耐えていた。
数日かけて王城についた。
人質として過ごしたジュリエットに馬車での移動はかなり疲弊しているであろうことが伺える。少し顔色も悪く馬車を降りる時フラフラしていた。
「王妃様、大丈夫ですか?一旦お部屋に行きお休みになりますか?」
「いいえ、先に陛下にご挨拶を」
そう言うと陛下のいる宮へと歩き出した。
馬車が着くことは先ぶれを出していた。しかし出迎えたのは騎士団と大臣数名とジュリエットが侯爵家から連れて来た侍女数名だけと寂しい出迎えだった。
共に戻って来た騎士は悔しさに唇を噛み締めた。
一年……王女の身代わりで人質として暮らした王妃にこの出迎え。
ーーあまりにも酷い扱いだ。
忙しい陛下が無理でも毎日遊んで暮らす王女様くらいは出迎え、労い、感謝の言葉をかけられてもいいのでは?
ジュリエットは誰の手も借りず一人ゆっくりと歩を進めた。本来なら陛下のエスコートがあるはずなのに。
騎士団長が「ジュリエット様、少しふらついております。わたしの手をどうぞ」と声をかけた。
この中で一番上にいる団長が見ていられなくて。
「団長、ありがとう。でも私は自分の力で歩きたいの。久しぶりのこの王城をゆっくりと楽しみながら」
「了解いたしました。無理なさらず」
「ええ」
ジュリエットは団長にお礼を言うとゆっくりまた歩き出した。
「陛下、ただいま帰りました」
ジュリエットが深々と頭を下げた。
カリクシードは隣に愛妾であるクリシアを王席の横に座らせていた。
そこは王妃であるジュリエットが本来ならば座る場所。
チラリとクリシアを見たジュリエットはその事に対して一言も追求することはなかった。
「ジュリエット、疲れたであろう。一年間ご苦労であった」
「いえ、国のために仕えただけですので」
「今日はゆっくりと過ごして体を休めるように。明日からは王妃として働いてもらわなければならない。今日まではクリシアがお前の代わりに仕事を手伝ってくれていたんだ」
「陛下、わたしはこの国のためにただ働かせていただいていただけです。王妃様のように帝国で贅沢な暮らしをしていた方とは違って、少しでもこの国のお役に立てるように、ただ、ただ、そう思っておりました」
「クリシアは慣れない仕事をよく頑張ってくれた。ジュリエット、お前も感謝しなさい。本来ならお前がしなければいけない仕事をクリシアとそしてマリーナが代わりにしてくれていたのだからな」
そう言うと陛下の近くに立っていたマリーナが艶やかに微笑まれた。
「お兄様、私は自分の仕事をしたまでですわ。帝国でのんびり過ごしたお義姉様もこれからは頑張ってくださいな」
三人の言葉に、周りにいた者達は凍りついた。
本来なら感謝の言葉、労りの言葉を告げるはずなのに、愛妾と義妹は上から目線でジュリエットに『今まで遊んで暮らして来たのだろう』と言ったのだ。
それを陛下は頷き、「感謝しろ」とジュリエットに言った。
それでもこの国のトップである陛下に苦言を言える者はいない。
ジュリエットもまた静かに「明日から政務に励みたいと思います」と答えた。
陛下の前から去ろうとしたジュリエットを陛下が止めた。
「ジュリエット、お前の部屋は移動した。お前付きの侍女に案内してもらいなさい」
「かしこまりました」
ジュリエットは侍女のセリナに目を向けた。
セリナはジュリエットに涙目になりながらそっと寄り添い「ジュリエット様、行きましょう」と優しく声をかけた。
一年前までは陛下の隣に部屋があった。
二人で使う主寝室はいつもジュリエットがひとりで寝ていたが、王妃の部屋として王宮の中で一番豪華で日当たりもよ居場所にあった。
その場所からかなり離れた場所にジュリエットは案内された。
宮殿を出て、『離れ』と言われる少し寂れた小さな宮へと連れてこられた。
部屋に入るとすぐにお茶の用意がされた。
「ジュリエット様……こんな酷い仕打ちをされて私は悔しいです」
二人の侍女が悔し涙を流していた。
「セリナ、マリラ、そんなに怒らないでちょうだい。だいたい想像していた通りだったわ」
ジュリエットは子供の頃からそばにいてくれた二人にだけ、やっと本来の自分を出せた。
「陛下はクリシア様とマリーナ様にいいように操られてるんです」
「ジュリエット様の部屋に勝手に居座って自分が王妃になったつもりなんです!」
「二人とも、誰が聞いているかわからないわ。あまり大きな声を出さないの」
「だって悔しいです!」
「わたしも許せません!ジュリエット様が遊んでいたなんて失礼なことを!」
「あら?でも少し本当のことかも。だって向こうではすることもなくて、皇帝がこの国の情報だけは色々教えてくださったから、暇なので騎士団に色々情報を伝えたりしていたのよ」
「ジュリエット様は昔っから戦略とかお好きでしたものね」
「外からだから見えるものも多いの。それに帝国はとても勉強になったわ。騎士団をうまく利用して治安に努めていたし、外部からの侵入もどうやって食い止めるかしっかり考えられていたの。この国は小国でまだまだいろんな意味で発展していかないと他国に追いつけないし、いつか握りつぶされてしまうわ商業も農業も遅れているし外交も足りていない。とてもいい勉強になったのよ」
「はああ、ジュリエット様、少しはみんなの前でもそれくらいお話しされたらいいのに」
マリラが呆れながら呟いた。
「だって慣れた人としか話せないもの」
「ほんと、そのひどい人見知りのせいで周りから勘違いされすぎますよ?冷たいとか無表情とか、何考えているのかわからないとか、可愛いくないとか」
「もう!あなた達の方が酷いわ!」
三人は見つめあってクスクス笑い合った。
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