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イーサン殿下。

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【記憶を取り戻したカトリーヌ編】


イーサン殿下?


『「わたしってそんなにお淑やかだったの?」

「どんな酷い噂をされても静かに笑顔で笑ってたんだ。それにいつもイーサン殿下があなたを守っていたから」

「ーーーはあ???」』

思い出すとイライラと想像しただけで気持ち悪くて、わたしは屋敷に帰ってから頭を抱えてベッドの上で唸っていた。

だって学校ではわたしは自分が知っている立ち位置ではなかった。

みんなから笑顔で話しかけられてたくさんのお友達がいた。

そして、

なんと!

なんと!!

わたしはイーサン殿下に守られている婚約者らしい。

ーーはあ?婚約は解消したのではないの?
だから敢えて聞かなかったのに。聞く必要もないと思っていたから!

解消していないならちゃんと教えて欲しかった。

「マーヤ!どうしてイーサン殿下とのこと教えてくれなかったの?」

部屋に来たマーヤに問い詰めた。

「……記憶が戻ったばかりのカトリーヌ様にお伝えするのを躊躇っておりました。奥様が様子を見てから話すと仰ったので……すみません!!」

「……で、わたしとイーサン殿下ってどんな感じだったの?」





【記憶を失ったカトリーヌ編】

「……カトリーヌ?」

振り返ると隣の二人が小さな声で教えてくれた。

「イーサン殿下だよ」

「イーサン殿下?確か……「カトリーヌ」だったわたしの婚約者?」

「う、うん、そうだよ」

イーサン殿下は少し緊張気味に私を見つめていた。

とりあえず教わった挨拶をする。

「イーサン殿下にご挨拶申し上げます」
そしていつもの作り笑顔で微笑んだ。

するとイーサン殿下は不機嫌そうに眉間にシワを寄せた。

「君はそんな顔を俺に見せるわけがない。何を企んでいるんだ?」

「……企む?…とは?」
わたしがキョトンとした顔をすると

「本当に何も覚えていないのか?」

「はい、申し訳ありません。自分が「カトリーヌ」という人だったことは今は受け入れることができました。でも……なにも覚えていませんし企むと言ってもどう企んでいいのかわかりません」

「……本当に?…俺のことを全然おぼえていないのか……すまなかった……体調は…大丈夫なのか?」

「はいお陰様で怪我はなんとか治りました。まだ傷痕は残っていますが、時間が経てば少しずつ薄くなっていくだろうと言われました」

「良かった……」
イーサン殿下は安心した顔でわたしを見つめた、

先程の激しいわたしへの言葉と今の切なそうにわたしを見る姿、わたしはどうこの方を見ればいいのか分からなかった。







【イーサン殿下編】

10日前、カトリーヌが記憶を取り戻したと連絡が入った。

それは俺にとって嬉しくもあり……これからどうすればいいのか分からないことでもあった。

3年前カトリーヌが馬車の事故に遭い、もう死ぬかもしれないと聞かされたとき俺は急ぎ彼女の元へ駆けつけた。

酷い怪我をして意識を失っていた彼女。

「今夜が峠です」と医師に言われみんなが泣いたり悲しんでいる中俺はただ呆然と立ち尽くした。

俺はずっとカトリーヌに酷いことをしてきた自覚はあった。

それには一応理由があるのだがカトリーヌは知らない。
素直になれない、カトリーヌに優しく出来ない、なのに……いつもカトリーヌの姿を探してしまう。
カトリーヌはとても可愛い、そして笑うとドキドキしてつい顔が赤くなってしまう。それに人を惹きつけてしまう…それがさらにムカついてしまう。

周りの男子もだが、大人の男性ですらカトリーヌの可愛さについ目で追ってしまう。
本人は全く自覚がなく、子供の頃から走り回ったり木に登ったりと違う意味で目が離せない子だった。
いつ頃からだろう。
カトリーヌの悪い噂が出てしまったのは……

別にカトリーヌが何かをしたわけではない。真面目に王太子妃教育を受けて頑張っていた。
なのに噂は悪い方へと進んでいく。

何度も違うと否定した。
カトリーヌは良い子だとみんなに伝えた。
すると「イーサン殿下はお優しいですね」とか「あんな婚約者を庇うなんて」とか「どうして婚約解消をされないのですか?」と、俺の評判は上がってもカトリーヌの評判が上がるどころかさらに下がってしまった。

さらに俺はカトリーヌのことで人から話を聞いてしまい、素直になることができなくなってしまった。

そして気がつけばカトリーヌを嫌っていると思われ、カトリーヌ自身に嫌われてしまった。

俺に対して笑うことも話すこともなくなったカトリーヌ。俺のせいで評判を下げて王宮内でもカトリーヌを害そうと家庭教師達は体罰をしたり難しい勉強を幼いカトリーヌに課したりしていた。

カトリーヌにとって俺は酷い婚約者。だから彼女は何度も俺に言う。

「わたしが婚約者でいる必要はありませんよね?婚約解消してください」

事故の日だって俺は……


俺の顔を見るなり大きな溜息を吐いたカトリーヌ。
「はあーー」

そしていつもの無表情で挨拶。

「イーサン殿下にご挨拶申し上げます」

「その嫌味な感情の籠っていない挨拶はやめてくれないか?」

「不敬になりますので」

「俺が言ってるんだ」

「分かりました、前向きに考えておきます」

「君は俺をイライラさせる人だな、アーシャのことだが君はどうしてあんな酷いことをしたんだ」

「……………」

「何か答えろ」

「………………」

「おい!」

俺はついカトリーヌの胸ぐらを掴んで体を揺さぶった。
「やめて下さい」
周りにいた護衛の人が急いで俺を止めた。

「ゲホッ」
苦しそうにしていたカトリーヌを見て謝ろうと思ったのに

「これでやっと婚約破棄出来ますね?貴方も嬉しいでしょう?こんな嫌いな女と結婚しなくて済むのですから」

そう言われて俺は我慢できなくて凄い顔をして睨んで手を振り上げた。

カトリーヌが頭を守るように手で頭を覆って屈んだ。

それを見て我に返った。
「もういい、わかった」

ーー俺はカトリーヌに酷いことをした。

俺はなんでこんなことしか出来ないんだ。

帰宅してすぐに父上に呼ばれた。

「お前はカトリーヌと婚約解消をしたいのか?何故素直にならない。お前がカトリーヌを選んだんだろう?」

「……はい」

父上に怒られている時に一報が入った。

『カトリーヌ様が事故で大怪我をしました』と。




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