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新しい日々。 戸惑い
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【記憶を取り戻したカトリーヌ編】
目覚めたらそこは新しい屋敷で周りも自分も少し老けていて(わたしは大人になっただけなんだけど)あのお母様が優しくわたしに微笑んでくれた。
ずっと笑いかけて欲しかった。
抱きしめて欲しかった。
「貴女を愛している」と言って欲しかった。
………でもわたしに媚びるように気遣うように優しくされても嬉しくない。
あれはわたしへの愛などではない。
ただの贖罪。
そんなものは要らない。
侍女達の作業場にとりあえず居座っている。
わたしがこの3年間どうやって過ごしてきたのか料理長やマーヤ、ミアに少しずつ話を聞いた。
「お嬢様、もうやめてください!」
「あら?洗濯物くらいたためるわ、いつもしているじゃない」
「3年前までです」
わたしは慣れた手つきで洗濯物をたたみながら話した。
「わたしこれから食事はどうしたらいいのかしら?今まで通り部屋で朝食を食べて放課後学校で軽くパンでも食べてきたらいいのかな?
あ、でも中等部ではなくて高等部に通っているのよね?わたしって友達いるのかしら?」
セリーヌ・シトラー侯爵令嬢とリーズ・デューガン伯爵令嬢は友達でいてくれるのかな?
ドーナル・マッカーシー伯爵令息は?
あ、ジャン様は?
「この屋敷では、お腹が空いたら夜中に何か食べにきてもいいのかな?それともクローゼットに隠してこっそりと食べた方がいいのかな?ミア達はどっちが楽?」
わたしの問いにみんながなんとも可哀想な目でわたしを見た。
「お嬢様、もうあんな辛い日々はここにはありません。堂々と食事もできます。あの酷い家庭教師もジャルマさんもいません」
「そう言えば捕まったって言ってたわね。わたしが追い出してやりたかったのに!」
「いやいや、お嬢様が書いておいた帳簿がジャルマ様を捕まえるのに有効的だったのです。お嬢様の活躍ですよ」
「へへへ、褒められちゃった。嬉しい!」
屋敷も雰囲気も変わったけど知った顔ぶれのおかげで3年間の記憶がなくてもなんとか過ごしていけそうな気がしてきた。
あとは……聞きたくないイーサン殿下のこと……面倒くさいな。
【記憶を失ったカトリーヌ編】
「カトリーヌ」になってひと月。
体の怪我は随分と治ってきた。
多少痕が残ると言われたけど、「お母様」がよく効く塗り薬を外国から取り寄せてくださったので自然に傷痕は薄くなっていくだろうと言われた。
そして……わたしの名前はカトリーヌ・ブランゼルだと受け入れることにした。
侯爵家の次女、七歳年上のお姉様は今留学中で別のところに住んでいてこの大きな屋敷にはわたしとお母様しか住んでいない。
お姉様はいずれ侯爵家を継ぐために隣国の大学に通っている。
ここの使用人の人達が話してくれた「お姉様」は眉目秀麗で才色兼備らしい。
わたしが事故にあった時はこちらに帰ってきて当主になるための勉強をしていたが、別の大学に入学が決まっていて、これ以上休めないからと帰ったらしい。
まぁ外国へ行くだけでも時間がかかるのでお忙しい「お姉様」が会いにきてくれただけでも嬉しい?ことなのだろう。
「お父様」は今は領地に住んでいるらしい。
広大な領地を持つブランゼル領。
そこを管理するのはとても大変なことらしい。
「お母様」はお仕事の合間にわたしの部屋へ訪れて、一緒にお話をしたり刺繍をさしたりして穏やかな時間が過ぎていった。
そう、「お母様」はわたしにとても優しい。
わたしは記憶が戻ることはなく、今の「カトリーヌ」と言う立場を受け入れるしかなかった。
だから「お母様」の言う通りのことをして過ごすしかなかった。
お庭を散歩したり本を読んだりと時間はゆっくりと過ぎて行った。
ある日お庭で散歩をしていると仔猫が現れた。
わたしを見ると「ミィヤァー」と鳴きながらわたしの足に擦り寄ってきた。
「どこから来たの?」
わたしは仔猫をそっと抱っこして撫でてあげると体を擦り寄せてきた。
「可愛い」
すると急いでわたしのそばに大きな男の人が近寄ってきた。
「カトリーヌ様、申し訳ございません。ミントが籠から抜け出しました」
「ミント?この子の名前ね?」
「はい」
「貴方の仔猫ですか?」
「この仔猫は、わたしの大事なある人から頼まれてお預かりして大切に育てているのです。いつかその方にお返しするつもりです。ミントと名前をつけたのはその方なのです」
「まぁ、そんな大切な仔猫だったんですね?ミント、勝手に外に出ては駄目よ?」
ミントをその男の人に渡そうとするとミントはわたしから離れようとしなかった。
「なんだか懐かれてしまったみたい」
ミントが嫌がってわたしに必死で引っ付いていたのでミントの爪がわたしの服に引っかかった。
それをそばにいた侍女がとってくれた。
そして侍女は「はい、料理長」と言ってミントを渡した。
「あ、貴方が料理長さんなんですね?いつもわたしの好きなお料理を作ってくださってありがとうございます。おかげで食事がとても楽しみの時間になっています」
「お嬢様は今幸せですか?」
「……幸せ?何故そんなことを聞かれるのですか?わたしは……記憶を失って「今」を受け入れるしかないと思っています、ただそれだけです」
「そうですか……失礼しました」
料理長の質問にわたしは不思議と素直な気持ちを答えてしまった。
不思議な人。
料理長さん………何故かもっと話してみたいと思ってしまう、不思議な人だった。
目覚めたらそこは新しい屋敷で周りも自分も少し老けていて(わたしは大人になっただけなんだけど)あのお母様が優しくわたしに微笑んでくれた。
ずっと笑いかけて欲しかった。
抱きしめて欲しかった。
「貴女を愛している」と言って欲しかった。
………でもわたしに媚びるように気遣うように優しくされても嬉しくない。
あれはわたしへの愛などではない。
ただの贖罪。
そんなものは要らない。
侍女達の作業場にとりあえず居座っている。
わたしがこの3年間どうやって過ごしてきたのか料理長やマーヤ、ミアに少しずつ話を聞いた。
「お嬢様、もうやめてください!」
「あら?洗濯物くらいたためるわ、いつもしているじゃない」
「3年前までです」
わたしは慣れた手つきで洗濯物をたたみながら話した。
「わたしこれから食事はどうしたらいいのかしら?今まで通り部屋で朝食を食べて放課後学校で軽くパンでも食べてきたらいいのかな?
あ、でも中等部ではなくて高等部に通っているのよね?わたしって友達いるのかしら?」
セリーヌ・シトラー侯爵令嬢とリーズ・デューガン伯爵令嬢は友達でいてくれるのかな?
ドーナル・マッカーシー伯爵令息は?
あ、ジャン様は?
「この屋敷では、お腹が空いたら夜中に何か食べにきてもいいのかな?それともクローゼットに隠してこっそりと食べた方がいいのかな?ミア達はどっちが楽?」
わたしの問いにみんながなんとも可哀想な目でわたしを見た。
「お嬢様、もうあんな辛い日々はここにはありません。堂々と食事もできます。あの酷い家庭教師もジャルマさんもいません」
「そう言えば捕まったって言ってたわね。わたしが追い出してやりたかったのに!」
「いやいや、お嬢様が書いておいた帳簿がジャルマ様を捕まえるのに有効的だったのです。お嬢様の活躍ですよ」
「へへへ、褒められちゃった。嬉しい!」
屋敷も雰囲気も変わったけど知った顔ぶれのおかげで3年間の記憶がなくてもなんとか過ごしていけそうな気がしてきた。
あとは……聞きたくないイーサン殿下のこと……面倒くさいな。
【記憶を失ったカトリーヌ編】
「カトリーヌ」になってひと月。
体の怪我は随分と治ってきた。
多少痕が残ると言われたけど、「お母様」がよく効く塗り薬を外国から取り寄せてくださったので自然に傷痕は薄くなっていくだろうと言われた。
そして……わたしの名前はカトリーヌ・ブランゼルだと受け入れることにした。
侯爵家の次女、七歳年上のお姉様は今留学中で別のところに住んでいてこの大きな屋敷にはわたしとお母様しか住んでいない。
お姉様はいずれ侯爵家を継ぐために隣国の大学に通っている。
ここの使用人の人達が話してくれた「お姉様」は眉目秀麗で才色兼備らしい。
わたしが事故にあった時はこちらに帰ってきて当主になるための勉強をしていたが、別の大学に入学が決まっていて、これ以上休めないからと帰ったらしい。
まぁ外国へ行くだけでも時間がかかるのでお忙しい「お姉様」が会いにきてくれただけでも嬉しい?ことなのだろう。
「お父様」は今は領地に住んでいるらしい。
広大な領地を持つブランゼル領。
そこを管理するのはとても大変なことらしい。
「お母様」はお仕事の合間にわたしの部屋へ訪れて、一緒にお話をしたり刺繍をさしたりして穏やかな時間が過ぎていった。
そう、「お母様」はわたしにとても優しい。
わたしは記憶が戻ることはなく、今の「カトリーヌ」と言う立場を受け入れるしかなかった。
だから「お母様」の言う通りのことをして過ごすしかなかった。
お庭を散歩したり本を読んだりと時間はゆっくりと過ぎて行った。
ある日お庭で散歩をしていると仔猫が現れた。
わたしを見ると「ミィヤァー」と鳴きながらわたしの足に擦り寄ってきた。
「どこから来たの?」
わたしは仔猫をそっと抱っこして撫でてあげると体を擦り寄せてきた。
「可愛い」
すると急いでわたしのそばに大きな男の人が近寄ってきた。
「カトリーヌ様、申し訳ございません。ミントが籠から抜け出しました」
「ミント?この子の名前ね?」
「はい」
「貴方の仔猫ですか?」
「この仔猫は、わたしの大事なある人から頼まれてお預かりして大切に育てているのです。いつかその方にお返しするつもりです。ミントと名前をつけたのはその方なのです」
「まぁ、そんな大切な仔猫だったんですね?ミント、勝手に外に出ては駄目よ?」
ミントをその男の人に渡そうとするとミントはわたしから離れようとしなかった。
「なんだか懐かれてしまったみたい」
ミントが嫌がってわたしに必死で引っ付いていたのでミントの爪がわたしの服に引っかかった。
それをそばにいた侍女がとってくれた。
そして侍女は「はい、料理長」と言ってミントを渡した。
「あ、貴方が料理長さんなんですね?いつもわたしの好きなお料理を作ってくださってありがとうございます。おかげで食事がとても楽しみの時間になっています」
「お嬢様は今幸せですか?」
「……幸せ?何故そんなことを聞かれるのですか?わたしは……記憶を失って「今」を受け入れるしかないと思っています、ただそれだけです」
「そうですか……失礼しました」
料理長の質問にわたしは不思議と素直な気持ちを答えてしまった。
不思議な人。
料理長さん………何故かもっと話してみたいと思ってしまう、不思議な人だった。
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