上 下
9 / 69

可愛いくなんてなりたくない。 13歳

しおりを挟む
お茶会を断ることが出来なくて諦めてドレスを着ることになった。

侍女長のジャルマはさすがに王家主催のお茶会にはみすぼらしい格好をさせて行くことはしない。それは侯爵家の恥、ひいてはお父様の恥にもなるから。

お父様は今も領地で暮らしている。最近は領主として忙しく過ごしているみたいだけど王都に帰ってくることは今のところない。お母様も忙しくて領地には行っていない。
二人の関係を壊したわたしは何も聞くことはできないでいた。

「お嬢様、しっかりお立ちください、動かないで!」
コルセットをこれでもかとぎゅうぎゅうに締め上げられ、ピンを地肌に突き刺されながらなんとか拷問の着替えの時間が終わった。

ほんとこんな痛い目に遭ってまでドレスなんて着たくない。わたしの体はまだ太ももやお尻にアザがある。いまだに続く侯爵家の家庭教師の体罰。

慣れたとはいえ痛いものは痛い。

お母様にいい加減訴えたらいい?

絶対いや。

それは負けると言うこと。ジャルマには負けたくない。意地でも耐えてやるんだから!
そしてわたしが成人したらコイツをうちの屋敷から叩き出してやる!

「カトリーヌ、支度はできたの?」

お姉様がわたしの部屋に顔を出した。

さっきまで乱暴な態度でわたしに接していたジャルマの顔と態度が一瞬で変わる。

「セシル様!もう少しで終わります」

お姉様に見せるジャルマの媚を売るような笑顔。

「カトリーヌはその淡いクリーム色のフリルのついた可愛いドレスがとても似合っているわ。今日は髪を結い上げてもらったのね?とても可愛いわ」

お姉様は留学を終えて今はお母様に付いて侯爵家の後継者としての勉強を始めた。
婚約者は留学中に知り合った他国の王族でもあるロイズ様と今は遠距離恋愛中だ。

いずれはお姉様と結婚して婿入りする予定だ。その頃にはわたしは邪魔になるかもしれない、でもジャルマを追い出すまではなんとかこの屋敷に居座り暮らしたい。

ジャルマ追い出し計画は着々と進んでいる。

もちろんわたしの頭の中だけで。

「お姉様はお茶会には参加しないのですか?」

「わたしは今日ロイズが来るから欠席するのよ、日を改めてロイズと両陛下には挨拶に伺う予定なの」

「ロイズ様はこちらにお泊まりになるのですか?」

「そうなの、聞いてなかったかしら?」

ーーはい、ジャルマがわたしから目線を逸らした。わざと知らせなかったのね。ま、いつものことだから慣れてはいるけどね

「それでね、今日はカトリーヌにこれを付けて行ってもらいたくて持ってきたの」

わたしの目の前にあるのはダイヤモンドのブローチだった。とても豪華な……

「まぁなんで素敵なんでしょう」

そう言うとジャルマはお姉様から受け取りわたしの肌に刺しながらブローチをつけてくれた。

ーー痛っい!ジャルマは澄ましているけど内心わたしが痛がっているのを見てほくそ笑んでいるはず。
悔しい!

「とても素敵です」ジャルマの笑顔。

「お姉様ありがとうございます」

ーーーーー


わたしは一人で馬車に乗るとため息が出た。

「この悪趣味なフリルたっぷりのドレスにゴージャスなブローチ………合うわけないじゃない。ジャルマもジャルマだけどお姉様もお姉様だわ。これ完全に嫌がらせだわ」
あの優しい笑顔の下で何を思ってわたしに接しているのかわからない。
7歳も離れていてわたしが8歳の時には他国で大学へ通い最近また戻ってきたお姉様。
あまり接することはないけど「優しさ」という意地悪を受けている気がするのはわたしだけなのか……

姉は本気で似合うと思ってこのブローチを渡したのだろうか……
とりあえずこのブローチは外しドレスに付いているポケットにそっと隠した。

胸のところを覗くと血が固まってはいたけどやはり怪我していた。ドレスが汚れなくてよかった。
こんな悪趣味なドレスだけど、わたしの容姿には確かに似合っている。
ピンク色の髪の毛をいくつも編み込みをして、ふわっと可愛く結い上げて、フリルたっぷりの淡いドレス。

客観的に見ても見た目は確かに可愛らしい少女。
みんなから「可愛い」と言ってもらえるだろう。

全く趣味ではないし、それをわかっているジャルマの嫌がらせだけど。わたしがシンプルな服が好きで落ち着いた紺色や緑が好きなのをわかっていて敢えてこの服を選ぶのだから。

『巷のピンク色の髪のお馬鹿な男好きの少女』を作り出すために。

「はあーーー」
大きな溜息しか出ないわ。


ーーーーー

お茶会の会場へと着いた。

エスコートも護衛も侍女も付いていないわたしは一人で庭園へと向かう。
王宮内は通い慣れているので一人でも平気だ。
周りには見知った護衛騎士さん達がいる。

その場に着くとわたしよりも目上の人ばかり。

13歳のわたしが何故ここに呼ばれるのか……それは王太子殿下の婚約者だから。

みんなの前に行くと

「本日はよろしくお願い致しますカトリーヌ・ブランゼルと申します」
頭を下げカーテシーをして挨拶をする。

「カトリーヌ様は相変わらず可愛らしいわね」
「自分の可愛さをアピールしたいのよね」
「男受けする格好で来るなんて恥ずかしくないのかしら?」

ーー聞こえていますよ……誰が好き好んでこんな可愛らしい格好なんてするのよ!……と叫びたいけど笑顔で過ごす。

そして促された席へと座り周りから話しかけられることに対して静かに微笑み相槌をうつ。

そうただひたすら笑顔で。心を空っぽにして。

ザワザワと言う声が聞こえてきた。
笑顔でそちらを向くとわたしの笑顔は固まった。

イーサン殿下がアーシャ様をエスコートしてきた。満面の笑顔で。

悲しくて辛くて………なんて思うことはない。握り拳をつくり心の中でガッツポーズをした。
みんなが見ている、これで婚約解消だ。
わたしとイーサン殿下の不仲がハッキリとみんなにわかってもらえた。
なんて嬉しい日なのだろう。

ただイーサン殿下にわたしの笑顔を見せてあげるのが勿体なくて笑顔はスッと消えた。

イーサン殿下はアーシャ様と楽しそうに別の席で過ごされていた。わたしの席ではわたしに気遣ってくださる令嬢達が重い空気の中過ごしていた。
それを気にせずわたしはニコニコと笑顔で過ごした。

お茶会がお開きになり、わたしは陛下のもとへ向かおうとしたらイーサン殿下がアーシャ様を連れてわたしのところへ来た。

「王太子殿下にご挨拶申し上げます」
わたしはいつものように無表情で形だけの挨拶をした。

そして「申し訳ございません、急いでいるので失礼致します」
と言って陛下のもとへむかった。

今日は陛下に呼ばれていた。

婚約してから5年目。
婚約解消のお願いを陛下に伝えるのは7回目だ。
















しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。

猫宮乾
恋愛
 再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈 
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

【完結】没落寸前の貧乏令嬢、お飾りの妻が欲しかったらしい旦那様と白い結婚をしましたら

Rohdea
恋愛
婚期を逃し、没落寸前の貧乏男爵令嬢のアリスは、 ある日、父親から結婚相手を紹介される。 そのお相手は、この国の王女殿下の護衛騎士だったギルバート。 彼は最近、とある事情で王女の護衛騎士を辞めて実家の爵位を継いでいた。 そんな彼が何故、借金の肩代わりをしてまで私と結婚を……? と思ったら、 どうやら、彼は“お飾りの妻”を求めていたらしい。 (なるほど……そういう事だったのね) 彼の事情を理解した(つもり)のアリスは、その結婚を受け入れる事にした。 そうして始まった二人の“白い結婚”生活……これは思っていたよりうまくいっている? と、思ったものの、 何故かギルバートの元、主人でもあり、 彼の想い人である(はずの)王女殿下が妙な動きをし始めて……

【完結】バッドエンドの落ちこぼれ令嬢、巻き戻りの人生は好きにさせて貰います!

白雨 音
恋愛
伯爵令嬢エレノアは、容姿端麗で優秀な兄姉とは違い、容姿は平凡、 ピアノや刺繍も苦手で、得意な事といえば庭仕事だけ。 家族や周囲からは「出来損ない」と言われてきた。 十九歳を迎えたエレノアは、侯爵家の跡取り子息ネイサンと婚約した。 次期侯爵夫人という事で、厳しい教育を受ける事になったが、 両親の為、ネイサンの為にと、エレノアは自分を殺し耐えてきた。 だが、結婚式の日、ネイサンの浮気を目撃してしまう。 愚行を侯爵に知られたくないネイサンにより、エレノアは階段から突き落とされた___ 『死んだ』と思ったエレノアだったが、目を覚ますと、十九歳の誕生日に戻っていた。 与えられたチャンス、次こそは自分らしく生きる!と誓うエレノアに、曾祖母の遺言が届く。 遺言に従い、オースグリーン館を相続したエレノアを、隣人は神・精霊と思っているらしく…?? 異世界恋愛☆ ※元さやではありません。《完結しました》

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

夫の隠し子を見付けたので、溺愛してみた。

辺野夏子
恋愛
セファイア王国王女アリエノールは八歳の時、王命を受けエメレット伯爵家に嫁いだ。それから十年、ずっと仮面夫婦のままだ。アリエノールは先天性の病のため、残りの寿命はあとわずか。日々を穏やかに過ごしているけれど、このままでは生きた証がないまま短い命を散らしてしまう。そんなある日、アリエノールの元に一人の子供が現れた。夫であるカシウスに生き写しな見た目の子供は「この家の子供になりにきた」と宣言する。これは夫の隠し子に間違いないと、アリエノールは継母としてその子を育てることにするのだが……堅物で不器用な夫と、余命わずかで卑屈になっていた妻がお互いの真実に気が付くまでの話。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

処理中です...