上 下
20 / 27

第20話  〜ジュリー編〜

しおりを挟む
久しぶりの王都。

屋敷に帰るとなんだか静かだわ。

いつもの沢山のお迎えの者がいない。

「これは……どう言う事?」
屋敷の中はガランとしていた。

「マークを呼んでちょうだい」
侍女に声をかけると侍女は困った顔をしていた。

「マークさんは辞めました」

「辞めた?では侍女長を呼んでちょうだい」

「侍女長も辞めました」

「どう言う事?誰か説明をして!」

そこに現れたのは料理長だった。

「ジュリー様、お帰りなさいましたか。旦那様から手紙を預かっております」

そう言うと手紙を渡された。

そこに入っていたのは、離縁状だった。

「どう言う事?何故離縁状なの?料理長説明をして!」
わたしは意味が分からなくて料理長に説明を求めた。

「封筒の中に説明の紙が入っています。わたしからは説明する事は憚られます」

わたしは仕方なく手紙を読んだ。






「これはどう言う事なの………アイシャが手術?心臓病?この屋敷で使用人のような生活をしていた?」

わたしは確かにアイシャを育ててはいなかった。

友人達と旅行に行ったりパーティーに行ったり領地で過ごしたり毎日楽しく過ごしてきた。

だってわたしの仕事はウィリアムの子どもを産む事だったから。
愛のない政略結婚。子どもさえ出来てしまえばわたしの役目は終わり。

後は公爵夫人として社交をしながら好きに暮らしていくだけ。

子ども達は家令のマークと侍女長にきちんとお願いしてあったから安心していた。

わたし自身子どもへの愛情は特にはなかったが、偶に会う子どもは可愛かったしお土産を買って渡すと喜んでくれるし、アイシャの笑顔には癒されてきた。

「アイシャはこの屋敷で酷い目に遭っていたの?ここにいる使用人達はアイシャを助けてくれていた人達?マーク達はアイシャに酷い仕打ちをしていたの?」

別にアイシャに愛情なんてないはず……

あの子の笑顔をいつ見たかしら?

お土産を渡すと喜んでいたのはいつだったかしら?

最近見かける事もなかったわ。

だからと言って気にした事もない。

わたしが呆然としていたら、

「母上、お帰りになられたんですね」
ルイズが疲れ切った顔をしていた。

わたしを睨むように見ながら

「貴女はアイシャが死のうと生きようと興味もないでしょう、父上からの伝言です。貴女が買ったものは全て差し上げるので屋敷から出て行ってくれ、との事です」

何を言っているのかよく分からなかった。

出て行ってくれ?離縁?

わたしが何をしたと言うの?

アイシャが病気なのも使用人に虐げられたのもわたしの所為ではないわ。
わたしはアイシャの所為で謂れのないことで離縁を言い渡されてイラッとした。

「ルイズ、ウィリアムは何処にいるの?話し合いをしたいわ。どうしてわたしが離縁されないといけないの?
わたしは疲れたの。ねえ、誰か!入浴の準備をしてちょうだい」

わたしが使用人達に声を掛けたのに誰も動こうとしない。
わたしの荷物を誰も運んでくれない。

「ねえ!聞いているの?わたしはとても疲れているのよ、早くしなさい!」

ルイズはわたしの事を呆れた顔をして見た。

「貴女は全くアイシャの心配すらしないのですね。アイシャは手術を拒絶しています、いえ、手術を受けさせてもらえないと諦めているのです」

「どうして?お金ならいくらでもあるのだからさっさと手術して治して王子妃教育を再開させないと。遅れたらその分恥をかくのは我が公爵家よ?」

「……貴女って人は……」

「本当にあの子ってお金がかかる子ね。王子妃になったらその分しっかり元を取り戻さないといけないわ」

「貴女の居る場所は此処にはありません。全ての荷物は貴女の実家に送っています。
父上はアイシャを助けるためにルビラ王国へ行っています。僕は今アイシャが行方不明になっているので殿下と一緒に探しているところです。 
貴女が帰ってくると聞いたので一旦屋敷に戻ってきただけです」

大きな溜息を吐いたルイズは使用人に言った。

「さようなら、母上。ほんの少しでも貴女がアイシャのことを心配してくれると期待した僕が馬鹿でした。ジュリー様を実家へお連れして」

ルイズは使用人に声を掛けると屋敷を出て行った。

「な、何を言っているのよ!」

わたしは怒りで震えてそばにあった花瓶を叩き割った。

「ジュリー様、どうぞお帰りください。こちらには貴女様が居る場所はもう何処にもございません」

わたしはそのまま実家へ帰された。

実家の侯爵家には兄夫婦が住んでいるが、公爵夫人になったわたしとは反りが合わず、ずっと疎遠になっていた。

わたしが帰ると屋敷の者達は冷たい目で見つめてきた。

お兄様はわたしを見るなり
「お前の荷物は全て離れに置いてある。そこがお前の住む場所だ。嫌ならいつでも出て行ってくれていいから」
と言って去って行った。

わたしが離れ?あの薄汚い家に住めと言うの?

恐る恐る離れに行くと、やはりわたしの記憶通り古びた小さな家があった。

そこに入るとわたしの荷物がぎっしりと入っていて、どこで寝ればいいのか、どこに座ってゆっくりすればいいのかわからない状態だった。

片付けをして整理しないと住めない状態だし、床も所々ギシギシと音がする。

修理もしないといけない。壁もボロボロ。

こんな所住めるわけがない!

わたしはお兄様のところに文句を言いに行ったが追い返された。

「お前は娘を見殺しにしようとした毒母だ。もう社交界では醜聞が出回っている。お前の所為で関係ないわたし達も冷たい目で見られているんだ、置いてもらえるだけ感謝しろ。出て行ってもいいんだぞ。出ていかないならこれからの生活は全て自分のお金でなんとかしろ」

醜聞?そんなのが出回ったらもうわたしは社交界では生きていけないわ。

誰もわたしを相手にしなくなる。

わたしは何もしていないのにどうしてこんな目にあうの?

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

利用されるだけの人生に、さよならを。

ふまさ
恋愛
 公爵令嬢のアラーナは、婚約者である第一王子のエイベルと、実妹のアヴリルの不貞行為を目撃してしまう。けれど二人は悪びれるどころか、平然としている。どころか二人の仲は、アラーナの両親も承知していた。  アラーナの努力は、全てアヴリルのためだった。それを理解してしまったアラーナは、糸が切れたように、頑張れなくなってしまう。でも、頑張れないアラーナに、居場所はない。  アラーナは自害を決意し、実行する。だが、それを知った家族の反応は、残酷なものだった。  ──しかし。  運命の歯車は確実に、ゆっくりと、狂っていく。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

旦那様は私より幼馴染みを溺愛しています。

香取鞠里
恋愛
旦那様はいつも幼馴染みばかり優遇している。 疑いの目では見ていたが、違うと思い込んでいた。 そんな時、二人きりで激しく愛し合っているところを目にしてしまった!?

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

処理中です...