上 下
16 / 27

第16話  〜王宮編②〜

しおりを挟む
「貴方!」

突然、王妃が扉を開けて入ってきた。

「どうした?」

「どうしてわたし達が王位を退かなければいけないのですか?」

「聞いていたのか?」

「だってハウザー様の呼び出しだと聞いたのに貴方が行かなくていいなんて言うからおかしいと思ったの。
嫌な予感がしたわ、だからこっそりと様子を窺っていたのよ」

「聞いていたならばわかるだろう。叔父上は国の『番人』だ。『番人』は絶対なんだ!」

王妃は何を国王は言っているのだろうと思ったのだろう。
「でしたらこんなジジイ殺してしまえばいいのではないの?」
王妃は怪しく微笑んだ。

「ほお、わたしを殺すか?」

ゴードンは楽しげに王妃に聞いた。

「だって今は三人だけよ、ゴードン様が死んだって誰にもわからないわ。ねえ貴方、このジジイを早く始末してちょうだい、わたしの王妃の座を奪おうなんてあり得ないわ」

確かにこの部屋には人払いされていて三人しかいない。目に見える人数は。


「やめろ!それ以上馬鹿な事を言わないでくれ。君の助かるはずの命が救えなくなる」

「え?何を言っているのよ貴方?このジジイを殺すだけでわたし達の地位は保たれるのよ?」

「あぁ……、君は王妃教育を受けたはずだろう?忘れたのかい?『番人』を殺そうとすれば殺られるのは言った本人だ、覚えていないのか?」

王妃教育では必ず『影』と『番人』について習う。

『影』は、嘘は吐かない。見たもの全てありのままを伝える。だから、正確であり王族にも靡くことは無い。

『影』が仕えるのは選ばれた『番人』のみ。

『番人』になった者が誰なのかは国王ですら知らされない。

『番人』に会えるのは退位を言い渡される時、もしくはそれに準ずる事をした時のみ。

今回は王妃の行動に問題があり、国王自身もそれを諌めるどころか見て見ぬふりをしていたこと。

そしてもう一つ『番人』が現れた理由は、

「王妃、お前は今まで贅沢をし過ぎた。このままでは国の財政が揺らぐ可能性がある。見逃せるのはここまでだ、ここで止めなければ国民達に迷惑をかける」

「何を言っているのよ?贅沢?王妃になったのだから少しくらいの贅沢の何がいけないの?
三人だけしかいないのよ、こんなジジイ殺すのなんて簡単な事よ、もういいわわたしが殺すから!」

王妃はドレスのスカートの中からナイフを取り出してゴードンに向けて襲い掛かった。

「ギィヤア!!!」
ナイフを持ったまま前に倒れ込んだのは王妃だった。
背中にはナイフが刺さっていた。

「だから言っただろう。『番人』は殺せない。これだけの殺気を君は感じていなかったのか……」

誰もいない筈の三人の周りには影達が潜み、常にゴードンを守っていた。
国王に常に向けられていた殺気に息苦しさすら感じていた。なのに王妃は浅はかにもゴードンを殺そうとした。

国王は王妃の持っていたナイフを取ると首にナイフを当てた。

「叔父上、すみませんでした。あの世でお詫びします」

ナイフを横に動か………
バシッ!

ナイフを影が振り払った。

「……何故……?」

「国王、お前はまだ王の座をおりて次に引き継ぐまで生きなければいけない。それがこの国の国王としての最後の仕事だ。簡単に死なれては困る」

「死ぬことも許されないのか」

こうして王妃は重傷を負い、檻付きの病室の硬いベッドへ寝かされた。

国王は、時を置いて王の座を退く事を伝えられて、王妃から引き離された。

『影』は、国王のそばに常につくことになった。

死なないように、誰にも今の現状を話さないように、そして、いつも通り国王としての公務を行わせるために。

全て『番人』の指示通りに動く事を強制される。

エリック殿下にすぐに留学を止めて帰国するように指示を出した。

そしてゴードンの孫であるジャン・シュトリクも呼び寄せた。

二人を競わせどちらかを次の国王にする事を告げるために。

決めるのは表では国王であるが、『番人』が決めることになっている。

エリックは、優秀ではあるがジャンのように人を惹きつける魅力を持たない。
ジャンの優秀さは貴族達の間でも高評価を付けられている。
エリックは留学を通してどれだけ成長させて帰ってきたかで、二人のどちらが国王になるか決まる。

『番人』は自分の孫だからと贔屓はしない。
国王として相応しい者を淡々と選ぶことになる。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】用済みと捨てられたはずの王妃はその愛を知らない

千紫万紅
恋愛
王位継承争いによって誕生した後ろ楯のない無力な少年王の後ろ楯となる為だけに。 公爵令嬢ユーフェミアは僅か10歳にして大国の王妃となった。 そして10年の時が過ぎ、無力な少年王は賢王と呼ばれるまでに成長した。 その為後ろ楯としての価値しかない用済みの王妃は廃妃だと性悪宰相はいう。 「城から追放された挙げ句、幽閉されて監視されて一生を惨めに終えるくらいならば、こんな国……逃げだしてやる!」 と、ユーフェミアは誰にも告げず城から逃げ出した。 だが、城から逃げ出したユーフェミアは真実を知らない。

【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。

たろ
恋愛
幼馴染のロード。 学校を卒業してロードは村から街へ。 街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。 ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。 なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。 ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。 それも女避けのための(仮)の恋人に。 そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。 ダリアは、静かに身を引く決意をして……… ★ 短編から長編に変更させていただきます。 すみません。いつものように話が長くなってしまいました。

愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」 先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。 「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。 だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。 そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。

大好きな旦那様はどうやら聖女様のことがお好きなようです

古堂すいう
恋愛
祖父から溺愛され我儘に育った公爵令嬢セレーネは、婚約者である皇子から衆目の中、突如婚約破棄を言い渡される。 皇子の横にはセレーネが嫌う男爵令嬢の姿があった。 他人から冷たい視線を浴びたことなどないセレーネに戸惑うばかり、そんな彼女に所有財産没収の命が下されようとしたその時。 救いの手を差し伸べたのは神官長──エルゲンだった。 セレーネは、エルゲンと婚姻を結んだ当初「穏やかで誰にでも微笑むつまらない人」だという印象をもっていたけれど、共に生活する内に徐々に彼の人柄に惹かれていく。 だけれど彼には想い人が出来てしまったようで──…。 「今度はわたくしが恩を返すべきなんですわ!」 今まで自分のことばかりだったセレーネは、初めて人のために何かしたいと思い立ち、大好きな旦那様のために奮闘するのだが──…。

【完結】愛に裏切られた私と、愛を諦めなかった元夫

紫崎 藍華
恋愛
政略結婚だったにも関わらず、スティーヴンはイルマに浮気し、妻のミシェルを捨てた。 スティーヴンは政略結婚の重要性を理解できていなかった。 そのような男の愛が許されるはずないのだが、彼は愛を貫いた。 捨てられたミシェルも貴族という立場に翻弄されつつも、一つの答えを見出した。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

旦那様は私より幼馴染みを溺愛しています。

香取鞠里
恋愛
旦那様はいつも幼馴染みばかり優遇している。 疑いの目では見ていたが、違うと思い込んでいた。 そんな時、二人きりで激しく愛し合っているところを目にしてしまった!?

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

処理中です...