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ダン兄様の片想い  ほのぼの編

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わたしの名前はジェシー。
ダン兄様の妹。

シャノン姉様とは子どもの頃から仲良くしてもらっていた。

お兄様はいつもシャノン姉様を目で追っていた。

ロイズ様とわたしとシャノン姉様と遊んでいるとお兄様は、シャノン姉様に意地悪をする。

「シャノン、そんなところでじっーと座って何してんだ!俺と外へ行くぞ!ほら走れ!」

「え?わたしはサロンでジェシー達と本を読んでいたいの。ダンも一緒に読みましょう?」

「俺は外で遊びたいんだ!」
お兄様はぶっきらぼうに言うと、お姉様の手を握り無理矢理連れて行く。
本当はお姉様と手を繋ぎたかったんだと思う。
だって後ろから見ると耳が少し赤いんだもん。

そして、お兄様が庭師と一緒に手入れした薔薇園へ連れて行くのが見えた。
素直でないお兄様は、
「おれがシャノンのために手入れした薔薇園を見て欲しい」
などとは絶対に言わない。

シャノンお姉様が嬉しそうに薔薇園を歩いているのがサロンからも見える。
横でまんざらでもない顔でいるお兄様を見てわたしはくすりと笑った。

だが、ロイズ様はお姉様の嬉しそうな顔を見て少し顔を引き攣らせていた。
ロイズ様もシャノン姉様が大好きなのだ。

そして、病弱なお姉様は、歩き疲れて庭園でフラフラし始めた。

お兄様は慌ててお姉様を倒れないように支えていた。
すぐに侍従が来てお姉様を抱っこして、客室のベッドへ寝かせた。

落ち込んだお兄様はお母様に怒られていた。

お兄様の初恋を私たち家族はいつも生温かい目で見守っていた。

お兄様は、初めてシャノン姉様のお見舞いに行った時に、お母様に言ったらしい。

『ベッドに寝ている女の子は色白で線が細くて、消えてしまいそうだった。
消えてしまわないかと覗き込んだ時、あの黒い瞳に吸い込まれたんだ。
黒い瞳に映った俺の顔はたぶん真っ赤だったと思う。
俺、あの子の瞳にいつも映っていたい』

お兄様は、お父様に言われても剣術の鍛錬をサボってばかりだったのに、突然頑張り出した。

中等部に入学する頃から高等部にかけて貴族は婚約することが多い。
お父様がお姉様のところに婚約の打診をしたと聞いた時、お兄様はそわそわして、ウロチョロしていた。
紅茶を服に飲ませたり、階段を降りる時足を踏み外し転んだり、壁にぶつかったり、とにかくおかしかった。

それがお姉様には思い人がいてその人と婚約するからと断られた時から、お兄様は何も言わずひたすら剣の鍛錬をし続けた。
雨が降っても濡れながら続けている姿を見てわたしはお兄様に声をかけることも出来なかった。

高等部にはいり、シャノン様がラウル様との婚約が決まった時、「俺は騎士団に入隊する」と言って試験を受けて学園と騎士団で忙しく過ごしていた。

お姉様のことを忘れるために必死で何かに追われるように過ごしていたように感じた。

お姉様が結婚した日からしばらく、お兄様は部屋から出てこなかった。
お兄様は度々来る婚約の話を全て断っていた。お姉様が結婚したのだから、そろそろ諦めて誰かと婚約するしかないと思っていたら
「俺は誰とも結婚しないから、全て断ってくれ」
と、両親に言ってそれからは騎士団の仕事に励んだ。
もともと実力のあったお兄様は副隊長に選ばれた。
しかもラウル様と同じ部隊の。

お兄様はいつも騎士団から帰って来るとイライラしていた。
ラウル様を見るとお姉様のことを考えてしまうからイライラしているのかと思っていたが違っていた。

ラウル様の女遊びを知っていたお兄様はどうすることも出来なかったらしい。

わたしが問いただすと、
「あいつはシャノンを愛しすぎて出来ない欲望を他の女で紛らせているんだ」
と言われてわたしの顔は真っ赤になった。
(なんだその恥ずかしい話)

お兄様は、シャノン様にラウル様の歪んだ欲望が行くよりマシだと言っていた。
もうわたしには理解できない恥ずかしい話なのでお兄様には何も言わなかった。

そして、シャノン様が別居した。

お兄様はシャノン様の安全を守るために騎士団から派遣されてロイズ様の邸に出入りするようになった。

会えて嬉しいはずなのにいつも不機嫌だった。

「シャノンお姉様に会えてよかったじゃない」
とわたしが言うと
「愛する人の不幸を喜ぶ事はできない」
と、未だにシャノンお姉様を忘れることが出来ていないことをポロっと言ってしまって、わたしを睨みながら「忘れろ」と言って去っていった。

それからのお兄様は、さらに不機嫌で怖かった。

わたしは不器用で一途なお兄様の愛はシャノン姉様には全く伝わらないだろうなと危惧していた。

そしてある日のこと、お出かけから帰ると玄関に蹲るお兄様がいた。

「やばい、ヤバい……

俺の初恋、終わった。

いや最初から終わってたけど、今日完全に終わった。

ど、どうしよう。

シャノンに怒って気がつけば家に帰っていた」

とぶつぶつ呟いていた。
(この人、怖すぎる!)

「お兄様、何、玄関の前で蹲っていらっしゃるの。邪魔だわ

「うるせえなぁ……ハァァ…もう俺は終わったんだよ」

「…フッ、どうせまたシャノン姉様にフラれたのでしょう?」

「振られてない!嫌われただけだ!」

「それもっと酷いじゃない!」

「つい、あいつが意地はるから、腹が立ったんだ」

「お兄様!貴方は騎士団団長の息子であり第2部隊副隊長でもあるのよ。剣の才に恵まれてみんなから注目を浴びている騎士なのよ!しっかりしなさい!」
わたしはお兄様の哀れな姿に腹が立った。

そんなお兄様が、頑張り出したのはシャノン姉様が大学に通い出してからだった。

「ジェシー、女の子の好きなお菓子はなんだ!」

「今ならマカロンですわ」

「料理長に頼んでくる」

と、公爵家のお菓子が好きなシャノン姉様のためにいつも何か作ってもらっている。

「ジェシー、一緒に買い物に行こう」
とわたしを誘ってくる。

「今日は何を見るのですか?」

「シャノンの家に行ったら紅茶が少なくなっていたんだ。せっかくだからいろんな種類を買いたい」

「シャノンの手が荒れている、薬屋に行って何かいいものを探したい」
「シャノンの髪飾りがいつも一緒だ。新しいものを買いたい」

わたしは毎回買い物に付き合わされる。
腹が立つのでわたしもお兄様のお邪魔をして一緒に会いに行く。
お姉様を独り占めしてずっと話していると、お兄様が
「ジェシー、用事があっただろう、そろそろ帰れ!」
と、わたしを追い出す。

そんな片想いと失恋を一人だけに繰り返したお兄様がシャノン姉様と結婚する。

本当にわたしのお姉様になった。

わたしはこれからもわたしのお姉様を独り占めをしにお兄様のお家へ行くことにする。





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