上 下
80 / 89

ダンとわたし③

しおりを挟む
ダンからのプロポーズから数日、わたしは研修医の仕事に身が入らない。

頑張ろうと思っても無理でどうしたらいいのかわからずに、ロニーが住む以前わたし達が住んでいた赤い屋根の白い家に向かった。
以前は小さな家だったが、改築されて部屋数も増えて家族で暮らすには丁度いい広さになっていた。
リーサも結婚して今は隣町で暮らしている。

「シャノン様……どうしたのですか?何か悩んでいるのですか?」

「どうしてわかるの?」

「どれだけの時間ご一緒に過ごさせてもらったと思うんですか?それに我慢した時とか悩んだ時の癖が出てますよ。
すぐに下唇噛むでしょう?」

「あ…」
わたしはしばらく黙ったままいたが、ロニーにダンの今までのことを伝えた。

「やっとダン様伝えたのですね」

「知っていたの?」

「周りは気づくでしょう?あんなにシャノン様に会いに来てあんな顔でシャノン様をいつも見てたら」

「顔?」

「はい、いつもシャノン様を愛おしく見ておられました」

(は、恥ずかしい)
わたしは顔が真っ赤になった。

「し、知らなかったわ」

「まぁ、シャノン様ですからね。ダン様には気の毒だけどシャノン様が気付くわけはありませんよね。わたし達も人の恋路は知ったことではないし」
ロニーはちょっと意地悪く笑った。

「シャノン様、わたしが答えを出すことは出来ません。でもプロポーズを断れば二度とダン様と今みたいにお会いになることはないと思います。それで良いのか嫌なのか、それが答えだと思います」

「……会えなくなる?……わたしのそばから離れていくの?……」
わたしは涙が溢れてきた。

「シャノン様、それが答えです」

わたしはやっとダンへの気持ちに気づいた。失いたくない。それはダンをいつの間にか好きになっていたと言うことだった。

◇ ◇ ◇

わたしは自分からダンに会いに行った。

前もって先触れを出していたので、シェリル夫人とジェシーが待っていてくれた。

「ご無沙汰しておりました、シェリル夫人」
「ええ、久しぶりね、シャノン。頑張っているわね。あのいつも壊れそうだったシャノンが生き生きとして、目が輝いているわ」
「ありがとうございます。大変ですが医師の仕事はとても充実しております」

「シャノン姉様、お久しぶりぶりです」
ジェシーはわたしを見ると抱きついてきてくれた。
「ジェシー、会いたかったわ。中々会えなかったもの」
「わたしも学園を卒業して今は花嫁修行中です。いつもシャノン様はわたしが学園に行っている時に来てたから中々会えなかったわ。やっとゆっくり会えて嬉しいわ」

二人に連れられて客室へ案内されてお茶を出された。

「今日はダンに用事があるのよね?」

「はい。この前の頼まれごとの返事をしようと思いまして」
「返事?」
「はい、ちょっと頼まれ事をしていて、どうしようか悩んでいたんですが受け入れようかと思いまして…」
わたしはまだダンに返事をしていないのでここで先に他の人に伝えたくはなかった。

コンコン

「ダン、入りなさい」
ダンは微妙ななんとも言えない顔で入ってきた
「シャノン、いらっしゃい」

シェリル様とジェシーは部屋を後にした。

わたしとダンは二人きりになった。

「「・・・・・」」
沈黙が続いた。

「「あ、あの…」」

ふふふ
二人の言葉が被ってしまった。
「ダン、笑ってごめんなさい。」

「いや、俺もどうして良いかわからなくて、今日はシャノンの答えを聞くと思うと……」
ダンはわたしの顔を見た。
わたしもダンの顔を見つめた。

「わたし、ダンに対して好きなのかよく分からないの。ごめんなさい」

「いや、わかってたからもういいよ」
ダンは目を逸らして少し下を向いた。

「あ…違うの。えっと…ロニーに言われたの。ダンにもう二度と会えなくてもいいのかって。それを考えたら寂しくて会えなくなって話せなくなったら辛くてこれってダンのことが好きって言うことなのかな?」

「シャノン、それを俺に聞くの?」

「ご、ごめん。でもダンに会えなくなるのも話せなくなるのも考えるだけで辛いの。わたしから離れていかないで。……たぶん、貴方のことが好きなの」

「たぶん…か」
「だってダンとはずっと言い合いばかりしてたし、突然好きとか恥ずかしすぎる……し、認めちゃうとこれからどうやってダンと付き合って行けばいいのかわからないわ」

ダンは突然わたしをギュッと抱きしめた。
「初めて抱きしめた。俺の初恋、諦めなくてよかった。シャノン、愛してる」

わたしは恥ずかしくて、でもダンの温かさにふんわりと心地よくてなんとも言えない気分だった。

「ダン兄様、おめでとう」
「ダン、初恋がやっと叶ったわね」
二人がにこにこして部屋に入ってきた。

(何、この恥ずかしさ…どうしよう…消えたい…)
わたしは慌ててダンから離れようとしたがダンはギュッと抱きしめたまま離れなかった。

「ねえ、お願い、恥ずかしいから離れて」

「何で?やっと両思いになったのに絶対離れない!」

「兄様は、拗らせすぎてシャノン姉様に素直に慣れなかったから、やっと素直になれたのね」
と、苦笑いをしているジェシー。

「ふふふ、ダン、長年の初恋が実ったようね、おめでとう。シャノン、面倒臭い男だから大変だけどよろしくね」
と、笑顔でシェリル様にも言われた。

わたしはなんとかダンの体から離れて、二人に向かって挨拶をした。

「傷物ですが、ダンとこれからずっと長く一緒にいたいと思っております。どうぞお許しいただければ幸いです」

「何を言っているの。わたし達は貴方を歓迎するわ」






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大好きな旦那様が愛人を連れて帰還したので離縁を願い出ました

ネコ
恋愛
戦地に赴いていた侯爵令息の夫・ロウエルが、討伐成功の凱旋と共に“恩人の娘”を実質的な愛人として連れて帰ってきた。彼女の手当てが大事だからと、わたしの存在など空気同然。だが、見て見ぬふりをするのももう終わり。愛していたからこそ尽くしたけれど、報われないのなら仕方ない。では早速、離縁手続きをお願いしましょうか。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

【完結】婚約破棄され毒杯処分された悪役令嬢は影から王子の愛と後悔を見届ける

堀 和三盆
恋愛
「クアリフィカ・アートルム公爵令嬢! 貴様との婚約は破棄する」  王太子との結婚を半年後に控え、卒業パーティーで婚約を破棄されてしまったクアリフィカ。目の前でクアリフィカの婚約者に寄り添い、歪んだ嗤いを浮かべているのは異母妹のルシクラージュだ。  クアリフィカは既に王妃教育を終えているため、このタイミングでの婚約破棄は未来を奪われるも同然。こうなるとクアリフィカにとれる選択肢は多くない。  せめてこれまで努力してきた王妃教育の成果を見てもらいたくて。  キレイな姿を婚約者の記憶にとどめてほしくて。  クアリフィカは荒れ狂う感情をしっかりと覆い隠し、この場で最後の公務に臨む。  卒業パーティー会場に響き渡る悲鳴。  目にした惨状にバタバタと倒れるパーティー参加者達。  淑女の鑑とまで言われたクアリフィカの最期の姿は、良くも悪くも多くの者の記憶に刻まれることになる。  そうして――王太子とルシクラージュの、後悔と懺悔の日々が始まった。

不実なあなたに感謝を

黒木メイ
恋愛
王太子妃であるベアトリーチェと踊るのは最初のダンスのみ。落ち人のアンナとは望まれるまま何度も踊るのに。王太子であるマルコが誰に好意を寄せているかははたから見れば一目瞭然だ。けれど、マルコが心から愛しているのはベアトリーチェだけだった。そのことに気づいていながらも受け入れられないベアトリーチェ。そんな時、マルコとアンナがとうとう一線を越えたことを知る。――――不実なあなたを恨んだ回数は数知れず。けれど、今では感謝すらしている。愚かなあなたのおかげで『幸せ』を取り戻すことができたのだから。 ※異世界転移をしている登場人物がいますが主人公ではないためタグを外しています。 ※曖昧設定。 ※一旦完結。 ※性描写は匂わせ程度。 ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載予定。

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

愛せないですか。それなら別れましょう

黒木 楓
恋愛
「俺はお前を愛せないが、王妃にはしてやろう」  婚約者バラド王子の発言に、 侯爵令嬢フロンは唖然としてしまう。  バラド王子は、フロンよりも平民のラミカを愛している。  そしてフロンはこれから王妃となり、側妃となるラミカに従わなければならない。  王子の命令を聞き、フロンは我慢の限界がきた。 「愛せないですか。それなら別れましょう」  この時バラド王子は、ラミカの本性を知らなかった。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

婚約破棄のその後に

ゆーぞー
恋愛
「ライラ、婚約は破棄させてもらおう」 来月結婚するはずだった婚約者のレナード・アイザックス様に王宮の夜会で言われてしまった。しかもレナード様の隣には侯爵家のご令嬢メリア・リオンヌ様。 「あなた程度の人が彼と結婚できると本気で考えていたの?」 一方的に言われ混乱している最中、王妃様が現れて。 見たことも聞いたこともない人と結婚することになってしまった。

処理中です...