42 / 89
ロスワート侯爵様に会う②
しおりを挟む
正面に座るロスワート侯爵様と対峙したまま既に10分が流れた。
「「・・・・・」」
先生は、困った顔で苦笑いをしていた。
どちらが先に口を開くか我慢比べである。
(どうしよう…何を話したらいいのか分からないわ……)
「君たちはずっと貝にでもなっているつもりかね?」
ハアァ……
先生が大きな溜息を吐いた。
「まずは侯爵、いや、スティーブ!友人として話させてもらうよ。いい加減にシャノン嬢に全てを話せ!」
「……何を話すんだ?」
「わかってるだろう……素直になれ!」
「・・・・・」
ロスワート侯爵様は何も言わない。
「先生がおっしゃっている意味は分かりませんが、ひとつ言えることは離縁するわたしは侯爵家にとって必要のないゴミ屑なんです。
役に立たないわたしを、どうかロスワート侯爵様、除籍して下さい。お願いします」
ロスワート侯爵様は、わたしの顔をジッと見つめていた。
いつもの怖い顔なのに、瞳が寂しそうに見えたのは気のせいなのかもしれない。
「………除籍はしない」
と呟いた。
わたしは震えながら聞いた。
「…え?……でしたら離縁したら修道院ですか?それともどこかにまた嫁がされるのですか?」
ロスワート侯爵様はまだわたしに利用価値があると思っているのだろうか?
「わたしは平民となり市井に下ります。それでは罰になりませんか?市井で頑張って暮らすなど利用価値すらない人間には求めてはいけないものなのでしょうか?」
「……君が幸せを求めるのを邪魔するつもりはない」
「だったら除籍してください。わたしの初めてで最後のお願いです。わたしを捨ててください」
涙が止まらなかった。
ロスワート侯爵様の前では絶対に泣きたくなかったのに、思わず我慢していた涙が溢れてきた。
「シャノン嬢、スティーブに言いたいことを全部言ってやれ!今までどれだけ我慢してきたかこいつはわかってない!」
「おじ様……」
先生はロスワート侯爵様を睨んで怒っていた。
わたしはこの人に対して諦めていた。
子どもの頃からたまに会うと
「勉強はどうだ?」
「侯爵令嬢として恥ずかしくないように」
「成績は落とすな」
など厳しい言葉しか言われない。
「お話があります」と
伝えると
「忙しい、無駄なことに時間は取れない」
と怒られる始末。
わたしは良い子でいた。
我儘を言わないで迷惑をかけないように過ごした。
ただ父に褒められたいと勉強もピアノもダンスもマナーも頑張って勉強した。
父の領地運営に少しでも役に立ちたくて、家令に少しずつ教わって忙しい父のフォローをしたいと思っていた。
家令のクリスは、父に内緒でわたしにも仕事を振ってくれてわたしも父にほんの少しでも近づいた気分になっていた。
でも、それもこれもラウルと初めて会った日に言われた言葉でわたしの心は壊れたのだ。
『お前が出来ることは侯爵家のためになることだ、わかっているな?』
今もずっと燻り続けるこの言葉。
わたしに出来ることはラウルと結婚して少しでも侯爵家の役に立つことだけ。
呪いのようにわたしの心を蝕んでいく。
わたしは涙を拭ってロスワート侯爵様を見た。
「ロスワート侯爵様、貴方はおっしゃいました。
ラウルと初めて会った時に。
『お前が出来ることは侯爵家のためになることだ、わかっているな?』
と。だから離縁するわたしはもう役に立たないゴミ屑なんです。どうぞお捨てください」
ロスワート侯爵様が、小刻みに震え出し真っ青な顔になった。
「シャノン、違うんだ。違うんだ。
ほんとは君を愛しているんだ!大事な娘なんだ!」
「ロスワート侯爵様、覚えておいでですか?」
「『お話があります』と
伝えると
『忙しい、無駄なことに時間は取れない』
と怒ったことを。
わたしは貴方にとって無駄でしかないのです」
「スティーブ、お前そんな酷いことまで言ったのか?」
「……すまない、あの頃は忙し過ぎて余裕がなかったから言ったのかもしれないが覚えていない」
「お前、本当に自分勝手だな。シャノン嬢に同情するよ」
「もういいのです。わたしは除籍さえしてもらえればもう何もいらないのです」
「シャノン……どうしても……除籍したいのなら受け入れる………だが、その前にわたしの話を聞いてくれないか………言い訳でしかないが………」
そして長い話を語られた。
「「・・・・・」」
先生は、困った顔で苦笑いをしていた。
どちらが先に口を開くか我慢比べである。
(どうしよう…何を話したらいいのか分からないわ……)
「君たちはずっと貝にでもなっているつもりかね?」
ハアァ……
先生が大きな溜息を吐いた。
「まずは侯爵、いや、スティーブ!友人として話させてもらうよ。いい加減にシャノン嬢に全てを話せ!」
「……何を話すんだ?」
「わかってるだろう……素直になれ!」
「・・・・・」
ロスワート侯爵様は何も言わない。
「先生がおっしゃっている意味は分かりませんが、ひとつ言えることは離縁するわたしは侯爵家にとって必要のないゴミ屑なんです。
役に立たないわたしを、どうかロスワート侯爵様、除籍して下さい。お願いします」
ロスワート侯爵様は、わたしの顔をジッと見つめていた。
いつもの怖い顔なのに、瞳が寂しそうに見えたのは気のせいなのかもしれない。
「………除籍はしない」
と呟いた。
わたしは震えながら聞いた。
「…え?……でしたら離縁したら修道院ですか?それともどこかにまた嫁がされるのですか?」
ロスワート侯爵様はまだわたしに利用価値があると思っているのだろうか?
「わたしは平民となり市井に下ります。それでは罰になりませんか?市井で頑張って暮らすなど利用価値すらない人間には求めてはいけないものなのでしょうか?」
「……君が幸せを求めるのを邪魔するつもりはない」
「だったら除籍してください。わたしの初めてで最後のお願いです。わたしを捨ててください」
涙が止まらなかった。
ロスワート侯爵様の前では絶対に泣きたくなかったのに、思わず我慢していた涙が溢れてきた。
「シャノン嬢、スティーブに言いたいことを全部言ってやれ!今までどれだけ我慢してきたかこいつはわかってない!」
「おじ様……」
先生はロスワート侯爵様を睨んで怒っていた。
わたしはこの人に対して諦めていた。
子どもの頃からたまに会うと
「勉強はどうだ?」
「侯爵令嬢として恥ずかしくないように」
「成績は落とすな」
など厳しい言葉しか言われない。
「お話があります」と
伝えると
「忙しい、無駄なことに時間は取れない」
と怒られる始末。
わたしは良い子でいた。
我儘を言わないで迷惑をかけないように過ごした。
ただ父に褒められたいと勉強もピアノもダンスもマナーも頑張って勉強した。
父の領地運営に少しでも役に立ちたくて、家令に少しずつ教わって忙しい父のフォローをしたいと思っていた。
家令のクリスは、父に内緒でわたしにも仕事を振ってくれてわたしも父にほんの少しでも近づいた気分になっていた。
でも、それもこれもラウルと初めて会った日に言われた言葉でわたしの心は壊れたのだ。
『お前が出来ることは侯爵家のためになることだ、わかっているな?』
今もずっと燻り続けるこの言葉。
わたしに出来ることはラウルと結婚して少しでも侯爵家の役に立つことだけ。
呪いのようにわたしの心を蝕んでいく。
わたしは涙を拭ってロスワート侯爵様を見た。
「ロスワート侯爵様、貴方はおっしゃいました。
ラウルと初めて会った時に。
『お前が出来ることは侯爵家のためになることだ、わかっているな?』
と。だから離縁するわたしはもう役に立たないゴミ屑なんです。どうぞお捨てください」
ロスワート侯爵様が、小刻みに震え出し真っ青な顔になった。
「シャノン、違うんだ。違うんだ。
ほんとは君を愛しているんだ!大事な娘なんだ!」
「ロスワート侯爵様、覚えておいでですか?」
「『お話があります』と
伝えると
『忙しい、無駄なことに時間は取れない』
と怒ったことを。
わたしは貴方にとって無駄でしかないのです」
「スティーブ、お前そんな酷いことまで言ったのか?」
「……すまない、あの頃は忙し過ぎて余裕がなかったから言ったのかもしれないが覚えていない」
「お前、本当に自分勝手だな。シャノン嬢に同情するよ」
「もういいのです。わたしは除籍さえしてもらえればもう何もいらないのです」
「シャノン……どうしても……除籍したいのなら受け入れる………だが、その前にわたしの話を聞いてくれないか………言い訳でしかないが………」
そして長い話を語られた。
92
お気に入りに追加
4,583
あなたにおすすめの小説
全てを捨てて、わたしらしく生きていきます。
彩華(あやはな)
恋愛
3年前にリゼッタお姉様が風邪で死んだ後、お姉様の婚約者であるバルト様と結婚したわたし、サリーナ。バルト様はお姉様の事を愛していたため、わたしに愛情を向けることはなかった。じっと耐えた3年間。でも、人との出会いはわたしを変えていく。自由になるために全てを捨てる覚悟を決め、わたしはわたしらしく生きる事を決意する。

愛してくれない婚約者なら要りません
ネコ
恋愛
伯爵令嬢リリアナは、幼い頃から周囲の期待に応える「完璧なお嬢様」を演じていた。ところが名目上の婚約者である王太子は、聖女と呼ばれる平民の少女に夢中でリリアナを顧みない。そんな彼に尽くす日々に限界を感じたリリアナは、ある日突然「婚約を破棄しましょう」と言い放つ。甘く見ていた王太子と聖女は彼女の本当の力に気づくのが遅すぎた。

私の幸せは貴方が側にいないこと【第二章まで完結済】
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
※ 必ずお読みください
「これほどつまらない女だとは思わなかった」
そのひと言で私の心は砕けた。
どれほど時が流れようが治らない痛み。
もうたくさん。逃げよう――
運命にあらがう為に、そう決意した女性の話
5/18 第一章、完結しました。
8/11 もしかしたら今後、追加を書くかもしれない、とお伝えしていた追加を公開させていただきますが。
※ご注意ください※
作者独自の世界観です。
「昆虫の中には子を成した相手を食べる種がいる。それは究極の愛か否か」
なんて考えから生まれたお話です。
ですので、そのような表現が出てきます。
相手を「食べたい」「食べた」といったような言葉のみ。
血生臭い表現はありませんが、嫌いな方はお避け下さい。
《番》《竜》はかくあるべきというこだわりをお持ちの方にも回避をおすすめします。
8/11 今後に繋がる昔話を公開させていただきます。
この後、第二章以降(全三章を予定)を公開させていただく予定ですが、
綺麗にサラッと終わっておきたい方には、第一章のみで止めておく事をおすすめします。
感想欄は開けております。
様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。
ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、
いただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。
申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。
もちろん、私は全て読ませていただきます。
この作品は小説家になろうさんでも公開しています
【完結】恋は、終わったのです
楽歩
恋愛
幼い頃に決められた婚約者、セオドアと共に歩む未来。それは決定事項だった。しかし、いつしか冷たい現実が訪れ、彼の隣には別の令嬢の笑顔が輝くようになる。
今のような関係になったのは、いつからだったのだろう。
『分からないだろうな、お前のようなでかくて、エマのように可愛げのない女には』
身長を追い越してしまった時からだろうか。
それとも、特進クラスに私だけが入った時だろうか。
あるいは――あの子に出会った時からだろうか。
――それでも、リディアは平然を装い続ける。胸に秘めた思いを隠しながら。

【完結】真実の愛に目覚めたと婚約解消になったので私は永遠の愛に生きることにします!
ユウ
恋愛
侯爵令嬢のアリスティアは婚約者に真実の愛を見つけたと告白され婚約を解消を求められる。
恋する相手は平民であり、正反対の可憐な美少女だった。
アリスティアには拒否権など無く、了承するのだが。
側近を婚約者に命じ、あげくの果てにはその少女を侯爵家の養女にするとまで言われてしまい、大切な家族まで侮辱され耐え切れずに修道院に入る事を決意したのだが…。
「ならば俺と永遠の愛を誓ってくれ」
意外な人物に結婚を申し込まれてしまう。
一方真実の愛を見つけた婚約者のティエゴだったが、思い込みの激しさからとんでもない誤解をしてしまうのだった。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
※稚拙ながらも投稿初日からHOTランキング(2024.11.21)に入れて頂き、ありがとうございます🙂 今回初めて最高ランキング5位(11/23)✨ まさに感無量です🥲

魔法のせいだから許して?
ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。
どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。
──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。
しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり……
魔法のせいなら許せる?
基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。
王太子殿下から婚約破棄されたのは冷たい私のせいですか?
ねーさん
恋愛
公爵令嬢であるアリシアは王太子殿下と婚約してから十年、王太子妃教育に勤しんで来た。
なのに王太子殿下は男爵令嬢とイチャイチャ…諫めるアリシアを悪者扱い。「アリシア様は殿下に冷たい」なんて男爵令嬢に言われ、結果、婚約は破棄。
王太子妃になるため自由な時間もなく頑張って来たのに、私は駒じゃありません!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる