上 下
22 / 89

アイリスの悩み事

しおりを挟む
シャノンが邸を出てから1カ月が過ぎた。


今日もラウル様に会いに行った。

騎士団の詰所には行けないし、ベルアート家の邸には、何故か怖い門番の人が表も裏も配備されていて、わたしが行っても門前払い!

「ちょっとわたしは公爵夫人になるのよ!」

今日の門番に何度も教えてあげているのに黙って門を閉じたまま、返事すらしない!

「こんなことしてたらラウル様からクビになるわよ!ねえ聞こえてるの?返事くらいしなさいよ!」

今日の門番達、ほんと蝋人形みたいだわ。
息してるのかしら?

思わず下から門番の顔を覗き込んでみた。

(う~ん、目は微妙に動いているわ。息もしてるわね)

じっーと下から覗き込んでいると、門番は右を向いてしまった。

(あら、普通に動くのね)

「ねえ貴方達、わたしは伯爵令嬢よ!もうすぐ公爵夫人になって貴方たちの女主人になるの、門を開けなさい!」

「・・・・・・」

「貴方達、いったいいつまでこんなことをするの?わかってるの?きちんと仕事をしなさい!」

「・・・・・・」

ハア。

(わたしが公爵夫人になったらみんなクビにしてあげるわ)

こんなやりとりを1時間してわたしは帰ることにした。
言葉の通じない人と話すのは疲れるわ。

「明日また来るわ、愛するアイリスが来たことをラウル様に伝えておいてね。よろしくね」 


◇ ◇ ◇


わたしは、門番達にわたしのことをいつものように教えてあげてから帰宅した。

お父様が帰っていたので執務室に向かった。

「お父様、ラウル様からの返事はまだ来ないの?」

「アイリス返事はきたのだが、お断りの手紙だったよ」

お父様は渋い顔をしていた。

「どうしてなの?ラウル様はわたしを愛してるとおっしゃってたのよ?」

「公爵はまだ離縁されていないそうだ。それなのにこちらから縁談の話しを持っていってお怒りのようだ」

「お父様もご存知だと思うけど、ラウル様とわたしは何度も閨を共にしているの。愛し合っているの。シャノンとはすぐに別れるっておっしゃってたの!」

お父様は困った顔をした。

「そのことは一度公爵に話に行った。
うちの娘を傷モノにした責任をとって欲しい、娶っていただかないとこちらも醜聞になると伝えたんだ」

「わたしは傷モノではないわ!ラウル様の大切な女性よ!」

(ほんとお父様ったら失礼だわ。何が醜聞よ!わたしはラウル様に愛されているのよ!)

「アイリス、手紙の中に写しが入っていた。これはお前が書いたんだろ?」

『誓約書

わたくしアイリス・ベンジャミンは何があってもラウル・ベルアートに迷惑をかけないことを誓う』

「ええ、書いたわ
それがどうしたって言うの?」

ラウル様に抱かれた後、

「『アイリス、自分には妻がいる。問題を起こせば公爵としても騎士団副隊長としても醜聞になり困ることになる。悪いが誓約書を書いてくれ』
と言われたから会えなくなるのは嫌だから書いたわ」

ラウル様に抱かれて幸せなわたしは何も考えずに誓約書を書いた。

その時はシャノンと離縁してわたしが公爵夫人になれるなんて思わなかったのだもの。
ラウル様に会える、抱いてもらえる。
その嬉しさだけしかなかったの。

「お前の純潔を奪っておきながら酷い人だ」

「え?純潔?奪う?」

わたしがポカンとしているとお父様が怪訝な顔をした。

「アイリスの純潔を無理矢理奪ったんだろう?」

「お父様、何を言ってるの?わたし高等部の学園では何人も恋人がいたのよ」
とコテンと首を傾げた。

「お、お前は……」

お父様は何故か青い顔をして小刻みに震えていた。

(体調でも悪いのかしら?)

「わたしはラウル様が好きだから差し入れに少し媚薬を入れてみたの」

ふふふ

「そしたらわたしを朝まで離してくれなくて、とっても幸せだったわ」

あの時のことを思い出すだけで幸せ。
初めて彼に抱かれた時、絶対に彼を離さないって決めたの。

それからは彼への差し入れに少しずつ媚薬を入れていたの。

口にした時に目に入った一人に対して興奮する媚薬。

外国でしか手に入らないのだけど、学園の時の先輩(元彼)がわたしに使ってたのだけど、たまたま見つけて、お願い(脅した)したら譲ってくれたの!

「お父様、でも何回か使っただけなのよ?だって元彼から少しだけ貰ったものでなくなっちゃったから。彼がわたしを抱いてくれたのは媚薬のせいだけではないわ」

「公爵は誓約書をもとにこちらからの訴えも縁談の話も受け入れることはないと言ってきた」

「あれはラウル様の醜聞にならないように書いただけだわ。わたしとの結婚が醜聞になるなんてあるわけないわ!愛し合っているんだからみんなに祝福されて幸せになるのよ」

「……アイリス……お前はわかってない」

「わかってないのはお父様よ!ラウル様に聞いてみて、わたしを愛しているって言ってくれるから」

(お父様までわたしとラウル様のことわかってくれない・・・私たちの愛は永遠なのよ!)

とにかくラウル様に会ってお話しするしかないわ。


◇ ◇ ◇

アイリスはラウルに邸で言われた言葉はとっても嫌だったのでなかったことにした。

『「はあ?
何を言ってるんだ、お前はシャノンを抱けない時の性の捌け口だ!その辺にいる女と一緒だ!
ただ穴があるから挿れているだけだ、娼館に行かない時の代わりでしかない」

「『愛してる』って言ったじゃない!」

「言ったんじゃない、お前がシャノンに全て話すと言ったから仕方なく言ったんだ!そのせいでシャノンは出て行ったんだ!」

「シャノンと別れるって言ったじゃない!」

「それもうるさいお前の口を塞ぐためについた嘘だ!」

「ひどい!ひどいわ!愛してるのよ!」
アイリスは気が狂ったように泣き叫んだ。

「セバス、邪魔だ!排除しろ!」』



この時のことは、アイリスは覚えていたくなかった。
だから、忘れることにした。
いや、自分の記憶から追い出したのだ。

(わたしはラウル様に愛されている女性なの)



























しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

欠陥姫の嫁入り~花嫁候補と言う名の人質だけど結構楽しく暮らしています~

バナナマヨネーズ
恋愛
メローズ王国の姫として生まれたミリアリアだったが、国王がメイドに手を出した末に誕生したこともあり、冷遇されて育った。そんなある時、テンペランス帝国から花嫁候補として王家の娘を差し出すように要求されたのだ。弱小国家であるメローズ王国が、大陸一の国力を持つテンペランス帝国に逆らえる訳もなく、国王は娘を差し出すことを決めた。 しかし、テンペランス帝国の皇帝は、銀狼と恐れられる存在だった。そんな恐ろしい男の元に可愛い娘を差し出すことに抵抗があったメローズ王国は、何かあったときの予備として手元に置いていたミリアリアを差し出すことにしたのだ。 ミリアリアは、テンペランス帝国で花嫁候補の一人として暮らすことに中、一人の騎士と出会うのだった。 これは、残酷な運命に翻弄されるミリアリアが幸せを掴むまでの物語。 本編74話 番外編15話 ※番外編は、『ジークフリートとシューニャ』以外ノリと思い付きで書いているところがあるので時系列がバラバラになっています。

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

後悔だけでしたらどうぞご自由に

風見ゆうみ
恋愛
女好きで有名な国王、アバホカ陛下を婚約者に持つ私、リーシャは陛下から隣国の若き公爵の婚約者の女性と関係をもってしまったと聞かされます。 それだけでなく陛下は私に向かって、その公爵の元に嫁にいけと言いはなったのです。 本来ならば、私がやらなくても良い仕事を寝る間も惜しんで頑張ってきたというのにこの仕打ち。 悔しくてしょうがありませんでしたが、陛下から婚約破棄してもらえるというメリットもあり、隣国の公爵に嫁ぐ事になった私でしたが、公爵家の使用人からは温かく迎えられ、公爵閣下も冷酷というのは噂だけ? 帰ってこいという陛下だけでも面倒ですのに、私や兄を捨てた家族までもが絡んできて…。 ※R15は保険です。 ※小説家になろうさんでも公開しています。 ※名前にちょっと遊び心をくわえています。気になる方はお控え下さい。 ※史実とは関係なく、設定もゆるい、ご都合主義です。 ※中世ヨーロッパ風で貴族制度はありますが、法律、武器、食べ物などは現代風、もしくはオリジナルです。話を進めるにあたり、都合の良い世界観となっています。 ※誤字脱字、見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。

〖完結〗旦那様が愛していたのは、私ではありませんでした……

藍川みいな
恋愛
「アナベル、俺と結婚して欲しい。」 大好きだったエルビン様に結婚を申し込まれ、私達は結婚しました。優しくて大好きなエルビン様と、幸せな日々を過ごしていたのですが…… ある日、お姉様とエルビン様が密会しているのを見てしまいました。 「アナベルと結婚したら、こうして君に会うことが出来ると思ったんだ。俺達は家族だから、怪しまれる心配なくこの邸に出入り出来るだろ?」 エルビン様はお姉様にそう言った後、愛してると囁いた。私は1度も、エルビン様に愛してると言われたことがありませんでした。 エルビン様は私ではなくお姉様を愛していたと知っても、私はエルビン様のことを愛していたのですが、ある事件がきっかけで、私の心はエルビン様から離れていく。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 かなり気分が悪い展開のお話が2話あるのですが、読まなくても本編の内容に影響ありません。(36話37話) 全44話で完結になります。

もう一度あなたと?

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として 働くわたしに、ある日王命が下った。 かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、 ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。 「え?もう一度あなたと?」 国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への 救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。 だって魅了に掛けられなくても、 あの人はわたしになんて興味はなかったもの。 しかもわたしは聞いてしまった。 とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。 OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。 どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。 完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。 生暖かい目で見ていただけると幸いです。 小説家になろうさんの方でも投稿しています。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

処理中です...