【完結】今日も女の香水の匂いをさせて朝帰りする夫が愛していると言ってくる。

たろ

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え?アッシュいなくなったの?

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リリーの襲撃は、侯爵邸の使用人の間で瞬く間に噂になっていた。

『浮気して捨てた女がアッシュに会いに来た』

その事実にいろんな憶測がくっついて面白おかしく噂されていた。



『アッシュを追いかけて夫を捨ててきたらしい』

ーーリリーって結婚してないのだけど。

『リリーとアッシュは愛し合っていたのに元妻が二人を引き離した』

ーー引き離してなんかいません!
愛し合っていたかは本人達しかわからないけど!


『アッシュの元妻は恐妻なのでリリーの優しさに惹かれていた』
ーー恐妻?こんな淑やかで優しいが     恐妻?わたしが元妻よ?そんな風に見える?
と叫びたい!

『やっぱり女は顔よね、元妻は人前に出せないほどの顔だったらしいわ』

ーーほお、この顔は人前に出せない?ほお……

『アッシュさんにとって元妻は満足できなかったんじゃないか?』
『いくら暗い部屋でもねぇ、不細工との閨はねぇ』

ーーはああ⁈わたしの体に満足できなかった?
わたしの何を知って言ってるのよ!
ほんと使用人の男達のこの話を聞いて、わたしは服を脱ぎ捨てて満足できる体か見せてやりたくなった。

まあ、ロリーがちょうどその時近くにいて、わたしの怖い顔と服に手が掛かっているのを見て

「ユウナ、脱がないでね」
と、呆れて言われた。

「ちょっと考えてしまったけど、脱がないわよ!」


わたしが元妻だとは誰も知らない。

厨房にいた人達は、絶対に言わないでくれた。

なのでいろんな噂を聞くたびにわたしは厨房のでっかい寸胴鍋の蓋を開けてから鍋に顔を入れて毎回叫んでいた。

『ふざけんな!アッシュの元妻は美しく、健気で、優しい女性なんです!』

『はあ?あんた達、隣で元妻が聞いているのによくそんな失礼なこと話せるわね!』

『わたしは、不細工ではありません』

鍋に叫んだ後、一人で大きな鍋を洗うのは大変だった。
今度からもう少し小さい鍋に叫ぼうと思っても、やっぱり大きな声で叫びたいので、大きな寸胴鍋で満足するまで叫び続けた。

それはアッシュが仕事を辞めて侯爵邸からいなくなってもしばらく続いた。



厨房にいたみんながわたしがアッシュの元妻だと知っても何も言わないでいてくれたのは、ロリーが真実を
厨房にいたみんなにきちんと説明してくれて、

「ユウナは傷つきこの騎士団で働き始めたんだ、もうこれ以上傷つけたくない。みんなすまないがここだけの話としてユウナのことは黙っていて欲しい。お願いします」

ロリーがみんなに頭を下げてお願いしてくれたと聞いて、感動してしまった。
あのいつもわんぱくでわたしの後ろに引っ付いてついて回っていたロリーがわたしを守ってくれるなんて……

アッシュがいなくなってビクビクしながらも、アッシュに会えるかもしれないという少しの期待もあったのだと今更ながら感じた。

もう侯爵邸のどこにもアッシュの姿を見ることはできない。

本当のさよならだった。




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