上 下
8 / 35

アッシュの言い訳。②

しおりを挟む
僕は探し回った。

ユウナは仕事で遠くに行ったと近所の人には話して、いつでもユウナが戻ってこれるようにした。

仕事が終わってから街中を探して回った。
どこかのレストランで働いているかもしれない。
友人にも訪ねて回った。
休みの日には少し遠出をして街中を探して回った。

だが手掛かりは見つからない。
リュウは絶対にユウナの行き先を教えてくれない。

「もう別れてやってくれ」

リュウの言葉なんか聞きたくない。

可哀想だからと同情してリリーに関わったのが一番悪いことだとわかっている。

弟みたいで可愛がっていたリリーの弟達。

僕は調子に乗っていたのか。

仕事のストレスをユウナに見せたくなくて、彼らと関わることで気分転換をしていた。

リリーのことも浮気ではないからと言い訳をしていた。
だってキスもエッチもしていないんだ。
ただの添い寝だ。

でもユウナが僕の前から出て行った時、やはり間違いだと思い知らされた。
だからユウナが出て行ってから、キスマークのことをリリーに聞きに行って以来会いに行っていない。

僕は間違えてしまった。

大切なユウナに知られたくなくて、隠した。

そしてまた出て行った。

僕は必死でユウナを追いかけたのに見失ってしまった。

急いでリュウのところへ行ってみた。

「ユウナは来てないか?」

「お前のところへ帰ったはずだが?」

「……出て行ったんだ」

「話し合いが上手くいかなかったのか?もう諦めて離婚届にサインしろ」

「いやだ!僕はユウナを愛しているんだ!」

「愛しているなら解放してやってくれ!お前は裏切ったんだろう?」

「ち、違う……」

「だったら理由を教えてくれ!」

僕はさっきユウナに話した内容をリュウにも話した。

「バコッ!」

「………っう、い、っ……」
頬をグーで思いっきり殴ってきた。

口の中が切れて血の味がする。

「おまえ、最低だな!添い寝?ユウナが他の男と添い寝してもお前は平気な訳?
許せるのか?」

「………許せない……」

「はあ?自分はよくて相手は許せない?それ完全に浮気だから!エッチしていないから浮気じゃない?ふざけんな!ここに離婚届がまだ残っている」

リュウは引き出しから離婚届を出してきて、僕にペンを渡した。

「書きたくない……」

「ふざけんな!いいから書け!」

「僕はユウナと別れない!」

リュウは今度は僕のお腹を殴った。

「いい加減に諦めろ」

「いやだ!」

「だったら何故そんな女と添い寝なんかしたんだ!香水の匂いをつけてキスマークだと?ふざけんな!」

「………悪いことをしていると思っていなかった」

「お前は馬鹿か?いや馬鹿なんだ」

「……ユウナを愛しているんだ」

「やり直せると思っているのか?」

「……………」

「答えられないと言うことはわかっているんだろう?」

「………………」

「もういい。俺はユウナが心配だから探しに行く」
リュウは僕を冷たい目で一瞬見るとそのまま去って行った。

わかっている、もう駄目なことは。

浮気じゃない……認めると別れないといけない。

だから自分に言い聞かせていた。

リリーに惹かれていたのかもしれない。

必死で働く彼女に同情していた。

でもユウナのことを愛していたから一線だけは超えないようにしていたつもりだった。

僕はユウナを探しに行く事はできなかった。

もうユウナは僕に会いたくはないだろう。

この離婚届にサインするのがユウナへの罪滅ぼしなんだとわかっていた。

そしてサインした離婚届をポケットに入れてリュウの家を出た。

街をぶらぶら歩いた。

行く当てはなかったけど、僕が探してはいけないけどユウナの姿をつい人混みの中で探してしまう。

薄暗くなった街の中、街灯と店の明かりの中で、ユウナの姿を探した。

ポケットに入った離婚届を握りしめながら、ユウナが働いていたレストランへ足が向かっていた。

「アッシュ?」
聞き覚えのある声が聞こえた。

思わず振り向くとそこにはリリーが立っていた。

「リリー?」

「アッシュ……どうして会いにきてくれないの?弟達も寂しがっているのよ」

「………もう会いにはいけない……君との関係も続けるべきではなかった。へんに同情をして誤解させてごめん。僕は妻を愛しているんだ」

「……アッシュ……誤解?どうして?わたしは貴方を愛しているわ、奥さんがいても会いに来てくれていたのはわたしを愛していたからではないの?」

「ごめん……同情でしかなかった」

「バシッ!」
リリーの目には涙が溢れていた。

「……すまない」

リリーは僕を睨みつけて

「奥さんは出て行ったままなの?」

「………ああ」

「貴方の優しさって残酷だわ、期待させて同情?奥さんも可哀想」

リリーは呆れたように言うと去って行った。

レストランに向かうと、店の中からオーナーが現れて、冷たく言われた。
「アッシュ、もう二度と俺の前に顔を出すな」

次の朝、離婚届を役所に出すとその足でリュウに手紙を書いた。

離婚届を出したことを知らせるために。

そしてひと月後、僕は街を出た。






◆ ◆ ◆

皆様ご感想ありがとうございます。

最低浮気野郎を軽く書いていたらとてもすごく反応があり驚いています。

お怒り、気持ち悪い、ご意見ありがとうございます。
作者も書いていてそう思いました。(ーー;)

この後、話がユウナに戻り、✖️ ✖️ ✖️ ✖️になると思います。

あと少し、作者の話にお付き合いくださる皆様、よろしくお願い致します。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一番悪いのは誰

jun
恋愛
結婚式翌日から屋敷に帰れなかったファビオ。 ようやく帰れたのは三か月後。 愛する妻のローラにやっと会えると早る気持ちを抑えて家路を急いだ。 出迎えないローラを探そうとすると、執事が言った、 「ローラ様は先日亡くなられました」と。 何故ローラは死んだのは、帰れなかったファビオのせいなのか、それとも・・・

わたしを捨てた騎士様の末路

夜桜
恋愛
 令嬢エレナは、騎士フレンと婚約を交わしていた。  ある日、フレンはエレナに婚約破棄を言い渡す。その意外な理由にエレナは冷静に対処した。フレンの行動は全て筒抜けだったのだ。 ※連載

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

家出したとある辺境夫人の話

あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
『突然ではございますが、私はあなたと離縁し、このお屋敷を去ることにいたしました』 これは、一通の置き手紙からはじまった一組の心通わぬ夫婦のお語。 ※ちゃんとハッピーエンドです。ただし、主人公にとっては。 ※他サイトでも掲載します。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈 
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

彼の過ちと彼女の選択

浅海 景
恋愛
伯爵令嬢として育てられていたアンナだが、両親の死によって伯爵家を継いだ伯父家族に虐げられる日々を送っていた。義兄となったクロードはかつて優しい従兄だったが、アンナに対して冷淡な態度を取るようになる。 そんな中16歳の誕生日を迎えたアンナには縁談の話が持ち上がると、クロードは突然アンナとの婚約を宣言する。何を考えているか分からないクロードの言動に不安を募らせるアンナは、クロードのある一言をきっかけにパニックに陥りベランダから転落。 一方、トラックに衝突したはずの杏奈が目を覚ますと見知らぬ男性が傍にいた。同じ名前の少女と中身が入れ替わってしまったと悟る。正直に話せば追い出されるか病院行きだと考えた杏奈は記憶喪失の振りをするが……。

処理中です...