93 / 94
番外編 ラウルの独り言
しおりを挟む
ラウルは最近王都へ通うようになった。
領地から王都までは馬車では一日。
早馬なら半日もあれば着く距離だ。
突然出来た17歳の息子にどう接すればいいのかわからず戸惑うばかりだが、アランは確かに自分に似ている。
わたしと同じ瞳、顔もわたしに少し似ている。
初めて会った瞬間、自分の子だと思った。
何故か彼の悲しそうな表情から目が離せなかった。
『俺は産まれた時から誰からも必要とされていなかったんだ……なのに、なんで産まれてきたんだよ!
人を苦しめてまで生きたくなんかなかった。俺の所為でエイミー達家族はバラバラにされて、ルディア様は心が病んで、お祖父様達は脅されて、俺には生きる価値なんかない……』
アランの悲痛な叫びを聞いてわたしは何を今までしてきたのだろうと後悔するしかなかった。
知らなかったでは済まされない。
領地に戻り父にまず話した。
父も全く知らなかった。
わたしは、母にも話した。母はアランの辛い人生に涙した。
全てわたしの罪。
でも、今は彼が生まれてきて良かったと思える人生をわたしが出来ることをするしかない。
アランとの距離を測りつつ少しずつ会話も増えた。
レオナルドとは話し合い、アランの意思に従い籍はグランデ侯爵に置かれたままにしていた。
月に数回アランと会う時は、お互い剣を交えた。
まだ力も技も足りないアランだが、今からどんどん伸びていくだろう。
本人は騎士になりたいみたいだ。
彼のために家での鍛錬の仕方や毎日欠かさずやらないといけない基礎体力作りなど自分が経験してきた騎士生活を思い出して教えた。
一度は辞めた騎士。
彼との剣の打ち合いは自分にとっても楽しい時間になっていた。
「アラン、もっと肩の力を抜け」
「タイミングがズレているぞ」
「足の動きが遅い!」
「もう疲れたのか?休んでもいいんだぞ!!」
アランはどんなに厳しくしても食い下がってくる。
「アランは騎士になりたいんだろう?」
「そうです、俺はグランデでもベルアートでもなく、ただのアランとして生きたい。自分の力で生きていきたいんです」
「そうか………君が良ければわたしはベルアート公爵家嫡男として次の当主になって欲しいと思っているんだ、レオナルドのところは再婚しただろう、アランにとっても居づらいのではないのか?」
「俺は父上の息子ではありますが、ルディア様の息子ではありません、お互い仲の良い話し相手としてエイミーも加わって過ごしています、だから居づらいとは思っていません」
「わかった。だがわたしは君の父親だ。いつでも頼ってきて欲しい、まあ、恋の相談はわたしには無理だけど」
わたしが笑いながら言った。
「ラウル様は若い頃かなり女遊びが激しかったと噂で聞きました」
わたしは苦笑いをしながらも
「うん、わたしは自分に驕っていたんだと思う。いつも女性達に囲まれて適当に相手をしていたんだ。本当に愛する人には向き合うことから逃げていたんだ。
アラン、君はエイミーが好きなんだろう?」
アランはわたしに振り向いて驚いた顔をしていた。
「……え?……」
みるみる顔が赤くなっていった。
顔を赤くしている姿がまだ18歳らしいと思えた。
「うーん、たぶん気づかない人の方が多いと思うよ。わたしは第三者なので、逆に冷静に見えてしまうんだと思うよ」
「エイミーはカイル殿下が好きなんです。俺の気持ちを彼女に伝える気はありません。今の良い関係を続けるつもりです」
アランはきっぱりと言い切った。
わたしとは違う。
アランは母親に冷遇されて生きてきたのに捻くれもせず真っ直ぐに生きてきたんだと思うと、何か少しでも彼の力になりたかった。
「アラン、私にしてあげられる事は何かないだろうか?」
「出来れば騎士になっても時間が合えば手合わせをお願いしたいです」
「わかった、約束しよう」
そして、アランは有言実行で、平民となり騎士団に入団した。
平民からの一兵卒はかなりあたりも厳しい。
だがアランはそれを屁とも思わない強い心を持っていた。
そして技もどんどん上達している。
あと少しでわたしは追い抜かれるだろう。
いつかわたしを「ラウル様」ではなくて「父上」と言ってくれる日は来るのだろうか……
レオナルドはずっと父親としてアランを守ってくれた。今度はわたしも彼を支えて守る。
わたしはアランの騎士服の姿を見るたびに心の中で「負けるな!」と思い続ける。
先輩騎士達にこき使われて剣すら握らせてもらえない平民の騎士。
這い上がって行く姿を見守っていこう。
領地から王都までは馬車では一日。
早馬なら半日もあれば着く距離だ。
突然出来た17歳の息子にどう接すればいいのかわからず戸惑うばかりだが、アランは確かに自分に似ている。
わたしと同じ瞳、顔もわたしに少し似ている。
初めて会った瞬間、自分の子だと思った。
何故か彼の悲しそうな表情から目が離せなかった。
『俺は産まれた時から誰からも必要とされていなかったんだ……なのに、なんで産まれてきたんだよ!
人を苦しめてまで生きたくなんかなかった。俺の所為でエイミー達家族はバラバラにされて、ルディア様は心が病んで、お祖父様達は脅されて、俺には生きる価値なんかない……』
アランの悲痛な叫びを聞いてわたしは何を今までしてきたのだろうと後悔するしかなかった。
知らなかったでは済まされない。
領地に戻り父にまず話した。
父も全く知らなかった。
わたしは、母にも話した。母はアランの辛い人生に涙した。
全てわたしの罪。
でも、今は彼が生まれてきて良かったと思える人生をわたしが出来ることをするしかない。
アランとの距離を測りつつ少しずつ会話も増えた。
レオナルドとは話し合い、アランの意思に従い籍はグランデ侯爵に置かれたままにしていた。
月に数回アランと会う時は、お互い剣を交えた。
まだ力も技も足りないアランだが、今からどんどん伸びていくだろう。
本人は騎士になりたいみたいだ。
彼のために家での鍛錬の仕方や毎日欠かさずやらないといけない基礎体力作りなど自分が経験してきた騎士生活を思い出して教えた。
一度は辞めた騎士。
彼との剣の打ち合いは自分にとっても楽しい時間になっていた。
「アラン、もっと肩の力を抜け」
「タイミングがズレているぞ」
「足の動きが遅い!」
「もう疲れたのか?休んでもいいんだぞ!!」
アランはどんなに厳しくしても食い下がってくる。
「アランは騎士になりたいんだろう?」
「そうです、俺はグランデでもベルアートでもなく、ただのアランとして生きたい。自分の力で生きていきたいんです」
「そうか………君が良ければわたしはベルアート公爵家嫡男として次の当主になって欲しいと思っているんだ、レオナルドのところは再婚しただろう、アランにとっても居づらいのではないのか?」
「俺は父上の息子ではありますが、ルディア様の息子ではありません、お互い仲の良い話し相手としてエイミーも加わって過ごしています、だから居づらいとは思っていません」
「わかった。だがわたしは君の父親だ。いつでも頼ってきて欲しい、まあ、恋の相談はわたしには無理だけど」
わたしが笑いながら言った。
「ラウル様は若い頃かなり女遊びが激しかったと噂で聞きました」
わたしは苦笑いをしながらも
「うん、わたしは自分に驕っていたんだと思う。いつも女性達に囲まれて適当に相手をしていたんだ。本当に愛する人には向き合うことから逃げていたんだ。
アラン、君はエイミーが好きなんだろう?」
アランはわたしに振り向いて驚いた顔をしていた。
「……え?……」
みるみる顔が赤くなっていった。
顔を赤くしている姿がまだ18歳らしいと思えた。
「うーん、たぶん気づかない人の方が多いと思うよ。わたしは第三者なので、逆に冷静に見えてしまうんだと思うよ」
「エイミーはカイル殿下が好きなんです。俺の気持ちを彼女に伝える気はありません。今の良い関係を続けるつもりです」
アランはきっぱりと言い切った。
わたしとは違う。
アランは母親に冷遇されて生きてきたのに捻くれもせず真っ直ぐに生きてきたんだと思うと、何か少しでも彼の力になりたかった。
「アラン、私にしてあげられる事は何かないだろうか?」
「出来れば騎士になっても時間が合えば手合わせをお願いしたいです」
「わかった、約束しよう」
そして、アランは有言実行で、平民となり騎士団に入団した。
平民からの一兵卒はかなりあたりも厳しい。
だがアランはそれを屁とも思わない強い心を持っていた。
そして技もどんどん上達している。
あと少しでわたしは追い抜かれるだろう。
いつかわたしを「ラウル様」ではなくて「父上」と言ってくれる日は来るのだろうか……
レオナルドはずっと父親としてアランを守ってくれた。今度はわたしも彼を支えて守る。
わたしはアランの騎士服の姿を見るたびに心の中で「負けるな!」と思い続ける。
先輩騎士達にこき使われて剣すら握らせてもらえない平民の騎士。
這い上がって行く姿を見守っていこう。
75
お気に入りに追加
3,094
あなたにおすすめの小説
妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます
冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。
そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。
しかも相手は妹のレナ。
最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。
夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。
最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。
それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。
「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」
確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。
言われるがままに、隣国へ向かった私。
その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。
ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。
※ざまぁパートは第16話〜です
【完結】捨てられた双子のセカンドライフ
mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】
王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。
父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。
やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。
これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。
冒険あり商売あり。
さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。
(話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)
冤罪を受けたため、隣国へ亡命します
しろねこ。
恋愛
「お父様が投獄?!」
呼び出されたレナンとミューズは驚きに顔を真っ青にする。
「冤罪よ。でも事は一刻も争うわ。申し訳ないけど、今すぐ荷づくりをして頂戴。すぐにこの国を出るわ」
突如母から言われたのは生活を一変させる言葉だった。
友人、婚約者、国、屋敷、それまでの生活をすべて捨て、令嬢達は手を差し伸べてくれた隣国へと逃げる。
冤罪を晴らすため、奮闘していく。
同名主人公にて様々な話を書いています。
立場やシチュエーションを変えたりしていますが、他作品とリンクする場所も多々あります。
サブキャラについてはスピンオフ的に書いた話もあったりします。
変わった作風かと思いますが、楽しんで頂けたらと思います。
ハピエンが好きなので、最後は必ずそこに繋げます!
小説家になろうさん、カクヨムさんでも投稿中。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

もう一度あなたと?
キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省で魔法書士として
働くわたしに、ある日王命が下った。
かつて魅了に囚われ、婚約破棄を言い渡してきた相手、
ワルター=ブライスと再び婚約を結ぶようにと。
「え?もう一度あなたと?」
国王は王太子に巻き込まれる形で魅了に掛けられた者達への
救済措置のつもりだろうけど、はっきり言って迷惑だ。
だって魅了に掛けられなくても、
あの人はわたしになんて興味はなかったもの。
しかもわたしは聞いてしまった。
とりあえずは王命に従って、頃合いを見て再び婚約解消をすればいいと、彼が仲間と話している所を……。
OK、そう言う事ならこちらにも考えがある。
どうせ再びフラれるとわかっているなら、この状況、利用させてもらいましょう。
完全ご都合主義、ノーリアリティ展開で進行します。
生暖かい目で見ていただけると幸いです。
小説家になろうさんの方でも投稿しています。
この度、双子の妹が私になりすまして旦那様と初夜を済ませてしまったので、 私は妹として生きる事になりました
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
*レンタル配信されました。
レンタルだけの番外編ssもあるので、お読み頂けたら嬉しいです。
【伯爵令嬢のアンネリーゼは侯爵令息のオスカーと結婚をした。籍を入れたその夜、初夜を迎える筈だったが急激な睡魔に襲われて意識を手放してしまった。そして、朝目を覚ますと双子の妹であるアンナマリーが自分になり代わり旦那のオスカーと初夜を済ませてしまっていた。しかも両親は「見た目は同じなんだし、済ませてしまったなら仕方ないわ。アンネリーゼ、貴女は今日からアンナマリーとして過ごしなさい」と告げた。
そして妹として過ごす事になったアンネリーゼは妹の代わりに学院に通う事となり……更にそこで最悪な事態に見舞われて……?】
あなたの愛が正しいわ
来須みかん
恋愛
旧題:あなたの愛が正しいわ~夫が私の悪口を言っていたので理想の妻になってあげたのに、どうしてそんな顔をするの?~
夫と一緒に訪れた夜会で、夫が男友達に私の悪口を言っているのを聞いてしまった。そのことをきっかけに、私は夫の理想の妻になることを決める。それまで夫を心の底から愛して尽くしていたけど、それがうっとうしかったそうだ。夫に付きまとうのをやめた私は、生まれ変わったように清々しい気分になっていた。
一方、夫は妻の変化に戸惑い、誤解があったことに気がつき、自分の今までの酷い態度を謝ったが、妻は美しい笑みを浮かべてこういった。
「いいえ、間違っていたのは私のほう。あなたの愛が正しいわ」

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる