上 下
18 / 94

★高等部1年生③

しおりを挟む
今日はスチュワート公爵家のお茶会にお母様とハノン伯母様、そしてお祖母様が呼ばれている。

わたしは久しぶりにみんなに会えるので昨日からよく眠れなかった。

早くお母様に会いたい。抱きしめられたい。頭を撫でてもらいたい。

わたしは16歳になったはずなのにお母様と別れた12歳に気持ちが戻ってしまった。

あまりにも時間が経たないのでわたしは調理場へ行き、料理人達と一緒にお菓子作りを始めた。

「わたしがシフォンケーキを焼いてもいいかしら?」

「エイミー様が焼いたシフォンケーキは美味しいのでこちらこそお願いします」
料理長がニコニコ笑いながら了解してくれた。

「ありがとう、みんなに料理長直伝のシフォンケーキをわたしが焼いて食べさせたかったの。嬉しいわ」

「テーブルのセッティングも手伝ってもいい?お庭でお花を少し貰ってくるわね」
わたしはお菓子作りやお茶会の準備と頑張って手伝った。

普通は屋敷のお嬢様はそんなことしないわ。でもわたしはこの屋敷のお嬢様ではないので使用人たちとも仲良くさせて貰っている。そして色々なことを教わっているの。
お菓子作りにお庭の手入れの仕方やお花の育て方、馬のブラッシングの仕方も習ったわ。掃除や洗濯も教えて貰ったの。
いずれ学園を卒業したら王宮図書館で働きたい。その時に一人でなんでも出来るようになっていないと苦労するから今はどんなことでも教えて貰っているの。

マーシャ様は、「エイミー、お願いだから辞めて頂戴」と言われ、シャーリーのお父様のライアン様は「エイミーのその好奇心旺盛なのはお祖父様であるルーベン様の血を受け継いでいるんだろうね」
と、笑われた。


◇ ◇ ◇

玄関で三人を出迎えた。
わたしは挨拶を忘れてお母様に抱きついた。

「お母様、会いたかったの。とっても会いたかったの」

お母様はわたしを抱きしめて頭を撫でてくれた。

「エイミー、綺麗になったわね。そして大人になったのね。会いたかったわ」

わたしは涙が溢れて止まらなかった。
三人は客室に通されてマーシャ様とのお茶会が始まった。
勿論わたしとシャーリーも参加させて頂いたわ!

お茶会が終わった後、お母様はわたしの部屋へ来てくれた。

「ここが貴方の部屋なのね」
「ええそうよ。ほとんどシャーリーが選んでくれたからフリルが多い部屋だけどとても気に入っているの。居候のわたしにみんなとてもよくしてくださるのよ。本当の娘みたいに可愛がってくださるの」

「見ていたらわかるわ。エイミーはここでみんなに大事にして貰っているのね」
「ええ。みんな優しいの。お母様、わたし学園に通えて幸せよ。……でも、でもね、たまにハディッド領での毎日を思い出すの。みんなで駆け回ったあの自然を思い出すの。そしたら朝は目が腫れちゃうの…ふふ…わたし、お母様に会いたかったの、1回だけ帰る機会はあったけど時間がなくてゆっくり会えなかったでしょう?お母様、マーシャ様にお願いして許可を頂いているの。わたしの部屋でしばらく過ごして欲しいの。ダメかしら?」
「ええマーシャ様に聞いたわ。わたしも貴方と過ごしたいわ、少しでも一緒にいたいの。貴方の口から今までどんな風に過ごしてきたか教えてほしいわ」

わたしはこの日だけは部屋から出ないでずっとお母様と二人っきりで過ごした。
部屋に食事を運んでもらって二人で笑い合いながら食べた。

次の日からは学校があるのでお母様とは夜しか会えないので少しでも無駄な時間を減らすことにした。

「カイル殿下、わたししばらく図書館に行けなくなりました」

「うん?忙しいのかな?」

「はい‥…殿下はわたしのこと…‥ご存知ですよね?」

殿下はわたしの目をジーッと見た。

「ここで話すことではないかな」

「そうですね、すみません」

二人は教室を出て、廊下の突き当たりの誰もいないところで話した。

「君が侯爵家に養女になったことは知っているよ」 

「ではわたしが以前誰だったのかはご存知ですか?」

「……知ってるよ。ハディッド家のルディア様の娘だよね」

「そうです。では父の名もご存知なんですね」

「ああ、知っているよ」

わたしは唾を飲み込んだ。
今ここに真実がある。知りたい欲求と知ることが怖い恐怖で続きを聞くことが躊躇われた。

「エイミー、君は父親のことを知らないんだね?」

わたしは驚いて殿下を見た。

「君はわかりやすいからね。父親の名と言った時顔が強張っていたよ」

「はい、殿下に鎌をかけました」

「そっかぁ、君が知りたいのなら話すよ」

「わかりません」

「うん?」

「聞きたいのか聞きたくないのかわからないのです」
わたしは何故か涙が溢れてきた。

お義父様もお義母様も優しくて大好きだ。お義兄様もメイも大好きで大事な家族。とても幸せだ。
なのにお母様に会いたくて仕方がなくて、本当のお父様に会って見たくて、自分自身の気持ちがよく分からない。

「エイミー、君の家族は君が大切だから今は言えないんだと思う。いずれ知る時がきたら君ならきっと話を聞いて受け入れられると思うよ」

わたしは殿下にお父様のことを聞けなかった。













しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

【完結】婚約者は自称サバサバ系の幼馴染に随分とご執心らしい

冬月光輝
恋愛
「ジーナとはそんな関係じゃないから、昔から男友達と同じ感覚で付き合ってるんだ」 婚約者で侯爵家の嫡男であるニッグには幼馴染のジーナがいる。 ジーナとニッグは私の前でも仲睦まじく、肩を組んだり、お互いにボディタッチをしたり、していたので私はそれに苦言を呈していた。 しかし、ニッグは彼女とは仲は良いがあくまでも友人で同性の友人と同じ感覚だと譲らない。 「あはは、私とニッグ? ないない、それはないわよ。私もこんな性格だから女として見られてなくて」 ジーナもジーナでニッグとの関係を否定しており、全ては私の邪推だと笑われてしまった。 しかし、ある日のこと見てしまう。 二人がキスをしているところを。 そのとき、私の中で何かが壊れた……。

ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。  一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。  そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。

秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚 13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。 歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。 そしてエリーゼは大人へと成長していく。 ※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。 小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】余命三年ですが、怖いと評判の宰相様と契約結婚します

佐倉えび
恋愛
断罪→偽装結婚(離婚)→契約結婚 不遇の人生を繰り返してきた令嬢の物語。 私はきっとまた、二十歳を越えられないーー  一周目、王立学園にて、第二王子ヴィヴィアン殿下の婚約者である公爵令嬢マイナに罪を被せたという、身に覚えのない罪で断罪され、修道院へ。  二周目、学園卒業後、夜会で助けてくれた公爵令息レイと結婚するも「あなたを愛することはない」と初夜を拒否された偽装結婚だった。後に離婚。  三周目、学園への入学は回避。しかし評判の悪い王太子の妾にされる。その後、下賜されることになったが、手渡された契約書を見て、契約結婚だと理解する。そうして、怖いと評判の宰相との結婚生活が始まったのだが――? *ムーンライトノベルズにも掲載

愛されないはずの契約花嫁は、なぜか今宵も溺愛されています!

香取鞠里
恋愛
マリアは子爵家の長女。 ある日、父親から 「すまないが、二人のどちらかにウインド公爵家に嫁いでもらう必要がある」 と告げられる。 伯爵家でありながら家は貧しく、父親が事業に失敗してしまった。 その借金返済をウインド公爵家に伯爵家の借金返済を肩代わりしてもらったことから、 伯爵家の姉妹のうちどちらかを公爵家の一人息子、ライアンの嫁にほしいと要求されたのだそうだ。 親に溺愛されるワガママな妹、デイジーが心底嫌がったことから、姉のマリアは必然的に自分が嫁ぐことに決まってしまう。 ライアンは、冷酷と噂されている。 さらには、借金返済の肩代わりをしてもらったことから決まった契約結婚だ。 決して愛されることはないと思っていたのに、なぜか溺愛されて──!? そして、ライアンのマリアへの待遇が羨ましくなった妹のデイジーがライアンに突如アプローチをはじめて──!?

処理中です...