31 / 44
ヴィルに会いたい。
しおりを挟む
アクアが公爵かのわたしの部屋に連れて行ってくれた。
わたしの部屋はまだそのままにしてあった。
あんなひどいことを言って出て行ったのに……
わたしは部屋を出てお父様の執務室へと向かった。使用人たちはわたしの姿に驚いて振り返っていた。
「失礼します」
お父様はわたしの顔を見て仕事の手が止まった。
「クリスティーナ……お帰り」
そう言うとわたしのそばに来て抱きしめてくれた。
「お腹は空いていないか?眠くないか?疲れているんだったらここに座りなさい」
ソファを勧めてわたしを座らせた。
「お父様、我儘言って出て行ったのに……怒ってないのですか?ごめんなさい。帰ってきてしまって」
「違う、ここで幸せにしたいと思っていたのに令嬢たちにはひどいことを言われたのに今度は宰相にまた酷いことをされそうになったんだとヴィルから聞いた。すまなかった守ってあげられなくて」
「お父様、違うの。わたし……みんなの迷惑になっているから、ヴィルがわたしのせいで好きな人と結婚できないと聞いたから……出ていくのが一番いいと思ったの」
「ヴィルに好きな人?結婚?そんな話は聞いたことがないぞ」
「リーゼ様……?」
「はあ?俺がリーゼを好き?」
後ろから聞こえてきたのはヴィーの声だった。
「きゃっ!」思わず振り返って叫んでしまった。
「ヴィー!」
「やっといつものようにヴィーと呼んでくれましたね?」
ヴィーがニコッと笑いわたしの横にどかっと座った。
何だかいつものヴィーじゃない。
「前も言ってましたが、俺はリーゼとの結婚なんて話ありませんから!何でそんな話があるんですか?この前も否定しようとしたのに聞いてくれなかったし」
「だって、わたしのせいで結婚できないって。リーゼ様はずっと待っていたって……そう聞いたから……」
「リーゼと確かに婚約しないかとかなり昔に話は上がった事はあります。だけど俺はすぐに断った。それからそんな話は上がっていない。リーゼが結婚しない理由は知らないけど俺のせいでは決してない」
「わたしが二人の邪魔をしたのではないの?」
「そんなことあるわけがないでしょう!」
「よかった……」
何だか体の力が抜けた。
別に片思いが両思いになったわけではない。
だけどわたしが彼の邪魔をしていないとわかっただけで十分だった。
「そんなことで悩んでいたんですか?」
「だってヴィーの幸せをわたしが奪ってしまったんだったら申し訳ないもの。わたしはヴィーや団長達に守ってもらってばかりだったんだよ?これ以上迷惑かけられないよ」
「迷惑だと思うなら最初から関わったりしない。セリーヌ様が亡くなった時俺は助けることが出来なかった……もちろん最初は幼いクリスティーナ様を守るためだった……」
「あっ、お母様……」
「アニタならもうすぐここに来る」
「ち、違うの、あの、お母様……わたしのお母様は生きていたんです」
「セリーヌ様が⁈」
「アクアが助けていたんです。でも酷い状態でなかなか治らなかったらしくて……治ってからも記憶がなくなっていて思い出したのが最近だったんだけど……向こうではまだ2年しか時が経っていなかったんです」
「生きていたのか……」
ヴィーの初恋の人であるお母様。今のお母様はヴィーよりも3歳年下になっている。
ヴィーが28歳でお母様は25歳……
わたしはヴィーの嬉しそうな顔をただ黙って見つめるしかなかった。
お母様が生きていることはとても嬉しいことなんだもの。リーゼ様との結婚はなくてもヴィーの初恋の人は生きている。
わたしは複雑な気持ちだった。
それからはお父様とお母様に、お母様のことを説明して今たぶん陛下と会っていると思うと告げた。
「セリーヌは大丈夫なの?」
お母様がとても心配そうにしていた。
「陛下はお母様に対して後悔していました。わたしのことも……謝罪はしてくれました。お互い親子として和解をすることはありませんでしたが、話をすることは出来ました。陛下はお母様と向き合うことができると思います」
「………わかったわ」
「アクアがたぶん見守ってくれているはずです。殺されそうになったらすぐに助けるはずです」
“ティーナ、あの男、謝ってた”
ーーだって死んでお母様のところへ行くつもりだったみたいだもの。
「ヴィー……会いたい?」
「うん?セリーヌ様が生きている。それだけで十分だよ、クリスティーナ様が会えたんだろう?よかった、再会できて」
「ありがとう……お母様に会えてよかった……まだ記憶は戻ってないけど…もう会えたから十分よ」
ヴィーがお母様のことよりわたしのことを心配してくれた。その気持ちがとても嬉しかった。
わたしの部屋はまだそのままにしてあった。
あんなひどいことを言って出て行ったのに……
わたしは部屋を出てお父様の執務室へと向かった。使用人たちはわたしの姿に驚いて振り返っていた。
「失礼します」
お父様はわたしの顔を見て仕事の手が止まった。
「クリスティーナ……お帰り」
そう言うとわたしのそばに来て抱きしめてくれた。
「お腹は空いていないか?眠くないか?疲れているんだったらここに座りなさい」
ソファを勧めてわたしを座らせた。
「お父様、我儘言って出て行ったのに……怒ってないのですか?ごめんなさい。帰ってきてしまって」
「違う、ここで幸せにしたいと思っていたのに令嬢たちにはひどいことを言われたのに今度は宰相にまた酷いことをされそうになったんだとヴィルから聞いた。すまなかった守ってあげられなくて」
「お父様、違うの。わたし……みんなの迷惑になっているから、ヴィルがわたしのせいで好きな人と結婚できないと聞いたから……出ていくのが一番いいと思ったの」
「ヴィルに好きな人?結婚?そんな話は聞いたことがないぞ」
「リーゼ様……?」
「はあ?俺がリーゼを好き?」
後ろから聞こえてきたのはヴィーの声だった。
「きゃっ!」思わず振り返って叫んでしまった。
「ヴィー!」
「やっといつものようにヴィーと呼んでくれましたね?」
ヴィーがニコッと笑いわたしの横にどかっと座った。
何だかいつものヴィーじゃない。
「前も言ってましたが、俺はリーゼとの結婚なんて話ありませんから!何でそんな話があるんですか?この前も否定しようとしたのに聞いてくれなかったし」
「だって、わたしのせいで結婚できないって。リーゼ様はずっと待っていたって……そう聞いたから……」
「リーゼと確かに婚約しないかとかなり昔に話は上がった事はあります。だけど俺はすぐに断った。それからそんな話は上がっていない。リーゼが結婚しない理由は知らないけど俺のせいでは決してない」
「わたしが二人の邪魔をしたのではないの?」
「そんなことあるわけがないでしょう!」
「よかった……」
何だか体の力が抜けた。
別に片思いが両思いになったわけではない。
だけどわたしが彼の邪魔をしていないとわかっただけで十分だった。
「そんなことで悩んでいたんですか?」
「だってヴィーの幸せをわたしが奪ってしまったんだったら申し訳ないもの。わたしはヴィーや団長達に守ってもらってばかりだったんだよ?これ以上迷惑かけられないよ」
「迷惑だと思うなら最初から関わったりしない。セリーヌ様が亡くなった時俺は助けることが出来なかった……もちろん最初は幼いクリスティーナ様を守るためだった……」
「あっ、お母様……」
「アニタならもうすぐここに来る」
「ち、違うの、あの、お母様……わたしのお母様は生きていたんです」
「セリーヌ様が⁈」
「アクアが助けていたんです。でも酷い状態でなかなか治らなかったらしくて……治ってからも記憶がなくなっていて思い出したのが最近だったんだけど……向こうではまだ2年しか時が経っていなかったんです」
「生きていたのか……」
ヴィーの初恋の人であるお母様。今のお母様はヴィーよりも3歳年下になっている。
ヴィーが28歳でお母様は25歳……
わたしはヴィーの嬉しそうな顔をただ黙って見つめるしかなかった。
お母様が生きていることはとても嬉しいことなんだもの。リーゼ様との結婚はなくてもヴィーの初恋の人は生きている。
わたしは複雑な気持ちだった。
それからはお父様とお母様に、お母様のことを説明して今たぶん陛下と会っていると思うと告げた。
「セリーヌは大丈夫なの?」
お母様がとても心配そうにしていた。
「陛下はお母様に対して後悔していました。わたしのことも……謝罪はしてくれました。お互い親子として和解をすることはありませんでしたが、話をすることは出来ました。陛下はお母様と向き合うことができると思います」
「………わかったわ」
「アクアがたぶん見守ってくれているはずです。殺されそうになったらすぐに助けるはずです」
“ティーナ、あの男、謝ってた”
ーーだって死んでお母様のところへ行くつもりだったみたいだもの。
「ヴィー……会いたい?」
「うん?セリーヌ様が生きている。それだけで十分だよ、クリスティーナ様が会えたんだろう?よかった、再会できて」
「ありがとう……お母様に会えてよかった……まだ記憶は戻ってないけど…もう会えたから十分よ」
ヴィーがお母様のことよりわたしのことを心配してくれた。その気持ちがとても嬉しかった。
80
お気に入りに追加
1,726
あなたにおすすめの小説
寡黙な貴方は今も彼女を想う
MOMO-tank
恋愛
婚約者以外の女性に夢中になり、婚約者を蔑ろにしたうえ婚約破棄した。
ーーそんな過去を持つ私の旦那様は、今もなお後悔し続け、元婚約者を想っている。
シドニーは王宮で側妃付きの侍女として働く18歳の子爵令嬢。見た目が色っぽいシドニーは文官にしつこくされているところを眼光鋭い年上の騎士に助けられる。その男性とは辺境で騎士として12年、数々の武勲をあげ一代限りの男爵位を授かったクライブ・ノックスだった。二人はこの時を境に会えば挨拶を交わすようになり、いつしか婚約話が持ち上がり結婚する。
言葉少ないながらも彼の優しさに幸せを感じていたある日、クライブの元婚約者で現在は未亡人となった美しく儚げなステラ・コンウォール前伯爵夫人と夜会で再会する。
※設定はゆるいです。
※溺愛タグ追加しました。
[完]僕の前から、君が消えた
小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』
余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。
残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。
そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて……
*ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。
愛しき夫は、男装の姫君と恋仲らしい。
星空 金平糖
恋愛
シエラは、政略結婚で夫婦となった公爵──グレイのことを深く愛していた。
グレイは優しく、とても親しみやすい人柄でその甘いルックスから、結婚してからも数多の女性達と浮名を流していた。
それでもシエラは、グレイが囁いてくれる「私が愛しているのは、あなただけだよ」その言葉を信じ、彼と夫婦であれることに幸福を感じていた。
しかし。ある日。
シエラは、グレイが美貌の少年と親密な様子で、王宮の庭を散策している場面を目撃してしまう。当初はどこかの令息に王宮案内をしているだけだと考えていたシエラだったが、実はその少年が王女─ディアナであると判明する。
聞くところによるとディアナとグレイは昔から想い会っていた。
ディアナはグレイが結婚してからも、健気に男装までしてグレイに会いに来ては逢瀬を重ねているという。
──……私は、ただの邪魔者だったの?
衝撃を受けるシエラは「これ以上、グレイとはいられない」と絶望する……。
【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!
高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。
7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。
だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。
成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。
そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る
【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】
【改稿版・完結】その瞳に魅入られて
おもち。
恋愛
「——君を愛してる」
そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった——
幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。
あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは……
『最初から愛されていなかった』
その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。
私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。
『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』
『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』
でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。
必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。
私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……?
※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。
※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。
※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。
※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
報われない恋の行方〜いつかあなたは私だけを見てくれますか〜
矢野りと
恋愛
『少しだけ私に時間をくれないだろうか……』
彼はいつだって誠実な婚約者だった。
嘘はつかず私に自分の気持ちを打ち明け、学園にいる間だけ想い人のこともその目に映したいと告げた。
『想いを告げることはしない。ただ見ていたいんだ。どうか、許して欲しい』
『……分かりました、ロイド様』
私は彼に恋をしていた。だから、嫌われたくなくて……それを許した。
結婚後、彼は約束通りその瞳に私だけを映してくれ嬉しかった。彼は誠実な夫となり、私は幸せな妻になれた。
なのに、ある日――彼の瞳に映るのはまた二人になっていた……。
※この作品の設定は架空のものです。
※お話の内容があわないは時はそっと閉じてくださいませ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる