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ヴィル編②

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 クリスティーナ様から避けられるようになったのはいつ頃からだろう。

 義兄上の養女となってやっと幸せに暮らせる。

 俺は肩の荷が降りたとホッとする一方、寂しさを感じた。

 ずっと見守り続けてきた可愛らしい姫。

 初恋のセリーヌ様に姿形は似ているのに、全く性格は違った。

 どんなことを周りにされても悔しそうにグッと我慢をしてそれを受け入れ、最後はニコッと笑う。

 我慢ばかり強いているのに、大人の俺たちに気を遣い笑顔でいようとする健気な姫。


 そんなクリスティーナ様に仕えることを誇りに思い過ごしてきた。


 公爵家で甥っ子達とも仲良くなり俺が必要ではなくなることに寂しさを覚えたころ、気がつけばクリスティーナ様は俺を避けるようになっていた。

 特に何かあった訳ではないはず。なのに護衛は俺が選ばれることがなくなった。

 屋敷内で目が合うと以前なら笑いかけてくれたあの笑顔が俺に向けられることは無くなっていた。

 ーー彼女は独り立ちしたんだ。

 そう思うことにして俺は公爵家の騎士として仕事に集中することにした。


 久しぶりの休みの日に幼馴染のリーゼから買い物に付き合って欲しいと頼まれた。

 クリスティーナ様に以前プレゼントした髪飾りを選んでくれたリーゼに付き合えばまた何かクリスティーナ様に合う物を選んでもらえるかもしれないと一緒に買い物に行くことにした。

 クリスティーナ様が近くにいない日々が当たり前になることはなく、寂しさしか感じない。
 ついクリスティーナ様に何かプレゼントすれば以前のような笑顔を見ることが出来るのではと思ってしまった。

 何かと思い出すのはクリスティーナ様と過ごした楽しい日々だった。

 一緒に庭の土をいじったり、字を教えたりもした。ダンスレッスンの時は俺が付き合って下手くそなクリスティーナ様のダンスに笑い合いながら練習をした。

 ちょっとした小物をプレゼントすると花が咲いたような笑顔で嬉しそうにするクリスティーナ様。

 俺のセンスが悪いとリーゼに言われ、クリスティーナ様が喜びそうな物を選んでくれた。

 俺は騎士として過ごしてきた。だから女性の気持ちに対して無頓着だった。まさかリーゼがクリスティーナ様に対して嫌味を言ったり、俺と婚約するはずだったことを言っているとは思わなかった。

 確かに父上にリーゼとの婚約を打診されたことはあった。だがリーゼのことは妹のようにしか思えなかったし、クリスティーナ様を守りたい一心で結婚のことを考える余裕なんてなかった。

 だから断ったのでもう終わっている話だと思っていた。

 騎士仲間から言われるまで。

「ヴィルはクリスティーナ様のお守りも終わったからそろそろリーゼ様と結婚するんだろう?」

「はっ?リーゼと?俺が?」

「何惚けているんだ?ずっとクリスティーナ様の犠牲になって人生を不意にしていたんだ。これからは愛するリーゼ様と幸せになったらいいだろう?」

「俺が犠牲になっていた?なんだその話は?俺はリーゼのことを愛してなどいない、愛しているのはクリ………」

 思わず口を噤んだ。

 俺は今なんと言おうとした?

 慈しみ大切に見守ってきたクリスティーナ様を愛している?

 そんな馬鹿なことが……自分の気持ちに驚きを隠せなかった。





 そしてリーゼとの買い物の時に
「ヴィル、少し休憩しましょう。今人気のパンケーキ屋さんがあるの。行きましょう!」

「わかった、わかった。俺の買い物にも付き合ってもらったしお礼をするよ」

「当たり前よ。わたしの買い物に付き合う話だったのに、途中から結局貴方の大事なお姫様の物を買ったんだもの」

 クリスティーナ様の髪の色に合わせてパールをあしらった銀細工で出来た花柄のブローチを選んだ。

 リーゼが連れて行ってくれた店で選んだ物だった。リーゼが横でアドバイスしてくれたが、一番クリスティーナ様に似合う物を自分のセンスで選んだ。


 そしてそのパンケーキ屋でクリスティーナ様達に偶然会うのだった。






 
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