上 下
16 / 44

想いは本気なのに。

しおりを挟む
 あれから刺繍をしたり本を読んだりと過ごして出来るだけ部屋から出る事はやめた。

 部屋から出ないわたしを心配してジョーンとパトリックが度々部屋を訪れてくれる。

「姉上、体調でも悪いのですか?」

「えっ?違うわよ、わたし元々王城でも部屋で過ごすことが多かったの……もう庭のお手入れもしなくていいし……」

「庭?」

「セリーヌ園……わたしのお母様が愛したお庭なの。ずっと守ってきたんだけど、もうあの場所には戻れないから……」

 “アクアがいつもお水をあげに行ってる”

 ーーありがとうアクア。だけどもうあそこに行くことはできないのよね。


 あの場所にいい思い出はない。
 だけど、お母様の庭は大好きな場所だった、

 怖いことも嫌なこともあったけどヴィーがいつも顔を出してくれて団長さん達が会いに来てくれて楽しい時間もたくさん過ごした。全てが嫌だったわけではない。

 生まれ育った場所はやはり忘れられない落ち着く場所でもある。

 あれからなんとなくヴィーと会うことを避けてしまっている。

 自分の知らないヴィーがいることに戸惑い、リーゼ様に嫉妬している。

 ヴィーが好きなのはわたしの勝手なことなのに、気持ちを押し付けるつもりはないのに、でもやっぱりショックで今は会いたくない。

「姉上がこの部屋にいたいのなら僕もここで勉強するよ」

「えっ?わたしのことは気にしないで」

「せっかく姉弟になったのに、それにあと半月もしたら僕たちはまた隣国へ帰らないといけないんだ。留学中だからね」

「せっかく仲良くなれたのに寂しいわ」

「姉上は学校へ行ったことはあるの?」

「わたしは……王城から出たのは今回が初めてだもの。この前パトリックが街に連れて行ってくれたのが初めてのお買い物だったし……外の世界はわたしにとっては小説の中のお話と変わらなかったの。でも現実はもっと鮮明でとても綺麗なものだったわ。街並みも道も歩く人々もみんな同じに見えても全く違う。人々の顔がね、一人一人違うの。表情も違っててとても楽しかったわ」


「姉上……次は一緒に川遊びに行きましょう」

「川?たくさんのお水が流れているのよね?絵本で子供の頃見たことがあるわ、絵でしか見たことがないから本物ってとても興味があるわ」

 “僕も行く、ティーナと遊ぶ”

 ーーうん一緒に行きましょう

「行ってみたいわ」
 もうヴィーと関わらないようにしようと思っていたくせに外に出たいとつい思ってしまった。

 だから護衛は今回もサムをお願いした。

「どうしたのあれだけヴィルが大好きだったのに」

 お母様にそう言われると、やはりそうなんだろう。自分ではそんなつもりもないのにみんなが知っている。
 でもその好きは恋愛の好きではなくて兄を大好きなブラコン的な感じで見られている気がする。

 わたしの好きは本気の愛しているの好きなのに。
 ヴィーとはあまりにも近くにいすぎて今更感が強くて………それにわたしは16歳でヴィーは28歳。わたしの好きは憧れからだと思われていても仕方がないのよね。

 ヴィーだってわたしのことを大切に思ってくれてはいるけどそれは妹のような気持ちからだとわかっている。









 馬車を走らせること30分。

 川遊びが出来る流れがゆるやかな場所へとやってきた。

「うわぁ冷たい!」裸足になって少しだけ水に足をつけてみた。

 川の水の冷たさに驚いた。

 “ティーナ、川は突然深くなるから気をつけて”

 ーーそうなの?

 “うん、それに突然流れが速くなるところもあるよ”

 ーーなんだか怖いのね?

 “ちゃんと気をつければ大丈夫、僕がいるしね”

 ーーアクアが居てくれるだけで心強いわ。


「姉上!気をつけてくださいね」

「うん、今アクアにも言われたわ」

「アクア様?今も近くにいらっしゃるんですか?」

 ジョーンが目をキラキラさせてわたしの近くを見回した。

「すぐそばにいるわ」

「あーー、全く見えない。一度でいいから会ってみたいのに」

 するとアクアが久しぶりの挨拶をした。

「うわっ」顔に突然水をかけられて驚くジョーン。

「ジョーン驚かせてごめんなさい。アクアがよろしくって挨拶をしたの」

「え?このお水ってアクア様?うわっ、本当に?嬉しいです」

 ジョーンはそれから見えていないので全然違う場所に話しかけているのだがアクアはその姿が気に入ってジョーンの前に行きニコニコしている。

 ーー少しだけヤキモチ。

 わたしってアクアを取られるのも嫌だしヴィーが幼馴染と楽しそうにしているのも嫌なんて我儘過ぎる。


 自分で自分に怒る。

 わたしの世界が広がるのは今まであったものがなくなってしまうものなんだと改めて感じた。

 もうあの離れに戻れない。

 時が経てばこの胸の痛みも無くなるのだろうか……






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

[完]僕の前から、君が消えた

小葉石
恋愛
『あなたの残りの時間、全てください』 余命宣告を受けた僕に殊勝にもそんな事を言っていた彼女が突然消えた…それは事故で一瞬で終わってしまったと後から聞いた。 残りの人生彼女とはどう向き合おうかと、悩みに悩んでいた僕にとっては彼女が消えた事実さえ上手く処理出来ないでいる。  そんな彼女が、僕を迎えにくるなんて…… *ホラーではありません。現代が舞台ですが、ファンタジー色強めだと思います。

【改稿版・完結】その瞳に魅入られて

おもち。
恋愛
「——君を愛してる」 そう悲鳴にも似た心からの叫びは、婚約者である私に向けたものではない。私の従姉妹へ向けられたものだった—— 幼い頃に交わした婚約だったけれど私は彼を愛してたし、彼に愛されていると思っていた。 あの日、二人の胸を引き裂くような思いを聞くまでは…… 『最初から愛されていなかった』 その事実に心が悲鳴を上げ、目の前が真っ白になった。 私は愛し合っている二人を引き裂く『邪魔者』でしかないのだと、その光景を見ながらひたすら現実を受け入れるしかなかった。  『このまま婚姻を結んでも、私は一生愛されない』  『私も一度でいいから、あんな風に愛されたい』 でも貴族令嬢である立場が、父が、それを許してはくれない。 必死で気持ちに蓋をして、淡々と日々を過ごしていたある日。偶然見つけた一冊の本によって、私の運命は大きく変わっていくのだった。 私も、貴方達のように自分の幸せを求めても許されますか……? ※後半、壊れてる人が登場します。苦手な方はご注意下さい。 ※このお話は私独自の設定もあります、ご了承ください。ご都合主義な場面も多々あるかと思います。 ※『幸せは人それぞれ』と、いうような作品になっています。苦手な方はご注意下さい。 ※こちらの作品は小説家になろう様でも掲載しています。

傷物にされた私は幸せを掴む

コトミ
恋愛
エミリア・フィナリーは子爵家の二人姉妹の姉で、妹のために我慢していた。両親は真面目でおとなしいエミリアよりも、明るくて可愛い双子の妹である次女のミアを溺愛していた。そんな中でもエミリアは長女のために子爵家の婿取りをしなくてはいけなかったために、同じく子爵家の次男との婚約が決まっていた。その子爵家の次男はルイと言い、エミリアにはとても優しくしていた。顔も良くて、エミリアは少し自慢に思っていた。エミリアが十七になり、結婚も近くなってきた冬の日に事件が起き、大きな傷を負う事になる。 (ここまで読んでいただきありがとうございます。妹ざまあ、展開です。本編も読んでいただけると嬉しいです)

愛する旦那様が妻(わたし)の嫁ぎ先を探しています。でも、離縁なんてしてあげません。

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
【清い関係のまま結婚して十年……彼は私を別の男へと引き渡す】 幼い頃、大国の国王へ献上品として連れて来られリゼット。だが余りに幼く扱いに困った国王は末の弟のクロヴィスに下賜した。その為、王弟クロヴィスと結婚をする事になったリゼット。歳の差が9歳とあり、旦那のクロヴィスとは夫婦と言うよりは歳の離れた仲の良い兄妹の様に過ごして来た。 そんな中、結婚から10年が経ちリゼットが15歳という結婚適齢期に差し掛かると、クロヴィスはリゼットの嫁ぎ先を探し始めた。すると社交界は、その噂で持ちきりとなり必然的にリゼットの耳にも入る事となった。噂を聞いたリゼットはショックを受ける。 クロヴィスはリゼットの幸せの為だと話すが、リゼットは大好きなクロヴィスと離れたくなくて……。

殿下が好きなのは私だった

恋愛
魔王の補佐官を父に持つリシェルは、長年の婚約者であり片思いの相手ノアールから婚約破棄を告げられた。 理由は、彼の恋人の方が次期魔王たる自分の妻に相応しい魔力の持ち主だからだそう。 最初は仲が良かったのに、次第に彼に嫌われていったせいでリシェルは疲れていた。無様な姿を晒すくらいなら、晴れ晴れとした姿で婚約破棄を受け入れた。 のだが……婚約破棄をしたノアールは何故かリシェルに執着をし出して……。 更に、人間界には父の友人らしい天使?もいた……。 ※カクヨムさん・なろうさんにも公開しております。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

報われない恋にサヨナラするプロセス

キムラましゅろう
恋愛
アデリオール王国魔法省に勤める東方人のまほらはその日、長年後生大事に抱えてきた恋心を棄てることにした。 初恋の相手ブレイズ。彼にとって自分はどこまでも幼馴染でしかない事を悟り、その報われる事のない想いと決別する事にしたのだ。 そのために必要なプロセスを、まほらは順に辿ってゆく。 そしてそんなまほらが急に気になり出したブレイズと、転属して初めてのバディとなったハウンドと、二人の男性の間で揺れに揺れ……るわけでもなく、前向きに生きようとするそんなまほらの物語。 ※メインの投稿時間は毎日19時20分ですがたまに不定期な時間でのゲリラ更新もアリそうです。 どうかご承知おきくださいませ。 いつもながらの完全ご都合主義。 ノーリアリティノークオリティノーリターンなお話です。 誤字脱字が点在します(断言)菩薩の如き広いお心でお読み頂けますと幸いです。 R15作品ですが、ギリギリラインのエチなワードが出てくる可能性があります。 苦手な方はご自衛のほどよろしくお願い申し上げます。 小説家になろうさんにも時差投稿します。

【完結】愛しい人、妹が好きなら私は身を引きます。

王冠
恋愛
幼馴染のリュダールと八年前に婚約したティアラ。 友達の延長線だと思っていたけど、それは恋に変化した。 仲睦まじく過ごし、未来を描いて日々幸せに暮らしていた矢先、リュダールと妹のアリーシャの密会現場を発見してしまい…。 書きながらなので、亀更新です。 どうにか完結に持って行きたい。 ゆるふわ設定につき、我慢がならない場合はそっとページをお閉じ下さい。

処理中です...