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新しい生活。
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「ヴィー、ここは?」
「俺が話していたジェラール・トレント公爵家の屋敷。そして俺の姉上の嫁ぎ先で君の母のセリーヌ様と姉上は幼馴染なんだ」
「え……知らなかった」
「うん、ごめんね。言ってなかったんだ」
「どうして?」
「君は母親の話をしたがらなかっただろう?」
「うん、そう…だね。思い出したくてもぼんやりしか覚えていないの。思い出そうとすると頭が痛くなっちゃうし」
「うん、だけどここに住むとなると一応伝えておかないともし他の人にそんな話を聞いたら驚くだろう?」
「あの……じゃあヴィーもお母様とは幼馴染なの?」
「俺は5歳も年下だったから幼馴染だけど、あんまり遊んだと言う記憶はないんだ。ただ……遠くから姉上とセリーヌ様が楽しそうにお茶をして話す姿を見ていたかな。ま、たまには本を読んでもらったりしたけどね」
「わたしの知らないヴィーがそこにいるのね?」
不思議な気分だった。
わたしはずっとヴィーといたつもりだった。
だけどヴィーにはヴィーの世界があるんだ。
少し……ううん、かなり寂しいけど、わたしもこれからあの『離れ』以外の世界を知ることになるのだもの。そこには新しいヴィーとの生活もあるのよね。
“ティーナ、すごい顔してるぞ”
ーーどんな顔?
“眉がぐっと寄って怖い顔”
ーーえ?緊張しているのよ。
「中に入ろう」
馬を使用人に預けてわたしとヴィーは大きなお屋敷に入った。
中には沢山の人がわたしとヴィーを迎えてくれた。
いつも好奇の目と悪意の目に慣れすぎて、こんな温かい空気の中にいるのは初めてだ。
「ヴィー、いいのかな?なんだか怖いよ。みんなが優しいよ」
「クリスティーナ様、これが普通なんです。今までが異常だったんです」
そう言って温かい屋敷の中に招き入れてくれた。
「さぁ行きましょう」
ヴィーの差し出された手がとても暖かくて何も怖くなんてない。そう思えた。
大きな客間に入るとそこには顔見知りの人が座っていた。
「ローズ夫人?」
「クリスティーナ様、まずは?」
「あ、申し訳ありません」
わたしは姿勢を正してカーテシーをした。
「わたくしクリスティーナ・アルディスと申します」
「わたくしはアニタ・トレントと申します。今まで本当の名前をお伝え出来なくて申し訳ございませんでした」
「ううん、ローズ夫人がずっと見守ってくださっていたんですね?ありがとうございました」
“僕もお礼を言おうっと”
ーーえ?
アクアはローズ夫人に目掛けて水をかけた。
「きゃっ」
「ごめんなさい、アクア、それはお礼とは言えないの!」
“え?でも僕たちの中では挨拶だよ?”
「ここにアクア様が居るの?」
「はい、アクアはローズ夫人にお礼を言ったつもりなんです」
「アクア様、人間の世界では水をかけることはお礼とは言えないのよ?でもわたくしも貴方にお礼を言いたかったの」
“なになに?”
「クリスティーナ様をずっと見守って助けてくれてありがとうございました。そしてこの国に水の恵みを与えて頂きありがとうございます」
“へぇこんなお礼を言われたの初めてだな。ティーナ、この人意地悪だと思ってたけどいい人かも”
ーーアクアって単純ね。
「アクア様は……」わたしが何もない宙を見ているとローズ夫人が心配そうに聞いてきた。
「あ……アクアがローズ夫人のこと…いい人だねって言ってます」
「そう……ありがとうございます。アクア様これからはわたくしと夫もクリスティーナ様を共に見守り共に助けたいと思っております」
アクアはローズ夫人の前にふわふわと飛んでくるくる回った。
“わかった”
「姉上、義兄上はまだ仕事ですか?」
「ええ、陛下との話が難航しているのかもしれないわね」
「部屋は用意できてる?」
「もちろんよ、いつでも迎えられるようにしてあるわ」
「じゃあ、連れて行っていい?」
「貴方が?クリスティーナ様付きの侍女に案内させるわ」
「クリスティーナ様は今まであまり人と接してきていないんだ。このたくさんの人の中で慣れていない場所に突然一人にさせられたらどんな風になるかわからない」
「ほんと過保護ね、わかったわ。じゃあサラ、ヴィルと一緒に部屋へ案内してちょうだい」
わたしより年上の優しそうな印象の人。
「クリスティーナ様、サラと申します。これからお世話をさせていただきますのでよろしくお願い致します」
「サラ、よろしくお願いいたします」
わたしが微笑んで頭を下げて挨拶をすると
「あ、あの、わたしに丁寧な言葉はおやめください」と体を小さくして青い顔をした。
「丁寧?」
「クリスティーナ様、君はここでは主人になるんだ。だから使用人に対して丁寧な言葉を使うと使用人の方が困ってしまうんだよ」
「困ってしまうの?そう……サラごめんなさいね?じゃあよろしく?でいいのかしら」
「少しずつ覚えて行きましょう」
ヴィーがフッと笑った。
「わかったわ、ねえヴィー、こんな広い屋敷に住んだらわたし迷子になりそうだわ」
「大丈夫ですよ、部屋を出る時はサラや他の使用人が常に付いてくれるから、迷子にはならないですよ」
「そう良かったわ」
案内されたわたしの部屋は、本で読んで「こんな部屋素敵ね」と言ったことがあった部屋のようだった。
真っ白い壁紙、白のテーブルと椅子、机もあって大きなベッドもある。
クローゼットにはびっくりするくらいのドレスが掛かっていた。
レースのカーテンに大きな窓。
窓からは沢山の陽が入りとても居心地が良さそう。
だけど………
「どうしたんだい?」
「こんな広い部屋、わたしには贅沢だわ」
「クリスティーナ様はもうすぐ公爵令嬢になるんです。贅沢だなんて誰も思わない。後で君の弟になる二人も紹介しますね」
「弟?二人?」
その言葉に体が震え出した。
「や、やだ。お家に帰る、ヴィー、わたしお家に帰りたい」
「あんな奴ら弟なんかじゃありません。ここにいる二人はあんな奴らと同じではないんです。
クリスティーナ様、今から貴女が暮らす世界はもっと辛いこともあります。でもそれ以上に幸せなことの方が多いんです。そして今からは貴女を守ってくれる人も沢山います。一人ではないんです」
ヴィーが優しく手を握ってくれた。
「一人ではない………」
“僕はずっと一緒にいるよ”
ーーうん、ありがとう
「そうだよね、会ってもいないのに怖がったらダメだよね?」
わたしはやっとあの城から逃げ出したばかり。
これからどんな風に暮らしていくのか本当は怖くて仕方がなかった。
「俺が話していたジェラール・トレント公爵家の屋敷。そして俺の姉上の嫁ぎ先で君の母のセリーヌ様と姉上は幼馴染なんだ」
「え……知らなかった」
「うん、ごめんね。言ってなかったんだ」
「どうして?」
「君は母親の話をしたがらなかっただろう?」
「うん、そう…だね。思い出したくてもぼんやりしか覚えていないの。思い出そうとすると頭が痛くなっちゃうし」
「うん、だけどここに住むとなると一応伝えておかないともし他の人にそんな話を聞いたら驚くだろう?」
「あの……じゃあヴィーもお母様とは幼馴染なの?」
「俺は5歳も年下だったから幼馴染だけど、あんまり遊んだと言う記憶はないんだ。ただ……遠くから姉上とセリーヌ様が楽しそうにお茶をして話す姿を見ていたかな。ま、たまには本を読んでもらったりしたけどね」
「わたしの知らないヴィーがそこにいるのね?」
不思議な気分だった。
わたしはずっとヴィーといたつもりだった。
だけどヴィーにはヴィーの世界があるんだ。
少し……ううん、かなり寂しいけど、わたしもこれからあの『離れ』以外の世界を知ることになるのだもの。そこには新しいヴィーとの生活もあるのよね。
“ティーナ、すごい顔してるぞ”
ーーどんな顔?
“眉がぐっと寄って怖い顔”
ーーえ?緊張しているのよ。
「中に入ろう」
馬を使用人に預けてわたしとヴィーは大きなお屋敷に入った。
中には沢山の人がわたしとヴィーを迎えてくれた。
いつも好奇の目と悪意の目に慣れすぎて、こんな温かい空気の中にいるのは初めてだ。
「ヴィー、いいのかな?なんだか怖いよ。みんなが優しいよ」
「クリスティーナ様、これが普通なんです。今までが異常だったんです」
そう言って温かい屋敷の中に招き入れてくれた。
「さぁ行きましょう」
ヴィーの差し出された手がとても暖かくて何も怖くなんてない。そう思えた。
大きな客間に入るとそこには顔見知りの人が座っていた。
「ローズ夫人?」
「クリスティーナ様、まずは?」
「あ、申し訳ありません」
わたしは姿勢を正してカーテシーをした。
「わたくしクリスティーナ・アルディスと申します」
「わたくしはアニタ・トレントと申します。今まで本当の名前をお伝え出来なくて申し訳ございませんでした」
「ううん、ローズ夫人がずっと見守ってくださっていたんですね?ありがとうございました」
“僕もお礼を言おうっと”
ーーえ?
アクアはローズ夫人に目掛けて水をかけた。
「きゃっ」
「ごめんなさい、アクア、それはお礼とは言えないの!」
“え?でも僕たちの中では挨拶だよ?”
「ここにアクア様が居るの?」
「はい、アクアはローズ夫人にお礼を言ったつもりなんです」
「アクア様、人間の世界では水をかけることはお礼とは言えないのよ?でもわたくしも貴方にお礼を言いたかったの」
“なになに?”
「クリスティーナ様をずっと見守って助けてくれてありがとうございました。そしてこの国に水の恵みを与えて頂きありがとうございます」
“へぇこんなお礼を言われたの初めてだな。ティーナ、この人意地悪だと思ってたけどいい人かも”
ーーアクアって単純ね。
「アクア様は……」わたしが何もない宙を見ているとローズ夫人が心配そうに聞いてきた。
「あ……アクアがローズ夫人のこと…いい人だねって言ってます」
「そう……ありがとうございます。アクア様これからはわたくしと夫もクリスティーナ様を共に見守り共に助けたいと思っております」
アクアはローズ夫人の前にふわふわと飛んでくるくる回った。
“わかった”
「姉上、義兄上はまだ仕事ですか?」
「ええ、陛下との話が難航しているのかもしれないわね」
「部屋は用意できてる?」
「もちろんよ、いつでも迎えられるようにしてあるわ」
「じゃあ、連れて行っていい?」
「貴方が?クリスティーナ様付きの侍女に案内させるわ」
「クリスティーナ様は今まであまり人と接してきていないんだ。このたくさんの人の中で慣れていない場所に突然一人にさせられたらどんな風になるかわからない」
「ほんと過保護ね、わかったわ。じゃあサラ、ヴィルと一緒に部屋へ案内してちょうだい」
わたしより年上の優しそうな印象の人。
「クリスティーナ様、サラと申します。これからお世話をさせていただきますのでよろしくお願い致します」
「サラ、よろしくお願いいたします」
わたしが微笑んで頭を下げて挨拶をすると
「あ、あの、わたしに丁寧な言葉はおやめください」と体を小さくして青い顔をした。
「丁寧?」
「クリスティーナ様、君はここでは主人になるんだ。だから使用人に対して丁寧な言葉を使うと使用人の方が困ってしまうんだよ」
「困ってしまうの?そう……サラごめんなさいね?じゃあよろしく?でいいのかしら」
「少しずつ覚えて行きましょう」
ヴィーがフッと笑った。
「わかったわ、ねえヴィー、こんな広い屋敷に住んだらわたし迷子になりそうだわ」
「大丈夫ですよ、部屋を出る時はサラや他の使用人が常に付いてくれるから、迷子にはならないですよ」
「そう良かったわ」
案内されたわたしの部屋は、本で読んで「こんな部屋素敵ね」と言ったことがあった部屋のようだった。
真っ白い壁紙、白のテーブルと椅子、机もあって大きなベッドもある。
クローゼットにはびっくりするくらいのドレスが掛かっていた。
レースのカーテンに大きな窓。
窓からは沢山の陽が入りとても居心地が良さそう。
だけど………
「どうしたんだい?」
「こんな広い部屋、わたしには贅沢だわ」
「クリスティーナ様はもうすぐ公爵令嬢になるんです。贅沢だなんて誰も思わない。後で君の弟になる二人も紹介しますね」
「弟?二人?」
その言葉に体が震え出した。
「や、やだ。お家に帰る、ヴィー、わたしお家に帰りたい」
「あんな奴ら弟なんかじゃありません。ここにいる二人はあんな奴らと同じではないんです。
クリスティーナ様、今から貴女が暮らす世界はもっと辛いこともあります。でもそれ以上に幸せなことの方が多いんです。そして今からは貴女を守ってくれる人も沢山います。一人ではないんです」
ヴィーが優しく手を握ってくれた。
「一人ではない………」
“僕はずっと一緒にいるよ”
ーーうん、ありがとう
「そうだよね、会ってもいないのに怖がったらダメだよね?」
わたしはやっとあの城から逃げ出したばかり。
これからどんな風に暮らしていくのか本当は怖くて仕方がなかった。
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