種子生成で変わる世界

そごね

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始まりのじゃがいも

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「はい。次の人。お名前と死因を述べてください」

「識 慈樹です。死因は男に刺されて死にました。」

「可哀想に…。痛かった?」

「はい。何度も何度も何度も刺されて痛くて苦しくて早く死にたかったです。」

「本当、可哀想に…。次の人生ではあなたにやって頂きたい事がありますので…」

「なるほど。わかりました。なんでしょうか?」

「あなたには食の改革をしてもらいます。」

「食の改革?」

「はい。転生していただく世界ではほとんどお肉と魚しか食べられていません。そこで貴方に、『種子生成』と『祝福』というスキルを与えますので前世の知識を存分に使って、種子をばらまいてください。」

「できるか不安ですが、善処します。」

「あなたに太陽神の光があるんことを…」


 そう言って送り出されて、はや100年。
 エルフの村は実に不便もなく100年もたってしまった。
 エルフは基本寿命がない。
 ということで食べるものなんてなんでもいいのだ。
 生きるだけで食べるものは肉か魚。
 不便はしていない。


「ジュキ!」

「はい。」

「狩りに行きなさい!」

「はーい。」


 ひとつ思うのはこのまま肉と魚が取れなくなってしまったら…私たちはどうするのだろうか?
 母から受け取った弓を見つめてそう思う。


「最近は山が痩せて食料が取りにくいって聞くからね…」

「植物は食べないの?」

「食べないんじゃないよ。食べれないんだ。」

「なんで?」

「毒があったり硬かったり…食べれるものがないんだよ。」

「もしこのままお肉が取れなくなったらどうするの?」

「それは自然の摂理として受け入れるしかないだろうね。」


 初めて母にこういう質問をした。
 実のところ、母の事は大好きだ。
 父も大好きで、兄弟たちも大好きだ。
 私はこの村も大好きだ。
 この世界に来てから、この村の事しか知らないが、人はいい人たちが多い。
 植物を食べることに偏見を持たないエルフも多いことがわかるので、私は種子生成で野菜を作ることにした。


「そんなのおかしい!ママ!庭借りる!」

「ええっ?!」


 私が野菜と聞いて、最初に思い浮かべたものはじゃがいもだ。
 保存も効くし、いろいろな料理に使える。
 畑が痩せててもよく育つ芋類が優先だろう。


 手を合わせて目をつむりじゃがいもを思い浮かべて「種子生成」と発すると、手の中からじゃがいもの種芋が出現した。
 魔力はあまり使わないみたいだけれど「祝福」でどれだけ使うかわからない。
 とりあえず10個ほど種芋を作り、適当に耕した庭に植えてみる。
 指を組み「祝福」と口にすると、庭が金色に輝いているのがわかる。
 母は不思議な顔して見ていたが、父は面白そうに笑っていた。
 私は昔から不思議な子とエルフの間で言われていた。
 今更何も思う事は無い。

 次の日の朝になってみれば緑がおいしげり、昼になれば葉っぱが黄色くなっていた。
 じゃがいもが次の日に収穫できるなんて、祝福はすごい能力なのかもしれない。
 ちょっと疲れるけど。
 掘り起こしてみたら、不作ということはなく、何なら豊作な勢いだ。
 1つの前に10から15ほどの拳大のジャガイモがなっていた。


「ジュキこれは食べれるのかい」

「普通なら2、3ヶ月冷暗所で保存してから食べるんだけど、今食べればしっとりしていておいしいよ。」


 父と母は目を丸く驚かせていた。
 不思議なこと言われていた私が不思議な力で作物を作るなんて思いもしなかったのだろう。
 嫁の貰いてもいないと言われていた私が野菜を作れるなんて思ってもいなかったんだろうな。


「早速蒸して食べてみようか」



 私は鍋に水を張り濡らしたザルを鍋と蓋の間に噛ませてザルの上に洗ったじゃがいもをこんもりと乗せて蓋をして強火で蒸す。
 蒸し上がりにはじゃがいものとても良い香りがあたりに漂う。
 家族だけではなく、他のエルフも様子を見に来ていた。


「分けるほどあるから、みんなも食べなよ」


 植物は食べれると言う感覚は、エルフたちにはないが、とても良い匂いがするので、みんな集まってきてしまったのだろう。
 私がひと口食べるのを見てから、他のエルフたちも食べ始め、1人が「うまい」と言うと、そこから争奪戦の始まりだ。
 塩をかけてもうまいし、エルフに伝わる魚の調味料をかけてもうまい。
 今まで食べた時もない食感に味どちらも新鮮だっただろう。


「ジュキはすごいな…こんなことを考えていたのか?」

「そう、こんなことを考えていたの私。変な子でしょ?」

「長老様に報告だ!」


 長老様に報告した後、長老様は私を拒むのではなく受け入れ、畑を大きくすることをお願いされたので軽く了承した。
 人でも借りて畑を大きくして、明日は何を作ろうかなと思いを馳せながら種芋を作る。
 
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