番犬と十七夜

司書Y

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「おい。葉」

 その蹴りで、男に纏わりついていた靄が消し飛ぶ。驚いて声も出せずにされるままになっていると、いきなり声をかけられる。

「はい」

 思わずそう答えていた。

「こいつに教えてやれ。お前は、誰のもんだ?」

 葉を抱え上げたまま、下から、貴志狼の瞳が見上げてくる。強くて真摯な瞳。それだけで、葉の不安なんて全部吹き飛ばしてくれるような力がある。

「貴志狼。僕は全部。貴志狼のだよ」

 だから、その目を見返して、葉は言った。
 葉の言葉に、ふ。と、貴志狼が微笑む。満足そうだ。
 それから、『ドヤぁ』と、言う顔で男を睨みつけた。ちらり。と、一瞬だけ、晴興の方を見ることも、もちろん、忘れてはいない。晴興の方は、もう勝手にしろ。と言う顔だ。

「……うそだ」

 ふらふら。と、身体を起こした男が葉の方に手を伸ばす。

「君が、どう思っていてもしらないけどね」

 その手と貴志狼の間に割り込んだのは晴興だった。

「君のしていることは犯罪行為だ。葉さんは迷惑している。これ以上続けるなら、法的手段に訴えるよ?」

 晴興は落ち着きを払って、けれど、冷たく言い放つ。

「少し調べさせてもらったけれど、お父さんは会社を経営されているらしいね。ご迷惑がかかるようなことなったら、困るのは君だけれど、いいのかな?」

 葉に向けるのとは質の違う冷徹な笑顔。こんな顔をする人だったのか。と、ぞっとする。

「まあ、とにかく。今の会話は録音してあるし、少しお話しようか」

 そう言って、晴興が男の背中に手を置く。
 そうして、男は晴興と、貴志狼が連れてきた強面のお兄さんに連行されていった。もちろん、彼が送りつけてきた汚物たちも一緒に持って帰ってもらったのは言うまでもない。
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