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差出人S
朝の風景 4
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「心配しないで。大丈夫」
塵取りで集めたものをビニール袋に入れる。便せんや封筒に入っていた分もまとめてその中に落として、葉は便せんを広げた。
便せんにはびっしりと文字が書き込まれていた。パソコンで書いて印刷したものだ。B5の用紙で5枚。
内容は昨日の葉の行動+その行動を見た感想。それから、どれくらい自分が葉を思っているかという主張。
それをまるで、葉の近くにいたかのように日記風に書いているのだ。
一緒に朝寝坊して葉が作った朝食を食べたとか。葉が自分のためだけに甘いお菓子を作ってくれたとか。足が痛いという葉のために掃除をしてやったとか。ありがとう。と笑う葉が可愛かったとか。そんな日常的なことから、いつも、いってらっしゃい。と、キスをくれるとか。好きだというと照れる表情がカワイイとか。貴志狼以外にはしたことがないようなこと。その上、店のバックヤードでお客さんがいるのに身体を触ってイかせたとか。続きは夜に葉が強請ったから、気を失うまで抱き潰したとか。ありえない妄想まで、詳細に書き込まれていた。特に、情事の部分を濃厚に。
内容はもちろん、殆どでたらめだ。
ただ、行動に関しては、合っている部分も多い。朝、起きた時間。店に出た時間。カフェを開店した時間。外出した時間。夜寝る時間。近くにいて見ていたなら知ることができるようなタイムスケジュールは概ね合ってはいる。
それはつまり、これを書いた人物が極近くにいて葉を見ているということだ。
「こういうの。ストーカーとかっていうのかな」
以前、鈴に付きまとっていた女の子が店のポストに毎日のように入れていた手紙を思い出す。似たような内容のものがあった。
ただ、鈴の時は女子だった。ぱっと見は可愛い女子高生。けれど、これを入れている相手は完全に男だ。
鈴の時と同じように毎日送られてくる手紙の中に使用済みのティッシュが入っていた時があった。ゴムに入った精液が送られてきたこともある。葉の写真の隠し撮りをコラージュした厭らしい写真や、寄り添った貴志狼の顔部分をめちゃめちゃに切り裂いた写真も送られてきた。
送り主が女子高生なら、最悪逆上されても葉でも何とか対処できる。呪いなんて方面に走ってくれれば、専門分野の葉にとってはありがたいくらいだ。
ただ、相手が男では身体が自由にならない葉にはどうにもできないかもしれない。走ることができない葉には、逃げることすら怪しいのだ。
「にゃあん」
小さく鳴いて、三匹がすり寄ってくる。心配してくれているのだとわかる。
「あ。うん。でもね。シロに迷惑がかかるとやだから」
届いた手紙は気持ちが悪いけれど、全て保管してある。ただ、それは警察に相談するときに必要だから。と、思ったわけではない。警察に相談なんかしたら、少なくともしばらくは貴志狼がここに来れなくなってしまうかもしれないからだ。
かといって、貴志狼に相談するのも躊躇してしまう。葉が好き過ぎる貴志狼が相手にどんな報復をするか分からないからだ。
高校時代。葉に思いを寄せた大学生が、数か月付きまとった挙句、一人で歩いているときに拉致されかけたことがある。貴志狼が気付いて助けてくれなかったら、どうなっていたか分からない。その時、相手をボッコボコにした貴志狼は危うく青少年厚生施設に入れられかけた。
もし、またそんなことがあったら困る。
葉にとっては貴志狼といられなくなることが何よりも嫌なのだ。
「大丈夫」
押し入れから、黒塗りの箱を出してさっきの汚物と手紙をその中にしまう。送られてきたものは全てのその中に封印していた。もちろん、貴志狼には話していない。
「最近は殆ど毎日シロがこっちにいてくれるから」
それでも、貴志狼は何かを感じているのか、以前は数日おきに泊まっていた葉の家にまるで同棲しているように毎日『勝ってくる』ようになった。ただ、貴志狼は『ただいま』とは、言わない。あくまで、『邪魔するぞ』なのだ。どんなふうに思っているのか、想像でしか分からないが、貴志狼の性格からしたら、恋人を自分の家で養うならともかく、恋人の家に転がり込むなんて、プライドが許さないのかもしれない。ただ、それでも、貴志狼が名前を呼んでくれると、こんな嫌な気持ちも忘れられた。
塵取りで集めたものをビニール袋に入れる。便せんや封筒に入っていた分もまとめてその中に落として、葉は便せんを広げた。
便せんにはびっしりと文字が書き込まれていた。パソコンで書いて印刷したものだ。B5の用紙で5枚。
内容は昨日の葉の行動+その行動を見た感想。それから、どれくらい自分が葉を思っているかという主張。
それをまるで、葉の近くにいたかのように日記風に書いているのだ。
一緒に朝寝坊して葉が作った朝食を食べたとか。葉が自分のためだけに甘いお菓子を作ってくれたとか。足が痛いという葉のために掃除をしてやったとか。ありがとう。と笑う葉が可愛かったとか。そんな日常的なことから、いつも、いってらっしゃい。と、キスをくれるとか。好きだというと照れる表情がカワイイとか。貴志狼以外にはしたことがないようなこと。その上、店のバックヤードでお客さんがいるのに身体を触ってイかせたとか。続きは夜に葉が強請ったから、気を失うまで抱き潰したとか。ありえない妄想まで、詳細に書き込まれていた。特に、情事の部分を濃厚に。
内容はもちろん、殆どでたらめだ。
ただ、行動に関しては、合っている部分も多い。朝、起きた時間。店に出た時間。カフェを開店した時間。外出した時間。夜寝る時間。近くにいて見ていたなら知ることができるようなタイムスケジュールは概ね合ってはいる。
それはつまり、これを書いた人物が極近くにいて葉を見ているということだ。
「こういうの。ストーカーとかっていうのかな」
以前、鈴に付きまとっていた女の子が店のポストに毎日のように入れていた手紙を思い出す。似たような内容のものがあった。
ただ、鈴の時は女子だった。ぱっと見は可愛い女子高生。けれど、これを入れている相手は完全に男だ。
鈴の時と同じように毎日送られてくる手紙の中に使用済みのティッシュが入っていた時があった。ゴムに入った精液が送られてきたこともある。葉の写真の隠し撮りをコラージュした厭らしい写真や、寄り添った貴志狼の顔部分をめちゃめちゃに切り裂いた写真も送られてきた。
送り主が女子高生なら、最悪逆上されても葉でも何とか対処できる。呪いなんて方面に走ってくれれば、専門分野の葉にとってはありがたいくらいだ。
ただ、相手が男では身体が自由にならない葉にはどうにもできないかもしれない。走ることができない葉には、逃げることすら怪しいのだ。
「にゃあん」
小さく鳴いて、三匹がすり寄ってくる。心配してくれているのだとわかる。
「あ。うん。でもね。シロに迷惑がかかるとやだから」
届いた手紙は気持ちが悪いけれど、全て保管してある。ただ、それは警察に相談するときに必要だから。と、思ったわけではない。警察に相談なんかしたら、少なくともしばらくは貴志狼がここに来れなくなってしまうかもしれないからだ。
かといって、貴志狼に相談するのも躊躇してしまう。葉が好き過ぎる貴志狼が相手にどんな報復をするか分からないからだ。
高校時代。葉に思いを寄せた大学生が、数か月付きまとった挙句、一人で歩いているときに拉致されかけたことがある。貴志狼が気付いて助けてくれなかったら、どうなっていたか分からない。その時、相手をボッコボコにした貴志狼は危うく青少年厚生施設に入れられかけた。
もし、またそんなことがあったら困る。
葉にとっては貴志狼といられなくなることが何よりも嫌なのだ。
「大丈夫」
押し入れから、黒塗りの箱を出してさっきの汚物と手紙をその中にしまう。送られてきたものは全てのその中に封印していた。もちろん、貴志狼には話していない。
「最近は殆ど毎日シロがこっちにいてくれるから」
それでも、貴志狼は何かを感じているのか、以前は数日おきに泊まっていた葉の家にまるで同棲しているように毎日『勝ってくる』ようになった。ただ、貴志狼は『ただいま』とは、言わない。あくまで、『邪魔するぞ』なのだ。どんなふうに思っているのか、想像でしか分からないが、貴志狼の性格からしたら、恋人を自分の家で養うならともかく、恋人の家に転がり込むなんて、プライドが許さないのかもしれない。ただ、それでも、貴志狼が名前を呼んでくれると、こんな嫌な気持ちも忘れられた。
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