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告。新入生諸君
後日談 後編 4
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「ほらほら。燈ちゃんもお礼して!」
そう言って、雫は今度は燈の両手を握って、丸山の手の上に重ねた。そして、無理矢理握らせてくる。
「……っす。ありがとうございました?」
言われるままに燈は礼を言った。確かに丸山のアドバイスは的を射ていたし、口は悪いけれど、彼なりのフォローもしてくれていた。燈を燈として見てくれているのも分かった。
「……お……おう」
なのに。途端に丸山は歯切れが悪くなった。近くなった燈から遠ざかるように身を逸らす。
もしかしたら、男に手を握られて気持ちが悪いんだろうか。
と、思うけれど、手を離そうとはしない。それに、仄かに顔が赤い気がする。いや、ただの気のせいだろう。顔色が悪い姿ばかりを見ていたから、健康的な顔を見てそんなふうに感じるのだ。
「あの。これからもアドバイスお願いしてもいいっすか?」
何にせよ、彼が指導にも向いているのは確かだ。きっと、小華はそれも見越して『勧誘』したのだろう。だから、燈もこの機に乗じてお願いすることにした。離すのも変な感じがしたので、反対にぎゅ。と、手を握り直して言うと、丸山は戸惑ったような表情に変わった。
「ダメですか?」
スレイヤー試験に受かるために今は、藁にでも縋りたい。そして、丸山は藁よりもずっと燈たちの力になってくれると確信できる。
燈のお願いに、何故かごくり。と、生唾を飲んでから、丸山はこくこく。と、頷いた。
「あ。落ちたな」
くるり。と、PCの方に向き直って、宙が呟いた。呟きの意味が分からずに燈は首を傾げる。丸山はその言葉にはっとして、燈の手を離した。それから、ぎ。と、宙を睨むけれど、宙は背中で軽く受け流す。
「燈ちゃんってば、新入生だけじゃなくて、おっさんにもモテモテだね」
二人のそんな無言のやり取りの意味も分からずにいると、雫はぽんぽん。と、燈の肩を叩いてきた。
「おっさん言うな!」
顔を赤くして、丸山が叫ぶ。
何故顔を赤くしているのかも気付かない燈。その場で、丸山の行動の意味が分かっていないのが、燈だけだということにも、燈は気付いていない。
『おーい。はじめねーの?』
じじ。と、音がしてから、下の実習室にいる鼎の声が聞こえる。
「ああ。うん」
答えて、宙はヘッドセットをつけた。そして、マウスを操作してプログラムを開始する。
「コレヨリ、第4959回演習ヲ開始シマス。非戦闘員ハ退避シテクダサイ。繰リ返シマス……」
警告音の後にいつもの機械音声。演習が始まる。
そうして、電算部の新しい日常が幕を開けたのだった。
そう言って、雫は今度は燈の両手を握って、丸山の手の上に重ねた。そして、無理矢理握らせてくる。
「……っす。ありがとうございました?」
言われるままに燈は礼を言った。確かに丸山のアドバイスは的を射ていたし、口は悪いけれど、彼なりのフォローもしてくれていた。燈を燈として見てくれているのも分かった。
「……お……おう」
なのに。途端に丸山は歯切れが悪くなった。近くなった燈から遠ざかるように身を逸らす。
もしかしたら、男に手を握られて気持ちが悪いんだろうか。
と、思うけれど、手を離そうとはしない。それに、仄かに顔が赤い気がする。いや、ただの気のせいだろう。顔色が悪い姿ばかりを見ていたから、健康的な顔を見てそんなふうに感じるのだ。
「あの。これからもアドバイスお願いしてもいいっすか?」
何にせよ、彼が指導にも向いているのは確かだ。きっと、小華はそれも見越して『勧誘』したのだろう。だから、燈もこの機に乗じてお願いすることにした。離すのも変な感じがしたので、反対にぎゅ。と、手を握り直して言うと、丸山は戸惑ったような表情に変わった。
「ダメですか?」
スレイヤー試験に受かるために今は、藁にでも縋りたい。そして、丸山は藁よりもずっと燈たちの力になってくれると確信できる。
燈のお願いに、何故かごくり。と、生唾を飲んでから、丸山はこくこく。と、頷いた。
「あ。落ちたな」
くるり。と、PCの方に向き直って、宙が呟いた。呟きの意味が分からずに燈は首を傾げる。丸山はその言葉にはっとして、燈の手を離した。それから、ぎ。と、宙を睨むけれど、宙は背中で軽く受け流す。
「燈ちゃんってば、新入生だけじゃなくて、おっさんにもモテモテだね」
二人のそんな無言のやり取りの意味も分からずにいると、雫はぽんぽん。と、燈の肩を叩いてきた。
「おっさん言うな!」
顔を赤くして、丸山が叫ぶ。
何故顔を赤くしているのかも気付かない燈。その場で、丸山の行動の意味が分かっていないのが、燈だけだということにも、燈は気付いていない。
『おーい。はじめねーの?』
じじ。と、音がしてから、下の実習室にいる鼎の声が聞こえる。
「ああ。うん」
答えて、宙はヘッドセットをつけた。そして、マウスを操作してプログラムを開始する。
「コレヨリ、第4959回演習ヲ開始シマス。非戦闘員ハ退避シテクダサイ。繰リ返シマス……」
警告音の後にいつもの機械音声。演習が始まる。
そうして、電算部の新しい日常が幕を開けたのだった。
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