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告。新入生諸君

後日談 後編 3

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「つーか。お前、そんなんでこの先スレイヤーになってやってけんのか? また、付け込まれるぞ?」

 表情から燈の納得いかないという気持ちを察したのか、丸山は追い打ちをかけた。『自覚ねーのかよ』と、言いたげな呆れ顔だ。燈だって別に自覚がないわけじゃない。お人よしもお節介もある程度自覚はあるし、仲間にはそう思われていても仕方ないと、思っている。けれど、赤の他人に噂されるほどのことはない。はずだ。と、思いたい。

「や。俺だって学習してます。こんなこと二度とないですよ」

 多分、嫌味でなく、心配してくれているのだとはわかるけれど、少しとげのある言い方に、かちん。ときて、つい、燈は言い返してしまった。

「なー。こいつ、ホント、ずっとこうなのか?」

 やれやれ。と、両手を広げてわざとらしく丸山はため息をついた。そして、雫の顔を見て言う。どうやら、物腰柔らかく物事を話せるタイプではないようだ。

「お前さ。茉優に何されたかわかってんのか? 下手すると廃人にされてたかもしれないのに、未だに心配しているとか、どんだけ人がいいんだよ」

 そんなことは、燈だってわかっている。あの時の丸山の姿を見ているのだからわからないはずがない。

「周りにも散々心配かけて。近づかない方がいいって止められたんだろ? 幾ら才能があるからって、それだけでスレイヤーになれると思うなよ」

 反論しようと口を開きかけたけれど、丸山の言っていることが全部正論だから、何も言えなかった。

「相手の危険度も分からない判断力の甘さ。仲間の忠告を無視する独断専行。自分自身なら危険な目にあってもいいなんて欺瞞。失敗から学ばない学習能力の低さ。どれをとっても試験に受かるのは無理。絶対無理」

 言いたいことを言うと、丸山は一息呼吸を入れて、黙った。パソコンのファンの音だけが静かな教室に響いている。
 丸山の評価は正しい。それを正面から言ってもらったことも、感謝しなければいけない。けれど、紅二が電算部に入ってくれたことで浮かれていた燈の頭に冷や水を浴びせるには十分に辛辣な言葉だった。
 だから、俯いて、黙って聞いているしかない。

「……まあ、呪術師は多くない。しかも、できうる限り呪術師であることを隠す。うちは有名だから、学内では知れ渡っているけど、知られていないことが、一番武器になると知っているからな。一目で危険度に気付くなんてよっぽどの研鑽を積まないと無理だ」

 一転、穏やかな口調になって丸山は続ける。呪術師はその声にも様々な呪を乗せる。だから、そんな口調になったことには意味があるはずだ。

「お前に必要なのは、自分を正しく評価することだ。自分を低く見るから虚勢を張って危険なことに手を出すし、仲間に助けを求めない。自分を低く見るから、犠牲になってもいいと思う。まずはそれを直せ。お前、石田和臣になりたいのか? 違うだろ? てか、無理だろ? 血縁なんて所詮遺伝子の情報が多少似ているだけの別人だ。お前は誰かの孫じゃなくて、石田燈だろうが。
 それから……」

 ふん。と、吐き捨てるように鼻を鳴らして、一拍。丸山は間を置いた。

「犯人にまで甘いのは……長所でもあるのか」

 ちらり。と、腕組みをしてじっと丸山を見ている雫とPCそっちのけで振り返っている宙を順に見て、丸山はふ。と、片方の口角だけを上げて笑った。

「ま、そこは精々大事にしろ」

「丸ちゃん先輩優しいんだ~。燈ちゃんのこと心配してくれてるんですね」

 丸山の両手を握って、雫は言った。彼に対する雫の評価はかなりジャンプアップしているらしい。いつの間にか変な愛称で呼ばれている。

「俺は、長嶋にアドバイスしてやれって言われたからしてやっただけだ。一応は後輩になるんだしな。それに。従妹にいい医者を紹介してもらった借りもある」

 馴れ馴れしく両手を握ってくる雫にも顔色一つ変えずに丸山は答えた。雫は普通に見たらかなりの美人だ。それを、完全スルーしている。出会いがあれだったからわからなかったけれど、あまり色恋には興味があるようなタイプではないのかもしれない。
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