【これはファンタジーで正解ですか?】燈編

司書Y

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告。新入生諸君

後日談 前編 3

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 紅二の姿を見送って、閉めていかなかった入口をなんとなく見つめていると、背後から視線を感じた。
 しまった。と、思う。
 紅二が電算部に入ってくれたのが嬉しくて、つい燈もはしゃいでしまった。自分でも自分が紅二に弱いことくらい自覚している。どんなに隠そうとしても、これから一緒にいられるのが嬉しくてたまらないのは燈の方なのだ。
 だが、ここは電算部活動場所。そして、電算部のモットーは『弱点を見つけたら徹底的に叩き潰せ』だ。こんな特大の弱みを見逃してくれるとは思えない。

「燈ちゃんはモテモテだねえ」

 いつの間にか雫が背後に立っていた。気配が一切なかったのが怖い。

「しかも、ちゃーんと言いつけ守ってたし。躾もいきとどいてるわー」

 くい。と、眼鏡のフレームを上げて、愛用のノートPCに向き合ったまま、宙が言う。

「なるほどねえ。通りでバレンタインに山ほどチョコ貰っても、卒業式に上級生にお誘い受けても『すん』って顔してたわけだ」

 昏い笑いを浮かべて鼎が言った。足元の影の中から何かが、がりがり。と、地面をひっかくような音が聞こえる。その中にいる異形は鼎の感情を敏感に感じ取っているのだ。人生の勝ち組を羨む持たざる者の心の叫びが影の中にいるクロの心を騒めかしているのだろう。

「俺なんか……ブラック〇ンダー43コだったのに……」

 がく。と、力なく肩を落とす鼎。

「カナちゃん『お友達は』たくさんいるもんね」

 その肩をぽんぽん。と、叩いて雫が言った。悪意はないけれど、『お友達』を強調されて、鼎は『ははは』と、力なく笑う。

「燈はスペック高いもん。しょうがなくね?」

 始まったよ。
 と、燈は内心溜息をつく。
 燈のスペックいじりは定番の嫌がらせだ。燈が貶されるより褒められる方が苦手だと彼らは知っているのだ。

「お金持ちだし。成績いいし。かわいいし。せーかくいいし」

 指折り数えながら雫が言う。『かっこいい』ではなく、『かわいい』と言われて、思わず舌打ちする。もちろん、わざとだし、雫は聞こえないふりだ。

「でも、俺のが背高いし」

 拗ねて、いじいじ。と、机の上のパソコンのコードを弄っていた鼎が言う。

「私のがもっと高いよ?」

 別に鼎が燈より優れているところは身長の高さだけではない。もっと他にたくさん、いいところはある。もちろん、雫だって同じだ。

「成績俺の方がいいし」

 テストで解答欄をたくさん埋められることなんて、大した自慢でもないと燈は思う。無駄だとは言わないけれど、宙が優れているのはそんなところではない。

「宙君。学年3番だもんね」

 多分、雫もそんなことは分かっている。

「顔面偏差値は……李先輩には勝てないかな?」

 もちろん、宙も分かっている。

「貰った本命チョコの数。燈の5倍だからな」

 鼎もだ

「李先輩あの数、1週間で全部食べ切ったんだよ? すごくない?」

 燈は気付いていた。
 いつの間にか、話は紅二のことではなくなっている。燈をイジっているのには変わりないのだけれど、紅二とのことが『センシティブ』だということには気付いてくれたようだ。確かに電算部のモットーは『弱点を見つけたら徹底的に叩き潰せ』だけれど、部則には明記されているのだ。
『己より弱きを優先せよ』と。

「でも。まあ、性格の良さは……誰も敵わないかな」

 話をまとめるように宙が言うと、三人は顔を見合わせて燈を見た。笑っている。
 今回の事件で、散々迷惑をかけたけれど、彼らは何一つ燈のせいにはしなかったし、燈を見捨てたりはしなった。だから、燈は電算部が好きなのだ。

 そんな四人の姿を丸山はじっと見ていた。

「演習始めないのか?」

 そして、話が途切れたのを見計らったように言った。そっけない言い方だけれど、会話が終わるのを待っていてくれたのだろうか。あまり感情を前面に出すタイプの人ではないので分かりづらい。

「あ。も。準備できてます」

 会話をしながらも並行してPCで作業していた宙はノートPCをたたんで立ち上がった。電算準備室に移動するためだ。

「あ。じゃ、俺から行ってい?」

 さっきから、がりがり。がりがり。と、影の中から音がしている鼎が聞く。

「これ以上抑えといたら、あとで拗ねそうだし」

 苦笑いをして鼎は続ける。今日のクロはやる気満々なようだ。

「いーよー。少し調整したから、まずは10分。一人ずつ行こうか」

 鼎の問いに返事を返しながら提案すると、鼎もその提案に頷いた。二度三度屈伸を繰り返してから、宙に続いて部屋を出ていく。
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