【これはファンタジーで正解ですか?】燈編

司書Y

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告。新入生諸君

後日談 前編 2

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「あ。丸山先輩」

 そこで、一年生と共に説明の方に参加しようとしていた丸山を呼び止めたのは和彦だった。
 小華と違って、和彦の『先輩』には、ちゃんと敬意が籠っている。少なくとも、そう見える。

「説明は電算実習や外部実習の諸注意が主ですので、丸山先輩には必要ないと思います。できれば、ここに残って、2年生にスレイヤー試験のアドバイスしてもらえませんか?」

 さわやかな笑顔を浮かべて和彦が言う。額面通りに受け取るなら、まったくなんの問題もない言葉だ。丸山は4年混合A組の精鋭で、スレイヤー試験も2年生の間に受かっているし、直感型の雫のようなタイプではなく、理論型で指導官に向いているだろう。
 ただ、和彦の笑顔には裏があることが少なくない。
 そして、それは小華の意地の悪い笑顔と違って、何の含みもない笑顔と見分けがつかないのだ。

「……ああ」

 にこにこ。と、笑顔を向ける年下の副部長の顔をじっと見つめてから、丸山は答えた。和彦が一筋縄でいかないタイプだと、なんとなくわかってはいるようだけれど、あえて触れないでいるように見えた。多分、丸山も『触らぬ神に祟りなし』を信条とするタイプだ。
 そんな二人の会話を全く無視して、小華は教室を出て行ってしまった。移動先の教室の説明すらしていない。

「1年生は……C-12号実習室に移動。5分後に始めるよ」

 小華に変わって、手帳を確認して、和彦が指示を出すと、霖と雷は立ち上がって『はい』と、返事を返した。紅二も立ち上がって頷いたけれど、霖と雷が和彦について部屋を出て行ってしまったというのに、少し戸惑ったような顔で俯いていた。

「あーちゃ……」

 しばし何かを考えた後に、思い切ったように紅二は顔を上げた。そして、燈の方へと駆けだしたかと思うと、口を開く。

「あ・か・り・さ・ん」

 名前を呼ばれそうになった瞬間に燈は反射的に正していた。そのまま、腕組みして横目で紅二の顔を睨む。
 さっき注意したばかりだというのに、もう、忘れているらしい。生まれた時から兄弟同然に育って、ずっと『あーちゃん』だったのだから、慣れろというのが難しいのかもしれないけれど、ケジメだ。紅二にとってではない。主に燈にとっての。だ。『あーちゃん』なんて、かわいい顔で呼ばれたら思わず甘やかしてしまうかもしれない。

「……あ……かりさん」

 その顔が余程怖かったのか、しゅんとして、紅二は言い直した。頭の上にしおれた耳が。そして、背後には垂れた尻尾が見えるようだ。

「なんだ?」

 かわいいな。と、思う気持ちをぎゅ。っと、心の奥に押し込めて、心を鬼にして精一杯のツン。で、燈は続ける。

「……一緒に帰りたい……です。先に終わったら。まってて……ください」

 でかい身体を小さくして上目遣いで問いかけるかわいい生き物の姿を見て、とす。と、ハートに矢が刺さった音が聞こえた気がした。微妙に敬語がおかしくなっているところが堪らない。

「……待ってねえし」

 待っていてやるから、頑張ってこいよ。と、頭をわしわし撫でてやりたい気持ちも、何とか抑え込んで燈は答えた。途端に、紅二がさらに寂しそうに俯く。
 さっきまで小華に対してもあんなに堂々と渡り合っていたのと同一人物と思えない。

「お……れの方が絶対に遅くなるから、終わったらこっち来て待ってろ」

 そう言った瞬間に、ぱ。と、紅二の顔が明るくなった。だから、燈はくるり。と、紅二に背を向ける。きっと、かわいい。と、思っている気持ちが隠しきれなくなってしまっているだろう。自分の一言でこんなに喜んでくれるなんて、うれしい。

「うん!……あ。や。はい。行ってきます!」

 そう言って、紅二は先に教室を出て行ってしまった和彦たちを追いかけて走り出した。一度、教室を出てから、開けたままのスライドドアの入口に顔を覗かせる。

「先に終わっても絶対、帰らないでね……ください。俺、終わったら速攻でこっち帰ってくるから」

 ぶんぶん。と、手を振ってから紅二は再び顔を引っ込めて走り出した。
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