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告。新入生諸君
最終話 支配者は嗤う 2
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「……さて。諸君らの努力の甲斐あって」
そして、2年生一同の顔を見てから、小華は話題を変えた。
「部員は目出度くも目標人数に達したわけだが」
小華の言葉に、燈はふと、違和感を覚えた。確かに、部員は最低9人集まればいいという話をした。あとは、なんとかだまして、1人分の名前を誰かに貸してもらえばいい。小華が弱みを握っている男子生徒は数知れないと聞くから、どうとでもなるだろう。けれど、小華がそれで納得するとは思えない。まだ、新入生勧誘の時期は終わってはいないのだ。せめて、10人集まるまで勧誘だけでも続けた方がいいのではないかと思う。
「……今日から新体制始動だと言ったはずだが、遅刻しているものがいる」
腕組みをして、その腕を自分の指でとんとん。と、叩いて、彼女は言った。
現時点での部員はすべて揃っているはずだ。小華と和彦の3年生。燈、宙、雫、鼎の2年生。新入生の紅二、霖と雷。まさか放校処分になった茉優のことを言っているわけはない。大体にして、おそらく彼女は茉優を部員としては認めていなかったと思う。
では、誰のことを言っているのか。
それを、小華は口には出さなかった。
「まあいい。今後の流れだが。日輪祭までに、諸君らを『とりあえず』使えるようにせねばならん」
今度は一年生の顔を見回して、小華は言った。
今年の新入生は決してレベルは低くはない。それでも、日輪祭で優勝を目指すには、足りない。実力も、経験も。だ。
「我が部に限らず」
腕組みを解いて、彼女は定位置から離れる。それから、新入生の方へと歩みを進める。ゆっくりと。だ。
そして、まず、紅二の前に立ち止まった。
「女神川の特戦の活動はすべて、自己責任だ」
とん。と、紅二の肩に手を置いて、彼女は言った。
そして、次に霖の前まで歩いていく。
「危険を伴わない実習は存在しない」
霖の肩を叩いて、次は雷の前に立つ。
「覚悟はあるか?」
雷の肩を叩いて、三人の顔を見回して、彼女は言い放った。新体制始動の初日に聞くにはいささか重い質問だ。しかし、昨年、燈たちも聞かれた。
これは、電算部の入部の儀式のようなものだ。もちろん、彼女は本気だ。言葉に偽りはない。だから、茉優には聞かなかった。それが、茉優のことを小華が部員として認めていなかったことの証拠だ。
「あります」
小華の質問に最初に答えたのは、意外にも霖だった。
ほぼ、即答だ。口調は軽かったが、目は笑ってはいない。いつものチャラけた霖の表情ではない。覚悟という言葉に相応しい表情だった。
その言葉に続くように、雷が頷く。こちらは表情に変化はない。いつもとほとんど変わらない無表情だ。しかし、頷いた仕草の力強さが、彼の本気の度合いを物語っているように思えた。
彼らの両親はスレイヤーをしている。その職業を目指すということがどういうことなのか、彼らはしっかりと理解しているのだろう。
はっきりとした意思表示に、小華が頷く。
こうして、誓いを立てても、辞めていく輩は存在している。実際に、燈たちの学年は半分になった。それでも、最初からやると言えないものが、残れるはずはない。
ここでビビった者たちは、その場で入部届を破かれる。そんな儀式めいた質問だった。
「君は?」
小華の問いに、答えない紅二に、彼女は視線を向けた。そこに特に感情は籠っていない。
ただ、小華も、和彦も、一青を知っている。紅二に対する期待は大きいはずだった。新入生の勧誘を任された日。彼女は一青のことを言いかけた。一青の弟ならば、と、思ったのだろう。燈の思いを無視できずに諦めかけた紅二の勧誘をまさか、こんなことで棒に振りたくはない。はずだ。
そして、2年生一同の顔を見てから、小華は話題を変えた。
「部員は目出度くも目標人数に達したわけだが」
小華の言葉に、燈はふと、違和感を覚えた。確かに、部員は最低9人集まればいいという話をした。あとは、なんとかだまして、1人分の名前を誰かに貸してもらえばいい。小華が弱みを握っている男子生徒は数知れないと聞くから、どうとでもなるだろう。けれど、小華がそれで納得するとは思えない。まだ、新入生勧誘の時期は終わってはいないのだ。せめて、10人集まるまで勧誘だけでも続けた方がいいのではないかと思う。
「……今日から新体制始動だと言ったはずだが、遅刻しているものがいる」
腕組みをして、その腕を自分の指でとんとん。と、叩いて、彼女は言った。
現時点での部員はすべて揃っているはずだ。小華と和彦の3年生。燈、宙、雫、鼎の2年生。新入生の紅二、霖と雷。まさか放校処分になった茉優のことを言っているわけはない。大体にして、おそらく彼女は茉優を部員としては認めていなかったと思う。
では、誰のことを言っているのか。
それを、小華は口には出さなかった。
「まあいい。今後の流れだが。日輪祭までに、諸君らを『とりあえず』使えるようにせねばならん」
今度は一年生の顔を見回して、小華は言った。
今年の新入生は決してレベルは低くはない。それでも、日輪祭で優勝を目指すには、足りない。実力も、経験も。だ。
「我が部に限らず」
腕組みを解いて、彼女は定位置から離れる。それから、新入生の方へと歩みを進める。ゆっくりと。だ。
そして、まず、紅二の前に立ち止まった。
「女神川の特戦の活動はすべて、自己責任だ」
とん。と、紅二の肩に手を置いて、彼女は言った。
そして、次に霖の前まで歩いていく。
「危険を伴わない実習は存在しない」
霖の肩を叩いて、次は雷の前に立つ。
「覚悟はあるか?」
雷の肩を叩いて、三人の顔を見回して、彼女は言い放った。新体制始動の初日に聞くにはいささか重い質問だ。しかし、昨年、燈たちも聞かれた。
これは、電算部の入部の儀式のようなものだ。もちろん、彼女は本気だ。言葉に偽りはない。だから、茉優には聞かなかった。それが、茉優のことを小華が部員として認めていなかったことの証拠だ。
「あります」
小華の質問に最初に答えたのは、意外にも霖だった。
ほぼ、即答だ。口調は軽かったが、目は笑ってはいない。いつものチャラけた霖の表情ではない。覚悟という言葉に相応しい表情だった。
その言葉に続くように、雷が頷く。こちらは表情に変化はない。いつもとほとんど変わらない無表情だ。しかし、頷いた仕草の力強さが、彼の本気の度合いを物語っているように思えた。
彼らの両親はスレイヤーをしている。その職業を目指すということがどういうことなのか、彼らはしっかりと理解しているのだろう。
はっきりとした意思表示に、小華が頷く。
こうして、誓いを立てても、辞めていく輩は存在している。実際に、燈たちの学年は半分になった。それでも、最初からやると言えないものが、残れるはずはない。
ここでビビった者たちは、その場で入部届を破かれる。そんな儀式めいた質問だった。
「君は?」
小華の問いに、答えない紅二に、彼女は視線を向けた。そこに特に感情は籠っていない。
ただ、小華も、和彦も、一青を知っている。紅二に対する期待は大きいはずだった。新入生の勧誘を任された日。彼女は一青のことを言いかけた。一青の弟ならば、と、思ったのだろう。燈の思いを無視できずに諦めかけた紅二の勧誘をまさか、こんなことで棒に振りたくはない。はずだ。
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