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告。新入生諸君

21 月に約束 4

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「だめです」

 きっぱり。と、言い切って、紅二はぐい。と、燈を後ろから羽交い絞めにする。

「あーちゃんを、あーちゃんって呼んでいいのは俺だけなんで」

 ふわり。と、燐が燃える匂い。紅二の匂いだ。
 いいにおい。
 と、思ってしまってから、みんなの視線が集まっていることに気付いて、燈は顔を真っ赤に上気させた。

「だから! ダメだって言ってるだろ!」

 思わず声が大きくなる。

「えー?」

 じたばた。と、紅二の腕から逃げ出そうとする燈をそれでも、腕の中に閉じ込めたまま、紅二が抗議の声を上げた。

「離せよ。こら」

 力を入れても、絶対的に紅二の方が腕力は上で、全く引きはがせない。もちろん、にやにやと見守っている仲間たちは誰も助けてはくれない。

「離したら、あーちゃんって呼んでいい?」

 わざと耳元に吐息がかかるくらいの距離で紅二が聞いた。最近。また、紅二の声は低くなった。声変わりって言うのは、一度に急に変わるものではない。そうして少しずつ変わっていくものなんだな。と、頭の片隅でのんきに考えてしまった。

「……だ。ダメに決まって……」

「じゃ、離さない」

 燈が拒否しようとすると、紅二は食い気味に言った。ぎゅう。と、腕に力が籠る。

「せめて、燈さんって呼べ」

 仲間たちから小さく笑いが零れる。もちろん、嘲笑ではない。ただ、このコントのようなかわいい痴話げんかが面白いのだ。

「あーちゃんはあーちゃんじゃん」

「あ・か・り・さ・ん!」

 燈があんまりにも頑なに語気を強めるから、紅二は仕方ないという風に腕を離す。

「ちぇ」

 お行儀悪く舌打ちをして、紅二は、うなだれた。少し芝居がかっている。
 そんなことでは騙されないぞ。と、燈は思う。紅二は幼いころからこうなのだ。
 浄眼のせいなのか、そうでないのかは、よくわからないけれど、怒っている相手の本気度がわかってしまう。もちろん、悪いことをしたと自分で理解していればちゃんと反省する。しかし、自分に非がないうえに、相手が本気でないとわかると、言うことをきかない。

「あと、敬語も! 決まりは守る! ちゃんとしないと、部員として認めないからな」

 燈の本気モードのお説教に、紅二は頬を膨らませてから、俯いた。しゅん。とした姿がまるで怒られた子犬だ。垂れた尻尾と耳が見えるようだ。
 ちょっと、かわいくて、すごく、情けない。

「……部活の時は。な」

 だから、つい。言ってしまった。
 言ってから、まずい。と、思うけれど、後の祭りだ。

「わかりました。『部活の時は』ね」

 ぱ。と、表情を明るくして、紅二が言う。
 もう、それ以上、お説教は思い浮かばなかった。
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