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告。新入生諸君
21 月に約束 2
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俺との約束だからって、無理しなくても。いいんだぞ?」
もしかしたら、紅二は燈のことまでも心配してるのではないだろうか。ふと、そんな疑問が湧いた。約束を破ったと思われたくないから、本当は嫌なのに電算部に入るといっているのではないだろうか。
だとしたら、そんなのは杞憂だ。
紅二が電算部に入らなくても、約束を覚えていてくれただけでも燈は嬉しいし、一緒にいる時間が減るのは寂しいけれど、怒ったり、嫌いになったりは絶対にしない。
「それはないから。心配しないで」
けれど、紅二はきっぱりと言い切った。その言葉に嘘はないように見える。ただ、人生経験豊富とは言い難い燈には、それが、本気なのか、嘘なのかなんて判断はつかない。
「あーちゃん、強くなるって言ってただろ?」
燈が紅二の言葉を量りかねていることに気付いたように、紅二は続ける。
「俺も。同じ。強くなるよ」
口調は普通だったけれど、その目は真剣そのものだった。
なりたい。のではなくて、なる。紅二はそう宣言する。
「ね。俺、あーちゃんより強くなるから」
そこに紅二の決意にも似たものを感じた。
一青に守られていた子供のころとは違う。けれど、同じ地平にある眼差しのまま。
「紅二」
素直に、その眼差しが眩しいと感じる。それが誰のためとか、何のためとかそんなものすべてすっ飛ばしても、かっこいいと思う。もっと、ずっと、そばで見ていたい。
好きだ。と、思う。
「そしたらさ、俺のお願いきいてくれる?」
ぎゅ。と、強く握りしめた手。燈もその手を握り返す。
「……簡単に抜かれたりしねーし」
それでも、そんな素直でない言葉が口から出たのは、照れたからとか、お願いを聞きたくないとか、そんな理由ではない。その紅二に少しでも釣り合うような自分になりたかったからだ。追い抜かれないうちは、近くで見ていられるからだ。
「うん。知ってる」
燈の天邪鬼な答えにも、紅二は微笑んだ。
「でも、俺の方が強くなるよ」
そして、言い切るのだ。ムカつくほどに、様になる自信たっぷりな表情で。
「電算部なら、強くなれるんだろ?」
不覚にもそんな表情に見とれてしまう。
「……そうだけど」
だから、燈はおざなりな答えを返した。
「じゃ、強くなって、あーちゃんにお願い聞いてもらう」
途端に、紅二が嬉しそうな声色になっていった。もう、燈を追い越すのは確定事項らしい。そんなことは燈だってわかっているし覚悟しているけれど、面と向かって言われているようで少しだけかちん。と、きてしまった。
「別に聞いてやるなんて言ってねーし」
だから、少し意地悪な口調を作って、燈は言う。大体、『お願い』とは、なんだろう。紅二に限って法外なものを強請るとは思えないけれど、少しだけ心配になる。
「あ。ずるい」
ふと、気が付くと、もう、コンビニは目の前だった。
けれど、気付くと、いつものように話せるようになっていた。
「てか。お前。後輩になるなら、『燈先輩』って呼べ。決まりだからな」
コンビニの両開きのガラスのドアを押しながら、燈は言う。
嬉しかった。
こんな風に、部活のことを普通に話せるようになるとは思っていなかった。
「え? 決まりなの?」
数日前には、複雑な気持ちで茉優に言ったのと同じことなのに、紅二に話すそれは、燈の胸を躍らせた。
正直、紅二に葛藤がないわけではないだろう。祖父と比べられることを燈が複雑に思うように、紅二だって一青のことを言われるのは愉快ではないはずだ。それでも、紅二がいてくれることは素直に嬉しいし、きっと、電算部の仲間は紅二にとってもかけがえのない仲間になる。そう思えた。
「決まりなの」
つん。と、そっぽを向いて、飲み物の棚を物色しながら燈は言い切る。それでも、手は繋いだままだ。
「んー。じゃ、やめようかな……」
そんな燈の態度に、口を尖らせて、紅二がぼそり。と、呟いた。
「は? なんだよ。そんなことで!?」
その言葉に燈が振り向く。
振り向いた燈の目には、にやり。と、意地悪く笑う紅二の顔が映ったのだった。
もしかしたら、紅二は燈のことまでも心配してるのではないだろうか。ふと、そんな疑問が湧いた。約束を破ったと思われたくないから、本当は嫌なのに電算部に入るといっているのではないだろうか。
だとしたら、そんなのは杞憂だ。
紅二が電算部に入らなくても、約束を覚えていてくれただけでも燈は嬉しいし、一緒にいる時間が減るのは寂しいけれど、怒ったり、嫌いになったりは絶対にしない。
「それはないから。心配しないで」
けれど、紅二はきっぱりと言い切った。その言葉に嘘はないように見える。ただ、人生経験豊富とは言い難い燈には、それが、本気なのか、嘘なのかなんて判断はつかない。
「あーちゃん、強くなるって言ってただろ?」
燈が紅二の言葉を量りかねていることに気付いたように、紅二は続ける。
「俺も。同じ。強くなるよ」
口調は普通だったけれど、その目は真剣そのものだった。
なりたい。のではなくて、なる。紅二はそう宣言する。
「ね。俺、あーちゃんより強くなるから」
そこに紅二の決意にも似たものを感じた。
一青に守られていた子供のころとは違う。けれど、同じ地平にある眼差しのまま。
「紅二」
素直に、その眼差しが眩しいと感じる。それが誰のためとか、何のためとかそんなものすべてすっ飛ばしても、かっこいいと思う。もっと、ずっと、そばで見ていたい。
好きだ。と、思う。
「そしたらさ、俺のお願いきいてくれる?」
ぎゅ。と、強く握りしめた手。燈もその手を握り返す。
「……簡単に抜かれたりしねーし」
それでも、そんな素直でない言葉が口から出たのは、照れたからとか、お願いを聞きたくないとか、そんな理由ではない。その紅二に少しでも釣り合うような自分になりたかったからだ。追い抜かれないうちは、近くで見ていられるからだ。
「うん。知ってる」
燈の天邪鬼な答えにも、紅二は微笑んだ。
「でも、俺の方が強くなるよ」
そして、言い切るのだ。ムカつくほどに、様になる自信たっぷりな表情で。
「電算部なら、強くなれるんだろ?」
不覚にもそんな表情に見とれてしまう。
「……そうだけど」
だから、燈はおざなりな答えを返した。
「じゃ、強くなって、あーちゃんにお願い聞いてもらう」
途端に、紅二が嬉しそうな声色になっていった。もう、燈を追い越すのは確定事項らしい。そんなことは燈だってわかっているし覚悟しているけれど、面と向かって言われているようで少しだけかちん。と、きてしまった。
「別に聞いてやるなんて言ってねーし」
だから、少し意地悪な口調を作って、燈は言う。大体、『お願い』とは、なんだろう。紅二に限って法外なものを強請るとは思えないけれど、少しだけ心配になる。
「あ。ずるい」
ふと、気が付くと、もう、コンビニは目の前だった。
けれど、気付くと、いつものように話せるようになっていた。
「てか。お前。後輩になるなら、『燈先輩』って呼べ。決まりだからな」
コンビニの両開きのガラスのドアを押しながら、燈は言う。
嬉しかった。
こんな風に、部活のことを普通に話せるようになるとは思っていなかった。
「え? 決まりなの?」
数日前には、複雑な気持ちで茉優に言ったのと同じことなのに、紅二に話すそれは、燈の胸を躍らせた。
正直、紅二に葛藤がないわけではないだろう。祖父と比べられることを燈が複雑に思うように、紅二だって一青のことを言われるのは愉快ではないはずだ。それでも、紅二がいてくれることは素直に嬉しいし、きっと、電算部の仲間は紅二にとってもかけがえのない仲間になる。そう思えた。
「決まりなの」
つん。と、そっぽを向いて、飲み物の棚を物色しながら燈は言い切る。それでも、手は繋いだままだ。
「んー。じゃ、やめようかな……」
そんな燈の態度に、口を尖らせて、紅二がぼそり。と、呟いた。
「は? なんだよ。そんなことで!?」
その言葉に燈が振り向く。
振り向いた燈の目には、にやり。と、意地悪く笑う紅二の顔が映ったのだった。
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