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告。新入生諸君

20 暑い日 3

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「と……とにかく。も、人助けとか。こりごり。スイさんのスイーツ食べられないと、部活も実習やる気でない」

 急に恥ずかしくなって、くるり。と、背を向けて、でも、手は離さずに、燈は歩き始めた。顔が熱い。鼓動が早い。聞こえてしまうのではないかと、焦る。焦るけれど、手は離したくない。
 手を引かれるまま、紅二はついてくる。横目でその顔をのぞき見ると、なんだか少し、残念そうな表情に見えたような気がした。錯覚だろうか。

「だから、毎日でも行ってやるから。お前がいなかったら、帰るまで待っててやるよ」

 燈は自分が一青の代わりになれないことくらいは分かっている。代わりになれる人なんて多分いない。ただ、燈の顔を見ることで、ほんの少しでも、紅二の心が癒されればいい。近くにいて、時々こんな風に頭を撫でたり、手を繋いだりして、一瞬でもいいから、幸せな気持ちをあげたい。

「……いらないよ」

 けれど、紅二が言った意外な言葉に、燈は思わず振り返った。

 この時の衝撃を多分、一生忘れることはないと思う。

 友達とか、家族とか、そんな関係でもいいから、紅二のために何かしたいと思う気持ちを全否定?

 燈にも負けず劣らず人がいい紅二にこんな風に拒絶されるなんて、思いもよらなかった。いや、紅二は意外に好き嫌いははっきりしている。嫌なことなら、燈のように曖昧に濁さずにきっぱりと断るかも。
 と、ここまでわずか0.1秒以下。一瞬で頭の中を嵐が駆け抜けた。

「だって、俺、電算部に入るから。待っててもらわなくても、大丈夫。俺があーちゃんのところに会いに行くよ」

 けれど、それ以上に、次の紅二の言葉が燈を混乱させた。

「え?」

 ぎゅ。と、今度は紅二が燈の手を握る。そして、当たり前の決まり事を確認するようにはっきり。と、言った。

「約束したじゃん。高校生になったら電算部に入って、あーちゃんといっしょに『あそこ』に行くって」

 その笑顔は、あの日約束をした時と同じ笑顔だった。
 紅二も、あの日の約束を覚えていたのだ。

「え? 覚えてたのか……?」

 単純に覚えていてくれたのは嬉しかった。それから、『そうだよな。紅二がそんなに薄情なわけがない』と、思う。紅二だって燈との約束を破ったことなどない。
 けれど、もう一人の自分が言う。

 本当は忘れたいのではないのか。
 と。

「覚えてたのかって。当たり前じゃん。あーちゃんとの約束忘れるわけないでしょ?」

 けれど、それを否定するように、紅二は笑顔で答えた。

「もしかして、俺が忘れてるとか思ってたの? 信用ないな~」

 それから、拗ねたような顔で燈を見る。完全にさっきまでの暗い表情は消えていた。

「や。だって、お前、部活見学とか一度も……」

 もちろん、紅二が部室を訪ねてきたことはない。燈は新学期に入って一日も部活を休んでいないから、それは間違いない。

「や。見には行ったよ? ただ……先輩の人たちも。ほかの新入生? ほら、混合のA組の双子も。すっげー使えそうだったから」

 そう言われて、燈はふと、思い出していた。確かに何度か、部室のスライドドアの向こうに『誰かいる』と感じることがあった。紅二ではないかとも思った。けれど、来てほしいと願っている自分自身の願望の表れかもしれないと、そして、見に来ていたのだったら、紅二が声をかけないはずがないと思っていた。
 燈はずっと紅二が来るのを待っていたのに、どうして声をかけてくれなかったのだろう。燈は思う。それに、ほかの部員が『使えそう』?なことと、燈に顔を見せてくれないことになんの関係があるんだろうか。
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