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告。新入生諸君
16 今、言わなきゃダメ? 2
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「あーちゃん!」
その途端に、紅二が叫んだ。同時に何かにぎゅ。と、手を掴まれたように燈には感じられた。そして、少し遅れてそれが冷気なのだと理解する。
「……ヤバ……」
壁についた手は一瞬にして凍り付いていた。
不用意に手をついたことに後悔。けれど、もちろん、反省している暇などない。
「岩漿の……」
引いてもびくともしない手を壁から引き離すために、魔法を唱えようとした時だった。足の下。地面の底から、ぞっとするような冷気が昇ってくる。魔光を感じ取る感覚の表面を氷で撫でられたような、冷たい感触。頭が痛くなるほどの匂い。先ほどまでとは比べ物にならないほどの大きさ。この手の呪い系の罠は近くに術者がいて操っているわけではない。もちろん、呪符自体に意思があるわけではない。けれど、まるで獲物が網にかかって動けなくなっていることを知っているように燈には感じられた。
まずい。
と、思う。
これは、ただでは済まない。これを避けなければ命に届くかもしれない。
瞬時に燈は行動を切り替えて声にならない声で命じる。閉じている空間を開く魔道語だ。
ここまでで、時間にしたら一秒には満たない。しかし、それは、膨大な情報の処理と、選択の連続だった。
そして、燈は手元に現れた愛用の短剣を自らの腕に当てがった。数日前、演習中にやったのと同じように。だ。
その所作の刹那。心を過る。これは演習ではない。ここで振るった刃は取り返すことができない。
けれど、燈は躊躇しなかった。そのための演習だ。
ぐ。と、短剣を持った腕に力を入れる。
「ダメだよ」
しかし、短剣を持った燈の手はそこで止まった。
「それは、ダメ」
紅二が後ろから、抱きしめるようにして燈の手を止めていたからだ。力を込めてもびくともしない。
「も、見えたから大丈夫」
そう言って、紅二は燈の手から短剣を奪って、それに自分の手から直に魔道を流し込んで炎をまとわせる。そして、炎に包まれたそれを、電柱に向かって投げた。
「見えたって……」
続いて、燈の服の中に手を突っ込んで、腰の後ろ辺りにするり。と、手を回す。
「貸してね」
それから、そんな紅二の行動に驚いて固まっている燈をよそに、余裕で微笑んで燈がベルトの後ろに隠し持っている三本のナイフのうち、二本を抜いて、同じように魔道の力を流し込んでそれぞれに看板の下、町内会の掲示板に向かって投げつけた。
ぼ。と、音を立てて、刃が突き刺さった場所に炎が上がる。炎に包まれた場所。電柱に張り付いた個人医院の案内看板から。掲示板に張られた指名手配犯のポスターから。看板の下から覗いたチラシの切れ端のような紙から。まるで墨で塗ったような黒い煙が立ち上る。
「あれは……」
紅二は自分の意志で外に魔法の力を放出することがほとんどできない。その力のほとんど全てが彼自身の身体能力の強化に消費される。ただ、魔道の力を通す道具を使えばそのエレメントを帯びた炎を使うことが可能だ。相性のいい燈の魔具を使って浄化の特性を持った炎を使ったのだ。
「ん。トラップ。壊したから、もう、平気」
紅二の言葉と同時に燈の手を覆っていた氷がぼろぼろ。と、崩れる。呪いは解けたらしい。下から感じていたプレッシャーもなくなり、地面から生えていた氷柱も同じく崩れていった。
その途端に、紅二が叫んだ。同時に何かにぎゅ。と、手を掴まれたように燈には感じられた。そして、少し遅れてそれが冷気なのだと理解する。
「……ヤバ……」
壁についた手は一瞬にして凍り付いていた。
不用意に手をついたことに後悔。けれど、もちろん、反省している暇などない。
「岩漿の……」
引いてもびくともしない手を壁から引き離すために、魔法を唱えようとした時だった。足の下。地面の底から、ぞっとするような冷気が昇ってくる。魔光を感じ取る感覚の表面を氷で撫でられたような、冷たい感触。頭が痛くなるほどの匂い。先ほどまでとは比べ物にならないほどの大きさ。この手の呪い系の罠は近くに術者がいて操っているわけではない。もちろん、呪符自体に意思があるわけではない。けれど、まるで獲物が網にかかって動けなくなっていることを知っているように燈には感じられた。
まずい。
と、思う。
これは、ただでは済まない。これを避けなければ命に届くかもしれない。
瞬時に燈は行動を切り替えて声にならない声で命じる。閉じている空間を開く魔道語だ。
ここまでで、時間にしたら一秒には満たない。しかし、それは、膨大な情報の処理と、選択の連続だった。
そして、燈は手元に現れた愛用の短剣を自らの腕に当てがった。数日前、演習中にやったのと同じように。だ。
その所作の刹那。心を過る。これは演習ではない。ここで振るった刃は取り返すことができない。
けれど、燈は躊躇しなかった。そのための演習だ。
ぐ。と、短剣を持った腕に力を入れる。
「ダメだよ」
しかし、短剣を持った燈の手はそこで止まった。
「それは、ダメ」
紅二が後ろから、抱きしめるようにして燈の手を止めていたからだ。力を込めてもびくともしない。
「も、見えたから大丈夫」
そう言って、紅二は燈の手から短剣を奪って、それに自分の手から直に魔道を流し込んで炎をまとわせる。そして、炎に包まれたそれを、電柱に向かって投げた。
「見えたって……」
続いて、燈の服の中に手を突っ込んで、腰の後ろ辺りにするり。と、手を回す。
「貸してね」
それから、そんな紅二の行動に驚いて固まっている燈をよそに、余裕で微笑んで燈がベルトの後ろに隠し持っている三本のナイフのうち、二本を抜いて、同じように魔道の力を流し込んでそれぞれに看板の下、町内会の掲示板に向かって投げつけた。
ぼ。と、音を立てて、刃が突き刺さった場所に炎が上がる。炎に包まれた場所。電柱に張り付いた個人医院の案内看板から。掲示板に張られた指名手配犯のポスターから。看板の下から覗いたチラシの切れ端のような紙から。まるで墨で塗ったような黒い煙が立ち上る。
「あれは……」
紅二は自分の意志で外に魔法の力を放出することがほとんどできない。その力のほとんど全てが彼自身の身体能力の強化に消費される。ただ、魔道の力を通す道具を使えばそのエレメントを帯びた炎を使うことが可能だ。相性のいい燈の魔具を使って浄化の特性を持った炎を使ったのだ。
「ん。トラップ。壊したから、もう、平気」
紅二の言葉と同時に燈の手を覆っていた氷がぼろぼろ。と、崩れる。呪いは解けたらしい。下から感じていたプレッシャーもなくなり、地面から生えていた氷柱も同じく崩れていった。
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