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告。新入生諸君

15 シュークリームと帰り道 5

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 一人で。急いで。先に行かないでほしい。そんなことを考えながら、紅二の横顔をじっと見ていると、不意に紅二が燈の方に視線を移す。

「そ……そんなこと言って。お前、大食いのくせに昼までもつのかよ」

 不意打ち過ぎて、燈は、つい。目を逸らしてしまった。
 なんだか頬が熱い。紅二は変に思わなかっただろうか。態度悪いと思わなかっただろうか。

「んー。実は無理。スイさんが間食用におにぎり作ってくれてる」

 燈の心配をよそに特に気を悪くした様子も、燈の態度を不可解と思った様子もなく、紅二は笑いながら答えた。

「あーちゃんは学食とか行くの?」

 今度は紅二が燈の方を向いたまま、質問してくる。視線がくすぐったい。

「うちの母ちゃんは忙しいし弁当とか無理。家政婦の沢さんは通いだから弁当までは頼めないし。基本、学食だよな。量多いし安いし」

 子供のために割く時間の多寡で愛情を量ろうと燈は思わない。両親は両親なりのやり方で燈を育ててくれて、感謝をしているし愛情も感じている。ただ、中学時代は毎日紅二が持ってくる翡翠お手製の弁当を羨ましく思う時がないわけではなかった。
 けれど、それを羨ましいと言えるほど、燈も無邪気でも、無神経でもなかった。

「弁当って学食でたべてもいいの?」

 どんな意図があるのかわからないけれど、そんなことを紅二が聞いた。
 学食は昼はかなり混むから、昼御飯を用意してある生徒はなるべく近づかない。学食の定食目当てでなければ、教室や部室で食べるのが一般的だ。

「や。だから、すげー混んでるぞ?」

 うまく伝わってなかったのだろうか。と、燈は説明し直す。弁当があるのに何も学食に近づくことはない。あそこは戦場だ。比喩ではなく、その日の食うや食わざるやはエネルギー消費量の多いスレイヤー候補生にとっては死活問題だ。戦闘を生業とするスレイヤー候補生同士の真剣勝負の場なのだ。

「うん。でも、あーちゃんに会えるでしょ?」

 燈は紅二が女神川学園高校に入学してから、一度も会っていなかった。それどころか、よく考えてみたら、紅二が中学を卒業してからほとんど会えてはいない。燈は緑風堂には顔を出していたけれど、紅二がいないことが多かったからだ。燈の方は少しだけ顔を合わせるのが気まずくて、翡翠に話を振ることもなかったから、『おつかい』のことを知ったのも今日が初めてだった。
 入学式が終わってすぐのころに茉優とのことがあったし、紅二は高校が始まってからも『おつかい』は続けているようだから、紅二が電算部に入部しないなら、この先もなかなか会えなくなってしまうかもしれない。
 紅二もそれを淋しく思ってくれていたのだろうか。

「あーちゃん。俺さ……」
 
 不意に少しだけ真面目な顔になって、紅二は燈の顔を見つめてきた。歩いていた足が止まる。つられて、燈の歩みも止まった。
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