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告。新入生諸君
14 テンプレート 3
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翡翠との話に夢中になっていて、接近に気付いていなかった。いや、普通のプロスレイヤーと比べても運動能力がずば抜けて高い紅二がここまで息を切らしているということは、相当な速さで移動していたのだろう。しかも、紅二の方には燈に対する害意など皆無だ。魔光を持ついわゆる能力者は敵意や害意、攻撃の予備動作で相手を察知するのだから、気付かなくても仕方ない。
「よかった。会えた」
いつもの屈託ない満面の子犬のような笑顔。子供のころのままだ。それなのに、ほんの少しだけ会わなかった間にまた、背が伸びたのだろうか、肩幅も胸板も厚みが違って見える。心なしか表情にも余裕のようなものが見えて、不覚にもどきり。と、鼓動が跳ねる。
「お……かえり」
本当は、燈だって久しぶりに会えてうれしい。笑顔が見られた上に、燈に会えたことを喜んでくれているのが、さらに嬉しい。けれど、口をついたのはそんなそっけない一言だった。笑顔だってぎこちなかったと思う。
「ただいま」
それでも、そんなそっけない燈の挨拶の言葉にも、紅二は嬉しそうに笑った。笑ってくれた。
「LINE。ありがと。スイさん」
背負っていたリュックを燈の座っている席の隣において紅二は翡翠に視線を移す。それから、ぱたぱた。と、自分自身を扇ぐように手を振った。額に汗が滲んでいる。その紅二の前に翡翠はすっきりした清涼感のある香りがする冷茶を置いた。
「うん。間に合ってよかったね」
どうやら、燈が来たことを翡翠が紅二にLINEで伝えていたようだ。いつの間に? と思うけれど、考えるだけ無駄だ。おそらくは燈が店に入るよりも前だろう。翡翠の索敵(?)範囲は想像を絶する。時折、監視用の魔符をつけられているんじゃないかと思う時がある。数年前からアングラのネットオークションで流通している花びらの形のヤツとか。
「超特急で帰ってきた。あーちゃんに会いたかったから」
燈がそんなことを考えている間に、翡翠が煎れてくれたお茶を一気に飲み干して、たん。と、グラスをテーブルに置いて、また、に。と、紅二が笑う。
「スイさん。俺もあーちゃんと同じのが食べたい」
そう言って紅二は燈の席の隣に座った。無邪気に言う紅二の言葉に笑顔で頷いて、翡翠はガラスケースを開けた。紅二は燈と違って本当にこのうちの住人だ。だから、まるで母親に『おやつを出して』と強請る子供と、それを微笑ましく見ている母親のようだと燈は思う。
「うまそー。いただきます」
翡翠が燈に出したのと同じようにシュークリームを紅二の前に置くと、紅二は手を合わせて行儀よく頭を下げてから、やはりフォークは使わずに、がぶり。と、シュークリームにかぶりついた。はみ出した生クリームがほっぺについてもお構いなしだ。そんなところは、小学生の時と全く変わらない。
「子供かよ。ほら。そこ。ついてる」
一口でほぼ半分を平らげて満足そうにしている姿に、燈は思わず笑ってしまった。
紅二とは記憶にないほど小さな時から一緒にいる。一通りの悪戯は一緒にやったし、一緒に家出したこともある。風呂だって寝るのだってずっと一緒だった。そのころから紅二は全然変わらない。
「え? どこ?」
片手でシュークリームの残りを持ったまま、もう片方の手で燈が指示したところを触って、それでもクリームが取れなくて、紅二は聞き返す。そんな仕草も、兄弟のように転げまわって遊んでいたあの頃のままだ。
「よかった。会えた」
いつもの屈託ない満面の子犬のような笑顔。子供のころのままだ。それなのに、ほんの少しだけ会わなかった間にまた、背が伸びたのだろうか、肩幅も胸板も厚みが違って見える。心なしか表情にも余裕のようなものが見えて、不覚にもどきり。と、鼓動が跳ねる。
「お……かえり」
本当は、燈だって久しぶりに会えてうれしい。笑顔が見られた上に、燈に会えたことを喜んでくれているのが、さらに嬉しい。けれど、口をついたのはそんなそっけない一言だった。笑顔だってぎこちなかったと思う。
「ただいま」
それでも、そんなそっけない燈の挨拶の言葉にも、紅二は嬉しそうに笑った。笑ってくれた。
「LINE。ありがと。スイさん」
背負っていたリュックを燈の座っている席の隣において紅二は翡翠に視線を移す。それから、ぱたぱた。と、自分自身を扇ぐように手を振った。額に汗が滲んでいる。その紅二の前に翡翠はすっきりした清涼感のある香りがする冷茶を置いた。
「うん。間に合ってよかったね」
どうやら、燈が来たことを翡翠が紅二にLINEで伝えていたようだ。いつの間に? と思うけれど、考えるだけ無駄だ。おそらくは燈が店に入るよりも前だろう。翡翠の索敵(?)範囲は想像を絶する。時折、監視用の魔符をつけられているんじゃないかと思う時がある。数年前からアングラのネットオークションで流通している花びらの形のヤツとか。
「超特急で帰ってきた。あーちゃんに会いたかったから」
燈がそんなことを考えている間に、翡翠が煎れてくれたお茶を一気に飲み干して、たん。と、グラスをテーブルに置いて、また、に。と、紅二が笑う。
「スイさん。俺もあーちゃんと同じのが食べたい」
そう言って紅二は燈の席の隣に座った。無邪気に言う紅二の言葉に笑顔で頷いて、翡翠はガラスケースを開けた。紅二は燈と違って本当にこのうちの住人だ。だから、まるで母親に『おやつを出して』と強請る子供と、それを微笑ましく見ている母親のようだと燈は思う。
「うまそー。いただきます」
翡翠が燈に出したのと同じようにシュークリームを紅二の前に置くと、紅二は手を合わせて行儀よく頭を下げてから、やはりフォークは使わずに、がぶり。と、シュークリームにかぶりついた。はみ出した生クリームがほっぺについてもお構いなしだ。そんなところは、小学生の時と全く変わらない。
「子供かよ。ほら。そこ。ついてる」
一口でほぼ半分を平らげて満足そうにしている姿に、燈は思わず笑ってしまった。
紅二とは記憶にないほど小さな時から一緒にいる。一通りの悪戯は一緒にやったし、一緒に家出したこともある。風呂だって寝るのだってずっと一緒だった。そのころから紅二は全然変わらない。
「え? どこ?」
片手でシュークリームの残りを持ったまま、もう片方の手で燈が指示したところを触って、それでもクリームが取れなくて、紅二は聞き返す。そんな仕草も、兄弟のように転げまわって遊んでいたあの頃のままだ。
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