【これはファンタジーで正解ですか?】燈編

司書Y

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告。新入生諸君

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「俺。自分のことしか考えてない」

 燈は言った。
 いい人と思われたいのではない。ただ、傷ついている人を見るのは嫌いだ。それが恋愛でも、夢でも、失って傷つく人を見るのが嫌いだ。
 だから、茉優のスレイヤーになるという望みを助けたかったし、自分に向ける感情を放置した。いつかは潰えることも、先延ばしにしているだけだということも、承知の上で。だ。
 ただ、それが、優しさではないことも、燈は知っている。
 彼女のためを思うなら、担任に相談するのが最善だったし、恋愛感情はもてないのだと彼女の気持ちに気付いたときにはっきりというべきだった。
 きっと、翡翠ならそうした。
 だから、翡翠は優しいのだ。

「スイさんみたいに……優しくなりたい」

 茉優を助けたかったことも、なんとかできると思ったことも、ひどく恥ずかしいことのように思えて、燈は俯いた。

「燈の方が、ずっと優しいよ。誰かのためになることを自分のためだと言える人が優しくないはずない。今回はちょっと……手順を間違っちゃったみたいだけど、いいじゃないか。燈。まだ、16歳だろ?」

 カウンターの向こうから手を伸ばして、翡翠は燈の頭を撫でた。優しい掌の感触にまた、心の表面が滑らかになって整っていく。

「燈は一人で頑張りすぎ。それじゃ、仲間が心配するよ?」

 翡翠の言葉に仲間たちの顔を思い出す。
 確かに彼らも最初から燈を心配してくれていた。それに、困ったことになってからも、誰一人見放したりしなかった。燈が勝手にしたことなのに、茉優をかわすために口裏合わせもしてくれた。

「俺のこと心配してくれなくていい。なんて言ったけど、燈が来ないと俺の方は心配で仕方ないし」

 自嘲気味に笑う。

「……それに。ね。紅二だって、会えなくて寂しがってるよ?」

 紅二。と、名前が出て、燈はその翡翠色の瞳を見つめた。
 嘘を言っているようには見えない。もし、翡翠が嘘を言っているのだとしても、きっと燈には見抜けない。けれど、嘘は言っていないと思う。翡翠は燈を傷つけるような嘘は言わない。

「……でも。紅二。連絡とか全然しないし。や……その。俺も全然LINEとかできなかったけど」

 紅二の中学の卒業式を過ぎたあたりから、メッセージは殆どきていない。入学式があった日に、『今日入学式だよ』と、連絡が来ただけだ。もともと、頻繁にやり取りしていたわけではないけれど、そもそもは殆ど3日と空けずに会っていたから、どんなふうにメッセージを送っていいのかわからなくて、燈の方からは連絡していなかった。
 だから、毎日。メッセージを確認しては、何もないことに勝手に落ち込んでいた。

「最近……中学の卒業式の後くらいからかな。銀狼さんのところで『おつかい』してるから、帰り遅くて。でも、帰ってくるとすぐに『今日あーちゃん来てない?』って、そればっかり。それで、俺がLINEしてみたら? っていうと、『あーちゃん、硬派だから』だって。なんだよ。それ。って思うよね?」

 銀狼とは、燈の祖父・和臣が主宰しているスレイヤー事務所の名前だ。経営などにはほとんど口出しはしていないけれど、自分のやりたいようにやりたいからと面倒くさがりながらも代表を務めている。好き放題にやっているくせに彼を慕って集まってくるスレイヤーは有能な人材ばかりだ。そこでの『おつかい』が、本当に買い出しなどただの『おつかい』でないことは確かだろう。おそらくはスレイヤーの能力を必要とする実戦だ。

「じいちゃんとこ? なんで?」

 バイトがしたいなら、電算部とは言わないけれど、学校の部活に所属するのが手っ取り早い。それなのに、わざわざ和臣に頼んで銀狼でバイトをしている理由が燈には思い当たらなかった。銀狼のお使いなんて、おそらくはただ同然でこき使われる。高額の報酬を出すと法律に抵触するからだ。

「さあ。それは、紅二自身に聞いてごらん。ほら。帰ってきたよ」

 翡翠の言葉に燈ははっとした。
 同時にからん。と、入り口のドアが開く音がして、勢いよく誰かが飛び込んでくる。

「あーちゃん!」

 息を切らせて入ってきたのは紅二だった。
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