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告。新入生諸君
4 噂 2
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「特戦2年! 神野雫でっす」
しかし、凍ったような場の空気を全く無視した明るい声が響いた。視線を移すと、手を挙げて雫がにこにこ笑っている。
「……特戦2年の真渕です」
「同じく林家です」
燈と男子生徒の間に割り込んで、鼎と宙も名を名乗った。こちらは明らかに二人とも不機嫌な顔だ。
燈をよく知らない生徒に自分がどんな風に噂されているのか知っているように、燈は何故、二人が不機嫌な顔をしているのか知っていた。
「ねえ」
一瞬。瞬きをするほどの間に、雫は一気に間を詰めて、男子生徒の目の前にいた。一般人が見たら、恐らく瞬間移動したように見えただろう。いや、一般人でなくても雫の動きを目でとらえるのは至難の業だ。
「噂ってどんなのですか?」
至近距離で顔を覗き込まれた男子生徒は驚愕の表情を浮かべていた。多分彼には雫の踏み込みは見えていない。
「ねえ。どんなですか?」
雫の瞳がグランドの照明の明かりを反射して薄青く光る。光彩が細い。まるで獲物を捕らえた蛇のようだ。
「私、知りたいなあ。……あ。でも……」
顔は笑顔のままだ。けれど、笑っていない。普段は能天気に見える雫だが、本当は燈と違って殆ど心情の変動を外に表さないタイプだ。怒っていようと、悲しんでいようと、いつも笑顔なのだ。ただ、その笑顔の中にちらり。と、その心情が覗くことが、ごくたまにある。
「……あ」
文字通り、蛇に睨まれた蛙のように男子生徒は動けなくなっていた。ゆっくり、ゆっくり、雫の手が男子生徒の顔に向かって伸びていく。こめかみを伝った汗が地面に落ちる。ず。と、小さな音をさせて、男子生徒の足が一歩後ずさった。
「酷いこと言われた……どうしよ。私、ちゃんと、許せるかな?」
くすくす。と、雫が笑う。その手は最早、男子生徒の目の前まで迫っている。
腕組みをしたまま見守っている鼎も宙も無言でそれを見ていた。
ごくり。と、男子生徒が唾を飲み込む音が聞こえた気がする。
「雫。やりすぎ」
二人が全く雫を止める気配がないから、燈は溜息をついて、雫を止めた。
「そのくらいにしとけ」
仕方ない。という表情を作る。作ったけれど、本当は仕方ないなんて思っていない。
「……」
声を掛けられた雫はぴたり。と、動きを止めた。そして、ほんの数秒だけ、そのままの格好で固まる。そのさまが、喉元までせり上がってきた怒りを身体の奥へと静める作業なのだと、燈には理解できた。
「えへへ」
一つ息をついて、視線を燈に向けた雫はいつもの笑顔に戻っていた。雫の表情の変化と同時に、鼎と宙も緊張を解く。
「ハクシンの演技だった?」
おどけて見せる雫に、燈は感謝していた。燈は諦めているつもりだけれど、祖父和臣と比較されることにコンプレックスを持っていることを電算部の仲間たちは理解してくれていた。だからこそ、3人とも自分のことのように怒ってくれる。それが、心強かったし、嬉しかった。そうして理解してくれる人がいるから、その他大勢に何と思われても、燈は腐らずに真っすぐでいられたのだ。
「はいはい。すごいすごい」
ただ、感謝を口にはしない。彼女も、鼎も宙もそんなものを望んでいるわけではないと知っているからだ。
しかし、凍ったような場の空気を全く無視した明るい声が響いた。視線を移すと、手を挙げて雫がにこにこ笑っている。
「……特戦2年の真渕です」
「同じく林家です」
燈と男子生徒の間に割り込んで、鼎と宙も名を名乗った。こちらは明らかに二人とも不機嫌な顔だ。
燈をよく知らない生徒に自分がどんな風に噂されているのか知っているように、燈は何故、二人が不機嫌な顔をしているのか知っていた。
「ねえ」
一瞬。瞬きをするほどの間に、雫は一気に間を詰めて、男子生徒の目の前にいた。一般人が見たら、恐らく瞬間移動したように見えただろう。いや、一般人でなくても雫の動きを目でとらえるのは至難の業だ。
「噂ってどんなのですか?」
至近距離で顔を覗き込まれた男子生徒は驚愕の表情を浮かべていた。多分彼には雫の踏み込みは見えていない。
「ねえ。どんなですか?」
雫の瞳がグランドの照明の明かりを反射して薄青く光る。光彩が細い。まるで獲物を捕らえた蛇のようだ。
「私、知りたいなあ。……あ。でも……」
顔は笑顔のままだ。けれど、笑っていない。普段は能天気に見える雫だが、本当は燈と違って殆ど心情の変動を外に表さないタイプだ。怒っていようと、悲しんでいようと、いつも笑顔なのだ。ただ、その笑顔の中にちらり。と、その心情が覗くことが、ごくたまにある。
「……あ」
文字通り、蛇に睨まれた蛙のように男子生徒は動けなくなっていた。ゆっくり、ゆっくり、雫の手が男子生徒の顔に向かって伸びていく。こめかみを伝った汗が地面に落ちる。ず。と、小さな音をさせて、男子生徒の足が一歩後ずさった。
「酷いこと言われた……どうしよ。私、ちゃんと、許せるかな?」
くすくす。と、雫が笑う。その手は最早、男子生徒の目の前まで迫っている。
腕組みをしたまま見守っている鼎も宙も無言でそれを見ていた。
ごくり。と、男子生徒が唾を飲み込む音が聞こえた気がする。
「雫。やりすぎ」
二人が全く雫を止める気配がないから、燈は溜息をついて、雫を止めた。
「そのくらいにしとけ」
仕方ない。という表情を作る。作ったけれど、本当は仕方ないなんて思っていない。
「……」
声を掛けられた雫はぴたり。と、動きを止めた。そして、ほんの数秒だけ、そのままの格好で固まる。そのさまが、喉元までせり上がってきた怒りを身体の奥へと静める作業なのだと、燈には理解できた。
「えへへ」
一つ息をついて、視線を燈に向けた雫はいつもの笑顔に戻っていた。雫の表情の変化と同時に、鼎と宙も緊張を解く。
「ハクシンの演技だった?」
おどけて見せる雫に、燈は感謝していた。燈は諦めているつもりだけれど、祖父和臣と比較されることにコンプレックスを持っていることを電算部の仲間たちは理解してくれていた。だからこそ、3人とも自分のことのように怒ってくれる。それが、心強かったし、嬉しかった。そうして理解してくれる人がいるから、その他大勢に何と思われても、燈は腐らずに真っすぐでいられたのだ。
「はいはい。すごいすごい」
ただ、感謝を口にはしない。彼女も、鼎も宙もそんなものを望んでいるわけではないと知っているからだ。
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