【これはファンタジーで正解ですか?】燈編

司書Y

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告。新入生諸君

3 読めない男 3

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 その公園は夜桜の隠れた名所だった。女神川学園高校の広大な敷地の東の端。体育科があるエリアの通用口から出ると、すぐに広い公園がある。その中を駅に向かってまっすぐに突っ切る道の両脇に桜の木が植えられていた。電車通学の生徒の多くが使っている道だ。
 公園は学園の一部として扱われているから、アルコール持ち込みや、宴会が禁止されているために、桜を見に来るのは殆どが学園の生徒ばかりだ。特にライトアップされるとか言うわけではないけれど、女神川学園高校体育科のサッカー部が使用しているグランドの夜間練習の明かりで夜でも桜が見られる。だから、部活を終わらせた燈たちはわざわざ遠回りして、公園の中を通って帰る道を選んだ。

「きれーだね」

 上を向いたまま、瞳をきらきらと輝かせて、雫が言った。
 燈たちのほかにも同じ制服を着た人影がちらほら見える。中にはベンチに座ってファストフードの包みを広げているものもいた。それでも、市内にあるほかの公園とは違って酔っ払いや、宴会に興じる集団がいるというようなことはない。
 静かに桜を見るにはもってこいだ。

「ホントそれ」

 背負うタイプのPCバックの肩ひもを両手で握った格好であんぐり。と、口を開けて宙は桜を見ながら答える。4人の中では一番小さい宙は一見中学生のように見えた。

「なんか、帰るだけなの勿体ないな……」

 ぼそり。と、宙が言う。

「勿体ないって……俺は試走でボロボロなんだけど」

 肩をすりすり。と、撫でながら、鼎が泣きごとで答える。
 宙が作った改訂版のプログラムは今度こそ問題なく動いたため、4人は部活終了時刻ギリギリまで粘って、スレイヤー試験対策をしていた。特戦科の生徒は2年生になるとスレイヤーのDランク免許の試験を受ける。試験は国家試験で、2か月に1回全国で行われている。どの時期に試験を受けるかは自由で、大抵は担任や監督官のスレイヤーと相談して決めるのだが、電算部の2年生は部長の命令で有無を言わせずに1回目の試験から参加することを義務付けられていた。スレイヤー免許を所持していないとできない実習(という名のバイト)があるからだ。
 とはいっても、不合格になったとしてもペナルティはない。大抵の2年生は最初の試験は受ける。試験の場の雰囲気に慣れることも大切だし、試験を受けることで見えてくる課題もあるからだ。さらには、3年生終了時までにこの試験に合格しないと放校処分になるため、1回でも多くチャンスが欲しいというのは人情というものだろう。

「本番よりはかなり厳しめに設定しているからね」

 鼎の泣き言に何故か得意げに宙が答えた。
 今日、4人がやっていたのは当然のことながら、座学と実技からなる試験の実技の練習だ。実際にはプロのスレイヤーとの模擬戦闘と数人のグループでミッションをこなす形の試験があるのだが、そのうちのミッションをこなす試験を再現したオリジナルのプログラムを宙が制作したのだ。もちろん、市販のプログラムソフトも存在しているし、学校では貸し出しもしてくれる。ただ、ミッションの内容は毎年変わるため、前例をなぞっていることにあまり意味はない。何が来ても対応できるような柔軟な訓練が必要だ。
 だから、ほぼ無限に内容が変わるソフトを宙が自作したのだった。

「や。てか、あれ。もはや実践レベルだと思う」

 実際には、危険レベルD⁻にも関わらず、何故か異常に強化されてB⁻くらいになった異形が次から次へと現れるのを思い出して、燈は顔をしかめる。そんなプログラムを体力の限界までやり込んできた後のこと。普段は『泣き言言うな』と、ツッコミ役の燈も鼎の泣き言にも頷いた。特に、先鋒の燈はクロに命令しているだけ(偏見)の鼎が疲れていて疲れないわけがない。と、思う。もちろん、プログラムの監視のため半分以上は戦闘に参加していない宙の疲労とは比べるまでもなかった。
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