【これはファンタジーで正解ですか?】燈編

司書Y

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告。新入生諸君

3 読めない男 2

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「日輪祭の出場受付は6月末だ。4月中は広く広報すればいいだろう。部員は9人じゃなくてもいいんだからな」

 話をまとめようとしているのがわかるような言い方で、和彦が言う。理由は分からなくても、燈の様子でさすがにこれ以上聞いてはいけないと察したのか、二人はそれ以上追及はしなかった。

「……それに。君らはもうすぐ第一回目のスレイヤー試験だろう? 勧誘はそれが済んでからでなくていいのか?」
 
 和彦の言葉にはっとしたように、宙が片手を上げる。彼がずっと格闘していた魔道言語のプログラムは、仮想スレイヤー試験の訓練用のものだ。

「スレイヤー試験対策の仮想プログラムできたよ。今日、試走できる?」

 宙の言葉に反応して、雫が両手を高く挙げた。

「やるやる!」

 ノリの良い雫の声に鼎の顔もぱっと明るくなったから、燈も仲間の輪に加わる。

「今度は無限回廊は勘弁してくれよ?」
 
 先日試したプログラムでは、宙が出口を作り忘れたために迷宮の中で3時間待機する羽目になった。もちろん、不定期でやってくる異形に対処しながらだ。戦闘訓練としては役に立ったかもしれないが、試験対策という意味では失敗作だ。

「あれは……李先輩が別のプログラムを急げって急かすから」

 言い訳をする宙に雫と鼎が『あのミスは……ないわ』とか、『川を渡りかけた』とか、『奢ってもらわないと心の傷が癒えない』とか、散々にツッコミを入れている。
 盛り上がる三人を他所に、燈は小さくため息をついた。ちら。と、和彦を見ると、和彦も燈を見ていたが、ふ。と、微笑を浮かべるだけで、何も言わない。言わないでくれた。そんな気遣いに小さく会釈を返す。

「……それじゃ、今日は部会だけだから俺は帰るけど。鍵は……燈。閉めたら職員室に返しておいてくれ」

 特戦の戦闘系『文化部』は部として承認を受ければ様々な面で優遇を受けられる。放課後、3つある電算室の一つをほぼ独占できるのもその優遇措置の一つだ。だからこそ、部の承認には厳格な決まりがあるし、管理には気を遣う必要があった。

「承知です」

 ちゃり。と、音をさせて、和彦が投げて寄越した鍵を燈は受け取る。一見、どこにでもあるような赤い札のついたサムターン錠の鍵に見えるが、実は特殊なもので合鍵を作ることはほぼ不可能。だから、部活動開始前に部員の誰かが職員室に借りに行って、部活が終わると返しに行くのが決まりだ。

「お疲れっした」

「お疲れちゃんです」

 和彦が立ち上がると、2年生の面々は口々に言う。電算部3年生の『アメとムチ』と部員内で密かに言われているアメの方。和彦は片手を挙げ、柔らかな微笑みを浮かべて部屋を出ていった。

「それじゃ、試走。始めますか」

 部屋のスライドドアが閉まると同時に宙が言う。残りの3人はその言葉に頷いた。

「じゃ、説明するから、集まって」

 宙の座っている席の周りに鼎と雫が歩み寄ってパソコンを覗き込む。それに続こうとして、燈はふと。立ち止まった。一瞬、和彦が出ていったドアの上半分のすりガラスから誰かが見ていた気がしたからだ。

「……あ」

 もちろん、すりガラスだから、はっきりとは見えない。内からも外からも。だ。敵意や害意があるようにも思えなかったが、小華が突然現れた時のように誰もその気配に反応している様子もない。いくらスレイヤー候補生とはいえ、普段から全方位を警戒しているわけではない。全く何の前触れもなしに、攻撃対象に近付くことなどほぼ不可能だからだ。だから、もしかしたら、一般の生徒が通り過ぎただけなのかもしれない。

「……や」

 けれど、燈はすりガラスから目を離せなかった。
 そこにいた人物が知っている人に似ていた気がしたからだ。

「燈。どうした? 始めるよ?」

 しばし考え込む燈を不審に思ったのか、宙が声をかけてきた。

「あ……うん」

 慌てて、そちらに視線を向ける。3人は心配した様子もなく燈を見ていた。

「やろう」

 なんにせよ、危険な感じは全くない。だから、気持ちを切り替えて、燈は仲間の方に歩き出す。
 ほんの一瞬。すりガラスを振り返ると、そこにはただ、いつもの廊下の色が滲んだように映るばかりだった。
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