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告。新入生諸君

3 読めない男 1

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「確か……鏑木紅二。今年入学じゃなかったっけ?」

 鼎が何気なく言った一言に、燈はひゅ。と、小さく息を飲んだ。和彦が一瞬だけ苦い顔をしてから、いつもの顔に戻る。もちろん、何も言いはしない。

「ほら……何期か前の……李先輩すら崇拝してるっていう伝説の部長の弟って。燈。知り合いなんだろ?」

 和彦や燈が見せた微妙な反応には気づかなかったのか、鼎は続ける。正直その話には触れてほしくない。と、空気を出してみたけれど、鼎が空気を読めないたちだと、燈は知っていた。

「うん、まあ」

 半ば諦めながらも、燈は曖昧に答える。その話はやめてほしい。と、口で言うのは簡単だし、言えばわかってくれると思うけれど、どうして。とは聞かれたくなかった。

「え? じゃ。その子なら電算部のこと知ってるし、よくない?」

 けれど、結局話は広がってしまった。雫が鼎の言葉に食いついてきたのだ。実際、部員の獲得のためなら、今は綺麗事とか我儘とかは言っていられない。
 いや、紅二なら本当は文句なんてつけようがない。小学生の頃から、一青が体育祭で活躍するのを見ていたし、紅二本人だってバカだけと才能はピカイチだ。
 ただ、紅二を電算部に誘えない理由が燈にはあった。

「や……その」

 必死で考えたけれど、練習してあったはずの誤魔化しの言葉はでてきてくれない。

「年上の幼馴染に誘われたら、断れなくなるだろ? うちの弟は最初から電算部に入るつもりだって言ってたからいいけど、無理強いするのは違う」

 燈の様子をみかねて、和彦が助け舟を出してくれた。和彦に全てを話したわけではない。けれど、鼎と対照的に空気を察するのが得意な和彦には燈の、少なくとも聞かれたくない。と、言う気持ちは伝わっていたようだった。

「……確かに」

 腕組みして、宙か頷く。宙もきっと、燈の様子がおかしいことに気付いているのだ。そのうえで気を使わせてしまっていることを申し訳なく思う。

「無理に誘われて入っても、きっと日輪祭まで続かないんじゃない? ギリギリで辞めるとか言われても困るよ」

 騙されて入ったのに1年間このブラック部活に在籍しているとは思えない言いぐさだが、それも正論だ。システム担当の宙には小華もほんの少し甘い。だからこそ、続いているが、全開で指導されたら理由でもなければ逃げ出したくなるし、実際逃げ出した部員の数は多い。

「その子が自分から入りたいって言うようにプレゼンしたら?」

 折角、宙と和彦が気を使って話を切り上げようとしているにも関わらず、さらに雫が話を掘り下げてきた。

「他の子よりは話早くない?」

 紅二とは仲が悪いわけではない。兄弟のように育ったし、今でも2・3日に一度は会っている。大抵のことは気兼ねなく話せる相手だ。

「燈ちゃん、聞くだけでも聞いて……」

「紅二は」

 なおも話を続けようとする雫を燈は遮った。

「電算部には入らないよ」

 きっぱりと、言い切る。
 そう言い切るだけの確信があったし、燈には紅二に対してそれを蒸し返すことができない理由もあった。そして、そのことについて当事者以外の誰にも触れられたくなかった。

「燈?」

 普段、燈は喜怒哀楽が激しいと評されることが多い。けれど、友達も多いし、馬鹿なことで、盛り上がったり、笑ったり、怒ったり、喧嘩したり、平均的な高校生男子よりは少し大げさかもしれないけれど、おおむね普通の範疇に入っているはずだ。
 だから、きっと、雫や鼎は知らない。燈かこんな表情をする理由。
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